第31話〜記憶〜
「おはよう、フォルカ」
「あっ、エリアル。おはよう」
朝7時頃、フォルカはエリアルと廊下で会った。
「ウェルトのとこに行くの?」
「うん、エリアルは?」
「クラス探しよ。私が寝てる間に、どこか行っちゃっててね」
クラスとは、昨夜ウェルトのいる部屋で会った。
おそらく彼女のことだから、あのあともずっとウェルトのことを見ていた可能性があった。
「多分・・・ウェルトさんのとこだよ、昨日の夜に会ったし」
「マジッ!?本当クラスって心配性なんだから」
そういった後に、小さい声で「まっ、私も心配だけどね」と言った。
「あっ、エリアルにフォルカ」
背後から、エリアルの探していた者の声がした。
「クラスッ、どこか行くならちゃんと言ってよね!」
「すいません、エリアル」
「クラス、ウェルトさんの様子はどう?」
フォルカの質問に、クラスは首を横に振る。
「フォルカ、エリアル、私はウェルトさんの食事を念のため取って来ますから、彼の様子を見ていて下さい」
「うん、わかった」
「まかせてっ」
その言葉を聞いて、クラスは厨房へ向かった。
フォルカ達も、ウェルトのいる部屋に向かった。
「やっぱ起きてないわね」
「うん」
目をつぶったままの彼を見て、クラスの取ってくる食事も無駄になるのかと、フォルカは思った。
そんな時、フォルカの腰元が光りだす。
「・・・?」
フォルカは腰元のポケットに入れていた、素器を取り出す。
素器から発していた光は、どんどん強くなる。
「わわっ、なんで!?」
「どうしたのフォルカ?」
エリアルの声が聞こえた瞬間、目の前が真っ白な光で包まれた。
「フォルカッ!!?」
エリアルの声は、もう彼には届いていなかった。
「・・・んっ」
目を開けたフォルカの前には、真っ黒な空間しかなかった。
「エリアルッ、ユニィッ」
声を出して名前を呼ぶが、返事は聞こえない。
「ドールッ、クラスッ」
名前を呼び続けるが、やはり返事はない。
「・・・何なんだよ、一体?」
立っている感覚がしない。
体が宙に浮いている様な、何とも不思議な感じが、フォルカの体を襲う。
「えっと・・・確か僕の素器が急に光りだして、気がついたらここにいて・・・」
状況を整理し始めるが、全く分からなかった。
「うぅ〜、全然わからないよ・・・っ?」
頭の中がごちゃごちゃになってパニック状態の中、目の前にいつの間にか扉が出現していた。
扉には、“Wellt-o”と書かれた木札が掛けられていた。
「扉・・・何で急に出てきたんだろう。 それにこれって“ウェルト”って書いてある」
フォルカは試しに、ドアノブを回して見る。
鍵はかかっておらず、スムーズに回る。
少し開けて中を覗いて見ると、フォルカのいる空間とは真逆の、真っ白い空間が広がっていた。
「ウェルトさん・・・いるんですか?」
フォルカが一歩踏み出す。
しかし黒空間とは違い、体は浮かず急降下する。
「うわあぁああぁ〜〜っ!!!」
下に落ち続けていると、床が見えた。
白の正方形が何個も連なった、誰でも一回は見たことのある床だ。
フォルカはその床に、勢いよく頭から落ちた。
しかし、当たった時に音は一切出ず、フォルカ自体も全く痛くはなかった。
“痛・・・くない、何で”
そういったとき、後ろから声が聞こえた。
フォルカが振り向くと、そこには薄茶色で短髪の子供がいた。
見た感じでは五、六歳くらいに見える。
子供は積み木をしていて、積み重ねては壊している。
「・・・違う、こんな形をつくりたいんじゃない」
声の低さからして、男の子だと言うことがわかった。
「また積み木をしてるのか、ウェルティオ」
先ほどは何もいなかった背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
顔だけ声のした方に向けると、ウェルト似の青年が立っていた。
「うん、でもいいのが出来ない」
「そうか・・・」
青年は男の子の方に歩きだす。
そして男の子の隣に座り、長方形で赤色の積み木を手に取った。
「手伝ってやろうか?」
「・・・うん、ありがとうディシア」
二人は協力しながら、積み木を積み重ねていく。
あと少しで完成するという所で、ウェルティオと呼ばれた少年は右手を横に振り積み木を崩す。
「ウェルティオ・・・」
「ごめんディシア、でも・・・俺の望んだ形じゃなかった」
そういってウェルティオは立ち上がり、ディシアに背を向けた。
「何で俺はディシアと違うんだろうな・・・同じ人から生み出されたのに」
「・・・お前は“強さ”を求め、その強さにあった人格へ成長するようにプログラムされている。俺は姿を変えず、細かいスティア制御を出来るようにつくられた」
ディシアは右手を顔の前くらいまで上げ、光素スティアを集めて刃を形成する。
「だが・・・俺たちはヒトの兄弟と何ら変わりはない、そうだろウェルティオ」
「そうだねディシア、だからこそ嫌なんだ・・・強さを求めてしまうこのプログラムが」
ウェルティオは両手を力一杯握り締める。
その仕草を見て、ディシアが呟く。
「お前は強さにあった人格形成を行う際、早くその環境に慣れる為に過去の記憶を自動消去してしまうからな」
ディシアの一言に、ウェルティオは彼の方を向き、勢いよく抱きついた。
「俺・・・ディシアのこと忘れたくない」
「ウェルティオ・・・」
抱きついてきたウェルティオの頭を、ディシアは優しく左手で撫でる。
「もし・・・お前が俺のことを忘れてたら、俺が思い出させてやる。お前が俺に拳を向けるなら俺も刃を向け戦う。殺す為じゃない、思い出させる為にだ」
「ディシア・・・」
ウェルティオはディシアから離れる。
そして、微かに微笑みこういった。
「・・・絶対に思い出させろよ、兄貴」
気付いたら二人の姿はなく、フォルカだけ白い空間に立っていた。
“・・・今のって、ウェルトさんの過去なのかな?”
だとしたら、ウェルトはディシアと兄弟ということになる。
“最後にディシアのこと兄貴って呼んでたから、ウェルトさんが弟だよね”
自分なりの考えを述べていると、再び声が聞こえて来た。
「本当に・・・この町は素敵なところですね。司祭の故郷ですし」
「シスターに気に入ってもらえてよかったよ。まぁ・・・ホント何にもないところだがな」
「そこがいいんですよ、にぎやか過ぎるのは苦手ですから」
風景と登場人物が急に変わり、フォルカは少し戸惑う。
“なっ・・・ここは、ミセットタウン?それにあそこにいるのは・・・若いシスターと司祭だよね?”
二人は楽しそうに、町の入り口付近を話しながら歩いていた。
「騒がしいのは苦手ですが・・・子供は授かりたいです」
「そうだな・・・」
道を共にして四年、普通なら子供を既に授かっていてもおかしくない月日である。
しかし、二人の間にはまだ子供が授からないのだ。
「子供を授かったとしたら・・・司祭は男の子と女の子、どちらがよろしいですか?」
「私は・・・男の子がいいな。元気に育ってもらいたいしな」
「フフフ・・・そうですね、お外で元気に走り回る姿が見たいですね」
こんな感じで話していると、シスターの足がピタッと止まる。
「・・・?どうしたシスター」
「いえ・・・あそこに子供が」
司祭は、シスターが指を差す方を見る。
そこには、確かに子供が立ってこちらをじっと見ていた。
「どうしたの、町の外は危ないからこっちに来なさい」
シスターの呼び掛けに、子供はゆっくりとこちらに近づいてくる。
近くに来た子供の服を見て、二人は息を飲んだ。
この子の服は、ひどく汚れているうえボロボロだった。
「君っ、何があったんだ!? 親に何かされたのか!?」
「・・・何のこと?」
子供は首を傾げる。
「だって貴方の服・・・ボロボロじゃないの。親に何か暴行されたんじゃ」
シスターが子供の肩に手を置く。
「違う。これは俺が森を通った時に魔物と戦って、その時にボロボロになった」
「魔物だとっ!?」
司祭が大声を出す。
見た目五歳くらいの子供が魔物と戦って来たと言うのだ。
「一人で魔物を倒すなんて・・・貴方、強いのね」
「俄かに信じ難いが・・・森を抜けて来たのだから本当なんだろう。・・・まるで言い伝えのようだ」
「言い伝え・・・?」
司祭の一言に、子供は食い付いた。
シスターは肩に置いていた手を除け、説明を始めた。
「言い伝えはね・・・『我らが神、子供の姿をして害をなすものを浄化す』と言うものよ」
「神・・・?何それ」
再び頭の上に?マークを浮かべ、子供は首を傾げた。
「神と言うのは、簡単にいえば世界で一番強い存在だ。ただ強いだけではない、多くの人に愛され、多くの人を守るのが神だ」
「神・・・一番強い、人を守る・・・」
子供は目を閉じ、自分に暗示をかける様に司祭の言葉を繰り返した。
そして、目を開きこういった。
「俺・・・神になる!」
その言葉を聞いて、シスターは微笑みながらこういった。
「神様になるの、ならうちの教会に来ない?両親が許してくれたらだけど」
「親・・・覚えてない、どこから来たのかも」
その一言に、二人は驚いた。
「そうか、なら教会に来なさい。君の名前は?」
「えっと・・・ウェ、ウェル・・・ウェルトッ、ウェルトだよ。・・・多分」
「そう、じゃあ今日からよろしくねウェルト」
シスターが差し出した手に、ウェルトは頷きながら手を伸ばした。
“・・・・・・”
フォルカは、黙ってウェルトを見ていた。
知るはずのなかった他人の記憶。
それを自分は見てしまった、知ってしまったのだ。
“僕の素器って一体・・・あっ、あれは”
考えようとした時、景色は白に変わり、見覚えのある人物が現れた。
“ウェルトさんっ!!”
「・・・ボウズッ、何でここに?」
フォルカはウェルトに説明した。
自分の素器が光りだしたこと、気がついたらここにいたこと。
そして、ウェルトの記憶を見てしまったことを。
「そうか・・・ボウズも見ちまったか、俺の記憶。なら・・・俺の正体も分かっちまったか 」
「えっ、そこは見てないです」
「・・・なら教えてやんよ、俺の正体」
ウェルトは一回深呼吸して、口を開いた。
「俺とディシアは、シェリナーによって生み出された『プシュケ』と言う新型の種族らしい。スティアを制御出来るのは、アルフィの遺伝子と光素スティアを元にヒト型に形成したからだそうだ」
“うそ・・・シェリナーにつくられたんですか?ウェルトさんとディシアは”
「そうだ」といってウェルトは頷いた。
フォルカは喋ろうにも言葉がでず、口だけ動き上手く話せない。
「言葉にならない・・・ってところか。無理もねぇ、敵の幹部クラスにつくられた奴と一緒に旅してたんだしな」
そういって軽く笑うウェルトが、どことなく寂しそうに見えた。
「なんつうか・・・いやな奴だな、俺。子供ん時から人様に甘えてた・・・ディシアにしろ、司祭達にしろ、たくさんの奴らに世話になってんのに一人でデカくなった見たいなこと言ってよ」
“・・・あのっ”
フォルカはようやく言葉を口にする。
ウェルトはそれに、静かに耳を傾ける。
“それは・・・皆がウェルトさんのことを、心の底から大好きだからじゃないですか? 血の繋がりはなくても・・・本当の家族だって思っているからだと、僕は思います。嫌いなら、お世話なんてしないと思うし・・・”
「ボウズ・・・」
ウェルトが、フォルカに近づく。
そして頭に手を置き、髪の毛がグシャグシャになるくらい撫でた。
“わっ・・・”
「あんがとなボウズ、今ので大分気持ちの整理が出来た」
“今の?”
「ボウズの言ったこと、なんつうか・・・励まされた。だから、あんがとな」
ウェルトの顔に、笑顔が浮かぶ。
久しぶりに見た彼の笑顔は、どことなく幼さがあった。
“・・・ウェルトさん、帰りましょう。エリアル達が心配してました”
「・・・そうだな、久々にあいつらの面が見てぇしな」
視界が急激に白へ変わり始める。
フォルカは思わず目を閉じた。
そんな時、微かに声が聞こえた。
「じゃあ・・・また後でな、フォルカ」
“えっ・・・”
ウェルトに名前で呼ばれたことに動揺し、名前で呼んだ理由を聞こうとした時、意識は途絶えた。




