第40話〜再会〜
「・・・じゃあ、お世話になりました。アヤさん」
普通の人なら、まだ夢の世界にいる時間。
その時間に、セレンとニグレドはエブロズィークの家から出ようとしていた。
「もうちょっとゆっくり出来ないの?」
「シェリナーさん待たせてるし・・・ユニィちゃんの顔をみたら、大都に帰るのが辛くなりそうだから」
そういってセレンは、軽く笑って見せる。
その姿を見て、アヤも微笑む。
「そう・・・何時でも帰って来ていいからねぇ。ここはセレンちゃんの家でもあるんだから」
「もちろをニグちゃんもよっ!」と言って、ニグレドに向けて指を差した。
「ありがとアヤさん、じゃあ・・・行って来ます」
「いってらっしゃい、セレンちゃん・・・ニグちゃん」
そういってアヤは、二人に手を振った。
彼女に見送られながら、二人はアルフィの村を離れて行った。
「・・・一言も喋って無かったけど、良かったの?」
「・・・ああ。俺の帰る場所は、大都の研究施設だけだ」
そうとだけ言って、ニグレドの足元に闇素スティアが集まり始める。
次の瞬間、ニグレドは自分の影に包まれ、消えた。
あわててセレンも、風素スティアを収束、トップスピードで大都に向かった。
「おはようございます、アヤさん」
「あら、クラスちゃん。おはよう」
二階から、クラスが降りて来た。
クラスの目に映ったのは、朝食の準備をするアヤの姿だった。
「アヤさん、何か手伝う事はありませんか?」
「そうねぇ〜・・・じゃあ入り口にある桶に水を汲んでおいてくれる?素石の加工に使うの。・・・あっ、家の裏に井戸があるから、そこで汲んでねぇ」
「分かりました」
クラスは入り口に行き、桶を持ち上げる。
そして、入り口の扉を開き、家の裏の井戸に向かった。
家の裏には、古びた井戸があった。
「・・・よいしょっ」
普段は、こんなこと言わなくても軽々しく水など汲めるのだが、今日は何となく言ってみた。
(人らしく・・・ですか)
多くの人に言われた、『人らしく生きろ』と言う一言。
まだ詳しくは分からないが、フォルカ達と旅をしていて、何となく分かり始めた気がする。
彼らはよく笑い、よく泣き、よく怒り、よく助け合う。
ナイトの元に居たときには感じなかった、温かな感じが彼らからは溢れている。
そのせいか、自分も微笑む事が多くなった気がした。
水を一杯に汲み終わったので、クラスは帰ろうとした。
その時・・・。
「クラスッ!!」
自分の名前を呼ぶ、ずっと聞けて無かった声が聞こえた。
「・・・っ、エリアルッ!!」
元気に走って、こちらに近づいて来るエリアル。
クラスは桶を地面に置き、飛び付いてきた彼女の体を抱き締めた。
「フォルカッ、フォルカッ!!」
部屋の扉を、力強く何度も叩く。
その音を聞いて、不機嫌そうにフォルカは体を起こした。
「・・・どうしたのクラス?こんな朝っぱらに」
「急いで支度をして下さいっ!私は他の人達も起こして来ます!」
そういうと、足音がどんどん遠ざかっていった。
クラスがあそこまで焦っているなんて、余程の事が起こったのだろう。
フォルカは体を起こし、急いで身支度をした。
「えぇーっ!!?セレンちゃん達がいなくなったと思ったら、エリアルお姉ちゃんが生き返ってるぅーっ!!?」
「勝手に殺さないでよっ!!」
ユニィは、エリアルを死者の様に言った。
それに対し、鋭く突っ込みを入れる。
「全く、静かになったと思ったら・・・また騒がしくなったな」
ドールが、心底呆れた物言いで言う。
しかし、口元には微かに笑みが浮かんでいる。
彼女もまた、旅を通じて変化し始めているのであろう。
「ウェルトッ、相変わらず自分の神を貫いているようですねっ!」
「ようっ、シスカ!テメェもそろそろ、俺を信仰する僧侶第一号になってみるかっ!?」
「ハハハッ!僕の信仰する神は、まだまだ現役だよ」
こっちの二人は、知り合いらしく、楽しそうに話していた。
「いやぁ〜・・・まさかテメェがエリアル嬢ちゃんを拾ってたとはな。まっ、エリアル嬢ちゃんには俺の加護があるから当然だろう!!」
「君の加護もあるだろうけど、僕の信じる神も、ここまで導いて下さったんだよ。あっ・・・それって、半々の加護が彼女に宿っているってことじゃっ!」
「二人して話を広げんじゃないわよっ!収拾つかなくなるでしょうがーっ!!」
エリアルの突っ込みで、大の大人僧侶二人は、笑い出した。
「ハハハッ!!本気な訳ないでしょエリアルッ!」
「大人のジョークが分かんねぇんだなっ、エリアル嬢ちゃんはっ!!」
「〜〜〜〜ッ!!!」
完全に二人のペースに乗せられ、エリアルは顔を真っ赤に染め、僧侶達の頭を思いっきり殴った。
「フフフッ、エリアルちゃん・・・だっけ?あの子が来て、皆の表情が明るくなった気がするわぁ」
「エリアルが無事で、皆嬉しいからだと思います」
もちろん私も、と付け足して、クラスが微笑んで言った。
アヤも、微笑み返して来た。
その時、もの凄い勢いで階段を降りる音が響く。
「エリアルッ!!」
「フォルカッ!」
普段は絶対と言っていいほど出せないくらいの大声で、彼女の名前を呼ぶ。
「良かった、無事だったんだ!」
そういってフォルカは、エリアルに抱きついた。
無論、余りの嬉しさの反動で・・・。
「ちょ・・・っ!フォルカッ!!」
エリアルは必死に、フォルカを引き剥がそうと両手に力を込める。
しかし、フォルカの体は全くと言っていいくらい動かなかった。
離れないくらい心配してくれていたと思うと、何となく彼を引き剥がす気が薄れる。
しかし、周囲から感じる視線がそれを上回るほど恥ずかしかった。
(・・・後で一発殴ってやるっ!)
心にそう誓い、エリアルは、今は久しぶりに感じる温もりを、素直に受け止める事にした。