第32話〜始動〜
「・・・んっ」
フォルカは目を開く。
すると、すぐにエリアルの顔が視界に入る。
「エ・・・リアル?」
「フォルカッ!よかった、ちゃんと起きてくれたっ!!」
エリアルが勢いよく抱きついてきて、フォルカは顔を真っ赤にした。
「わあぁっ!エリアルッ!!?」
「あ〜っ!フォルカお兄ちゃん、顔真っ赤だよ!」
ユニィの指摘で、改めて抱きつかれていることを認識してしまい、フォルカは更に顔を赤くする。
「フォルカの顔・・・トマトみたいです」
「フンッ、思春期真っ只中の若造が。フィニカ様なら軽くあしらっておられるところだ」
天然的感想を言うクラスと、鋭く突っ込んでいるようでフィニカの事を神聖視するドール。
双方の以外にもダメージがある言葉と、エリアルに抱きつかれているという事実で、違う意味でまた倒れそうになる。
「フォルカ君、倒れたって聞いたけど大丈夫?」
そんな時、シスターが救世主に匹敵するタイミングで部屋に入って来た。
「あっはい、もう大丈夫です」
「それはよかったわ。・・・早くウェルトの口からも、その言葉を聞きたいわ」
シスターがチラッとウェルトの方を見る。
そして、悲しそうな表情を浮かべた。
「ウェルトさんなら、きっと・・・いえ、絶対に大丈夫です。だから、待ってあげて下さい」
「フォルカ君・・・ありがとう。そうね、私達が待ってあげないとね」
シスターが、自分に言い聞かせたその時・・・。
「・・・んっ」
「「「っ!!」」」
ウェルトの方から、声が聞こえた。
全員が一斉に、彼の寝ていた方へ振り向く。
目に入ったのは、数時間ぶりに起きた、子供らしさの残る青年の姿だった。
この瞬間を、どれほど心待ちにしていた事か・・・。
「ウェルトッ!!」
エリアルが近くに駆け寄る。
そんな彼女の方に顔を向けて、ウェルトはゆっくりと目を開いた。
「・・・エリアル嬢ちゃんか、相変わらず元気そうだな」
「私も元気にしてたよっ!!」
そういいながら、ユニィが頭からウェルトに特攻を仕掛けた。
彼女の頭は、見事にウェルトの腹部を捕えた。
「ぐふうっ!!・・・ユニィ嬢ちゃんは、もう少しその有り余った元気を抑えろよ・・・」
「無理っ!この日の為に、力を温存してたんだから暴れたいのっ!!」
急に、騒がしくなる。
しかし、そんな騒がしさがなんとなく落ち着きを与えた。
「全く・・・騒がしい奴らだな」
口では冷たく言っているドールだが、どことなく楽しそうだった。
「フォルカ・・・ウェルトさんも起きたことですし、そろそろこの町を出発しませんか?」
「あっ・・・うん、そうだね」
そういってフォルカは、シスターの方へ近づいた。
「シスター、何か知っていることはありませんか?クロムのことでも、アルフィのことでも、なんでも構いません」
「そうね・・・素石のことは知ってるかしら?」
シスターの言葉に、首を横に振る。
するとシスターは、素石のことを話してくれた。
「素石・・・スティアが石に蓄積され、スティアによって色や性質が変わる宝石の様なものね。素石は色でスティアの属性を判別し、その色と同じスティアをある程度制御出来るようにするものよ」
そういってシスターは、フォルカの素器を指差した。
「素器にも素石は使用されているわ。フォルカ君のは・・・あら珍しい、光素石が使われているわね」
「・・・僕の素器は珍しいんですか?」
ええ、とシスターは言って説明してくれた。
「光素石自体は珍しくないのだけど、素器には使われることが滅多にないのよ。火素スティアや水素スティアの方が、物理的なダメージが与えられるから」
「へぇ〜・・・」
改めてフォルカは、自分の素器を見る。
そして、力強く握りしめた。
「・・・そうだわ、素石のことを詳しく知りたいならアルフィの村に行くといいわ。あそこには、素石に詳しいエブロズィークさんがいるし・・・」
「エブロズィークッ!?」
フォルカはユニィの方を見る。
忘れている人もいるだろうが、ユニィのフルネームは『ユニィ・エブロズィーク』である。
「ユニィッ!」
「なぁ〜に?フォルカお兄ちゃん」
ユニィはウェルトから離れて、フォルカの方へ近づいた。
「ユニィ、お母さんの名前は何ていうの!?」
「ママの名前?アヤ・エブロズィークだけど、それがどうしたの?」
ユニィの言葉を聞いて、シスターがこういった。
「あらあら貴女、エブロズィークさんの娘さんだったの?どうりで雰囲気が似てる訳だわ」
フォルカは、ユニィに必死に頼み込む。
「ユニィお願いっ!アルフィの村に案内して!!いろいろな事が分かるかもしれないんだ」
「いいよ〜、特に面白くはないけどね」
ユニィの承諾を得て、フォルカはホッとした。
そして、旅の仲間たちにこういった。
「みんな、目的地はアルフィの村でいいかな?」
「いいんじゃない?行きましょ」
「了解しました」
「・・・私に断る理由はない」
三人からは了承を得ることが出来た。
フォルカはウェルトの方を向く。
「ウェルトさんはどうしますか?この町に残ってもいい・・・」
「行くに決まってんだろうが、今更連れてかねぇなんてなしだぞ」
そういってウェルトは、シスターに近づく。
「・・・ちょっくら、兄弟の面拝んでくるわ」
「家族の事、思い出したのねウェルト」
「ああ」
短い返事の後、小声でシスターに何か話していた。
少しして、シスターはウェルトの胸元にそっと手を置いた。
「そう・・・そこにいるのねエト。・・・ウェルトのこと、守ってあげてね」
そういってシスターは、ウェルトから手を離す。
そしてその手を自分の胸元の前で握りしめ、祈りながらこういった。
「司祭の分まで祈ります、貴方たちに神のご加護があらんことを・・・」
「おうっ、じゃあ行ってくる」
ウェルトはシスターに背を向ける。
そしてフォルカたちの方へ歩みより・・・
「行くぞ、ボウズ」
とだけ言った。
フォルカは頷き、ウェルトと並んで教会の出口まで歩きだした。
その後に、残りのメンバーも続いて歩きだした。
廊下に響く、乾いた音。
音の主は、黒衣に身を包んだ四素騎士の一人、ニグレドだった。
「来たわね、ニグレド」
「何だシェリナー、用事と言うのは?」
廊下の壁にのさがっているのは、こちらも四素騎士の一人、神脳のシェリナーであった。
「ちょっと実験に使う素石が切れそうなの。だから、アルフィの村に行って素石を取って来て欲しいの。案内役にセレンを同行させるわ」
「・・・了解した」
そういって、ニグレドはシェリナーに背を向け歩き出した。
しばらくの間、廊下を歩く靴の音だけ響く。
外へと出られる扉付近に、見覚えのあるクリーム色の髪の毛が見えた。
「あっ、ニグレドお兄ちゃん」
「セレン、任務がでた。アルフィの村までの案内を頼む」
「知ってるよ。だからここで待ってたの」
そういって、セレンは自分の身長以上の大きさの大剣を、風素スティアを使用して体の横に浮かせる。
「だが・・・大都の研究者に、素石を渡してくれるのか?」
「大丈夫っ、私はシェリナーさんのお使いで何回も取りに行ってるし〜、素石の扱いが上手なアルフィは私の知り合いだよ」
「・・・そうか」
ニグレドは、外へと続く扉に手で触れ、力を込める。
扉は、キィ・・・と静かに音を立て開いた。
「任務開始だ、行くぞセレン」
「うんっ!」
セレンの足元には風素スティアが、ニグレドの足元には闇素スティアが展開される。
次の瞬間、二人の姿はすでになくなっていた。
「・・・二人は行ったよ、マスター」
「・・・そうか」
研究施設の頂上付近の部屋の窓から、ナイトが二人の出撃を見て言った。
部屋の奥では、一人の男性が書類に目を通していた。
男性は綺麗な黒髪のショートヘアで、オールバックになっているのが特徴的だった。
「計画は順調なの?」
「ああ・・・二人が素石を持って帰れば、かなり完成形に近づく」
「そうなんだ、楽しみだな・・・」
そういってナイトは、部屋にある見るからに値が張りそうなソファーに座る。
「あっちは成功すると考えて、残すはクラスのみだ」
男性は書類を机に置き、ナイトに目を向ける。
そして、自分のクロムであるナイトにこういった。
「ナイト・・・お前は再びクラスの奪還にあたれ」
「了解です・・・」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、ナイトは勢い良く立ち上がった。
そして、部屋の扉を開け出るという時に、
「じゃあ行ってきます、マスター『ヴィステル・バステーア』」
と言って、部屋を出た。
ヴィステルと呼ばれた男性は、ナイトが部屋を出たのと同時に、再び書類に目を通し始めた。