09.二手に分かれる勇者達
結界を張った、僕。
さて、さっさと廃棄神を倒しに行きましょ~。
「ジャガーさん背中に乗っけて」
『うううぅ……無理っすぅ~』
無理?
どうしたんだろう。
ジャガーさん、伏せ状態になって、プルプルと震えているぞ。
「どうしたんですか?」
『自分、王都に行きたくないっす……』
「え……?」すっ。
『短剣で脅しても無理なもんは無理っす! 自分、いけねーっす!』
うーん、説得(物理)にも応じる感じが、ジャガーさんから感じないぞ。
「ジャガー殿、これを飲むでござるよ。気持ちが落ち着くでござる」
オタクさんがアイテムボックスから、薬瓶を取り出す。
ジャガーさんの口にくわえさせる。
んぐんぐ。
『あ、きもちが楽になったっす……!』
「それは良かったでござる。拙者、調剤のスキルも持っておりましてな。これは拙者の作った精神安定のポーションでござるよ」
ほほう、オタクさん、調剤スキルなんて持ってるんだ。
「でも弓の聖武具で、なんで調剤スキル?」
「正確にいうと【毒生成】ってスキルなのでござる。本来なら矢じりに塗布する毒などを作るスキルなのでござる。それを人助けに応用できないか模索した結果、毒から薬を作れるようになったでござる!」
なるほど、わからん。
オタクさんが凄い人ってことくらいしか。
『毒と薬は表裏一体。だから毒から薬を作れるわけか。でも薬を生成できるようになるためには、たゆまぬ研鑽が必要だったはず。オタク君は、努力家だね』
とヒキニートさんがオタクさんを褒めてる。
ヒキニートさんの言ってることはさっぱりわからないけど、オタクさんが凄いってことはわかった!
「で、どうしたでござる? ジャガー殿。どうして、王都にはいけないのでござるか? 怒らないから教えてほしいでござるよ」
と優しい調子で、オタクさんがジャガーさんに話しかける。
薬のおかげで精神が安定したのか、ジャガーさんが語りだす。
『……イラ様から、念話が入ったんす』
「イラ?」
だれぇ?
『憤怒の魔王、炎王【イラ】じゃ』
僕の頭の上で、スぺさんが教えてくれた。
「七大魔王の一人? なんでジャガーさんに念話が?」
『自分、イラ様の眷属って言ったじゃないですか?』
「そうでしたか」
『完全に忘れ去られてるっす! ひどい!』
あんまりにも興味なかったので忘れていたや。
『で、王城へ向かおうとした瞬間、イラ様から念話が入ったっす。近づくな、近づいたら……こ、殺すって……』
ううん?
どういうことだろう。近づいたら殺すって……。
『イラ様の発言の真意はわからなかったっす。けど、殺意はマジモンでした。だから……申し訳ないっす。勇者のお二人にはお力貸せそうにないっす。ごめんなさい』
大きな体を小さく丸めて、ぺこりと頭を下げるジャガーさん。
うーん、足がなくなるのは困るなぁ。
まあでも、上司には逆らえないよね。
「大丈夫ですよ。オタクさんたちと徒歩で王都へと向かいますので」
ゲータ・ニィガ王都は、国の中央やや北寄りに位置する。
僕らは国の外れにいる。歩いていくとそこそこ距離あるけど、まあ大丈夫!
僕にはいくら歩いても疲れない勇者の靴があるし。
それに、オタクさんが一緒の旅なら、ぜんぜん退屈じゃないもんね!
「じゃあ、ジャガーさんとは別れて、いきましょうか、オタクさん」
「啓介殿……申し訳ない!」
がば! とオタクさんが頭を下げる。
え、え、なに? なになに? どうしたんだろ!
「ど、どうしたんですか?」
「拙者も別行動をとらせてほしいでござる」
「ええええええええええええええええええええええええええ!?」
そんなぁ!
やだやだ、オタクさんと別れるなんていやだぁ!
『自分の時との差がひでえっす……』
『啓介君にとって、ジャガーノートは真の仲間じゃなかったんだろうね』
『いやそうかもしれないけど、切ないっす!』
うわぁん、なんでオタクさん別れちゃうの!?
「拙者、王都周辺の町で、魔物の被害を受けてる人たちを、助けたいのでござる」
? それってどういうこと?
『さっき君が助けた町の人が言ってたろ? 国内で魔物が同時多発的に発生してる。国民は魔物の被害に遭ってて困ってるって』
とヒキニートさんが言う。
「拙者、困ってる人たちをほっとけないでござるよ。でも、啓介殿は先に進みたいのでござるよね?」
「うん……王都の廃棄神の首を取りたい……」
早く経験値欲しい。
「邪悪なる存在から経験値たくさんとって、ミサカさんの呪い、解いてあげたいんです……だめなことですか?」
「いやいや! だめなことではござらんよ! それも立派な人助けでござる! ただ……」
ただ?
「啓介殿が見えてない場所にも、困っている人たちがいるのでござるよ? それはわかりますかな?」
「うん……わかる」
前以外にも、困っている人はいるんだろうと思う。
けど……。
「わかるでござるよ。見えない人たちより、目の前に居る人を助けたい。その気持ちは否定してないでござる」
オタクさんが微笑みながら、僕の頭をなでてくる。
そこから感じられるのは、オタクさんが僕のこと、嫌ってないってこと。
別れるって言われたとき、僕はオタクさんに見捨てられたんじゃって思ったんだ。
それが怖かったんだ。否定されたくなかった。
「拙者はただ、役割分担をしようと言ってるのでござるよ。啓介殿は前! 拙者はそれ以外で、困っている人たちを協力して助ける!」
「協力……」
「そう! 拙者と啓介殿は仲間ではござろう?」
「! 仲間! うん! そうだね!」
オタクさんは僕のこと、仲間って言ってくれた!
嫌われてないんだ! やったぁ!
「啓介殿、手分けしてこの国を救いましょう!」
「うんっ、わかったよ!」
くる、とオタクさんはヒキニートさんを見て言う。
「ということで、セーバー殿。申し訳ないが、啓介殿のことを、お任せしたいでござる」
『うぅ~………………。うぅう~~~~~~~~~ん。……わかったよ。この小さな悪魔をほっとくほうがやばいしね。監視役は必要か』
リトル・デビルってだれのことなんだろ……?
(※↑)
「ジャガー殿。可能であれば、拙者を背中に乗せて、困っている人の下へ運んでほしいのでござる。位置はこちらで指定するでござるよ」
『わかったっす! 協力するっす。イラ様から止められてるのは王都へ行くことだけ。それ以外なら、協力するっす!』
「ありがとうでござる。ただ、体調が悪くなったらすぐに言ってほしいでござる。無理は禁物でござるよ?」
『お心遣い感謝っす! さすが勇者様は、お優しいっす!』
わかる~。
オタクさん優しい!
僕のことも、さっき否定しなかったし!
ということで、僕・ヒキニート組(withヘルメスさん)と、オタクさん・ジャガーさん組に分かれた。
『オタク君。君に困ったときのお助けアイテムをあげよう』
と、ヒキニートさんがオタクさんにアイテムを渡す。
「おお、かたじけない! 啓介殿にはないのでござるか? 拙者一人もらったら申し訳ないのでござるよ」
『きみほんとに日本人……? 聖人の間違いじゃないの?』
わかる、ヒキニートさんと違って、オタクさんってすごい人間が出来た人だもんね!
「いえいえ、拙者はしがない勇者でござる。さ、皆様、協力して、この国を救いましょうぞ!」
「「「おー!」」」
まあ正直そんなにこの国に対して、思い入れがあるかと言われると、答えはNOだ。
でもオタクさんがこの国を救いましょうって言ったからね。
廃棄神討伐をしたい僕らからすれば、まあ、目的の達成の過程にこの国の救助があるから……。
ま、助けてあげても良いかなって思う。
でもワルージョ、あなたは許さない。
僕だけならいざしらず、オタクさんにまで酷いことしたんだもん!
「では、啓介殿、ヘルメス殿、セーバー殿。これにて失礼でござる! ジャガー殿、運転よろしくでござる!」
ジャガーさんは翼を広げると、オタクさんを乗せて、ものすごいスピードで飛んでいく。 さて。……さて。うぅ。
「はふん……オタクさんいなくなっちゃった。スペさーん」
僕はさみしくなって、スペさんをぎゅっとする。
『おお、ケースケよ。もっとぎゅっとしていいぞ? 辛いときには、ふわふわモコモコの人形をぎゅーっと抱きしめると、幸せな気分になるからの』
「うん。ぎゅー」
『ぬわはは! オタクよぉ! 悪いな、ケースケの一番の友は、この我じゃ!』
はぁ……スペさんのふわもこぼでぃ、落ち着く……。
うん、少し元気になったよ。
「じゃ、いきましょうか……」
『露骨にテンション低いね君……』
「まあ」
『……そこは嘘でもそんなことないですよって言ってほしかったね……』
「? なんでですか?」
友達がいなくなったんだから、テンション下がるでしょう?
『で、どうするんだい? 歩いて王都へ行くのかい?』
「ううん。徒歩だと時間かかるから。すぐ行って、すぐ終わらせたいし」
『ぼくとの二人旅は嫌なのかい……?』
「まあ」
『否定して! 泣いちゃうよぉ!』
「よしよし、泣かないで」
『だれのせいだとっ!』
まあそれはそれとして。
「この方法なら、すごく早く王都につけるかなって! スペさん除く」
スペさんに乗っかれば、すごく早く移動できる。
でも彼女は僕以外を乗せるつもりはないといって聞かない。
ヘルメスさん(とセーバーさん)がいるから、スペさんに乗れないし。
『どうするんだい?』
「蠅王宝箱!」
『は? 蠅王宝箱って……おいおい、それって吸い込みスキルだろ? いったい何をするつもり……』
はっ! とヘルメスさんが何かに気づいた顔になる。
「け、ケースケ様……ま、まさか……我が主の塔に上るとき同じで……?」
惜しい。近いけども。
僕は蠅王宝箱で触手を伸ばし、近くの森にあった大樹を収納。
「吸い込んだ大樹を、今度は同じくらいの勢いで、射出!!」
カバンからはものすごい勢いで、大樹が吐き出された。
ぎゅぅうううううううううううううううううううん!
「すかさず……じゃんぷ! とうっ!」
僕は大ジャンプ!
同時に、蠅王宝箱から触手が伸びて、スペさんとヒキニートさんにからみつく。
僕は投げた大樹の上に座る。
すごい勢いで空をかけていく。
「これならドラゴンが居なくても、空を飛べるもんね!」
『おお、すごいのぉ! ケースケは人間なのにこんな速く飛べるとは! しゅごいのじゃ!』
『いやこれ飛んでないから! ただ投げた大樹に乗っかってるだけだからぁ!』
僕らを乗せた大樹は、王都へと向かってすっ飛んでいくのだった。
【★大切なお知らせ】
好評につき、連載版をスタートしました!
『【連載版】スキル【無】の俺が世界最強〜スキルの無い人間は不要と奈落に捨てられたが、実は【無】が無限に進化するSSS級スキルだと判明。俺をバカにした奴らが青ざめた顔で土下座してるけど、許すつもりはない』
広告下↓にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
リンクから飛べない場合は、以下のアドレスをコピーしてください。
https://ncode.syosetu.com/n2689ja/