24.魔王、降臨!
僕は妖精郷へとやってきている。
ついに見つけた巨大蟲の卵。
すでに破裂寸前のそれを回収しようとした、僕の前に、反転魔族が現れて邪魔してきた!
でも能力、煉獄で丸焼きにした。
「よし! これで回収を……!」
と、そのときである。
『動くんじゃあねええええええええええええええ!!!!!』
振り返ると、そこには……。
「反転魔族! まだ生きてたのか!?」
丸焦げになったはずの、巨大ゴキブリこと、反転魔族。
彼が立ち上がり、腕を剣に変えて、ディートリヒさんの首元にあてていた。
「すみません……勇者殿……」
「ディートリヒ! ちくしょう……人質なんて、卑怯だぞ反転魔族!」
にちゃあ……と粘ついた笑みを浮かべながら、反転魔族は言う。
『うるせよぉお! それよりいいか、おまえが一歩でも勝手に動いたら、こいつの命はないと思え!』
『なんと卑怯なやつじゃ! 見た目同様、中身もゴキブリかおぬしは!』
頭の上のスペさんが、反転魔族を非難する。
だがやつは、まるで気にした様子もなく……。
『いいんだよ! 勝てばよかろうなのだぁ……!!!!!』
……現在、ディートリヒさんが反転魔族に人質に取られている。
でもそっちにかまけている暇は正直ない。
ぴしっ、ぴきっ……!
僕の背後には、巨大蟲の卵があって、今にも破裂しかけている。
回収は、一瞬だ。蠅王宝箱が使えれば、一瞬で回収はできる。でも……。
相手は動いたらディートリヒを殺すつもりだろう。
蠅王宝箱の発動には、一瞬だけでいい、やつの注意をそらす必要がある……。
「勇者殿! 私にかまうな! 自分のなすべきことを遂行なさってください!」
……とは言うけど、皇女を見殺しにはできない。
かといって、このままだと巨大蟲の卵がかえり、その衝撃はで帝国が……終わる。
そうなったら……オタクさんが悲しむ……。
「…………」
僕の前には二つの道がある。
帝国を救うか、ディートリヒさんを救うか。
一番被害が少ないのは、ディートリヒさんを見捨てることだ。
あの人一人を見殺しにできれば、帝国は助かる。でも……。
「いやだ……」
そんなの嫌だ。
ディートリヒさんも、ここまで一緒に旅した、友達だもん。
ご飯食べて、いろいろ教えて、ここまできた……。
彼女を見捨てられない。
『カバンのガキぃ! 取引だぁ! おまえのそのくそカバンをこっちに渡しやがれ! そうすりゃ、この女は解放してやんぜえ!』
……! カバンを渡せ……だって?
『ケースケ! だめじゃ! おぬしは聖武具がなければスキルも、能力も発動できん!』
……そうなんだ。
つまり、カバンを手放すってことは、勇者じゃない……ただの佐久平啓介になってしまう。
非力な存在になってしまうってこと……。
つまり、僕が……あいつに殺される。
ディートリヒさんが助かるなら……この体を、犠牲に……?
「…………」
むかっ。
むかむかっ。
むっかぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!
なんか……すっごく腹が立つんだけど!
なんで、こんなゴキブリの言うことなんて聞かなきゃいけないんだ!
僕は……誓ったんだ!
ミサカさんに!
この世界を、自由に旅するって!
なのに! あのゴキブリは!
僕の、ディートリヒさんの、他人の自由を奪おうとしてる!
ゴキブリの分際で!
調子乗るなよ……!
【くふっ♡ あーーーはっはっは!!!!!!!!】
そのとき、僕の脳裏に、女性の声が聞こえた!
これは……ルクスリアさんの声!
【大好きっ! もぉ~~~~~! けーちゃん大好き! 気に入った!】
け、けーちゃん……?
僕のことだろうか……?
【そうよ♡ あ、声出しちゃだめ。今、この声は貴方にしか聞こえてないから】
そうなんだ……。
【そ♡ ねえ、けーちゃん、お姉さんと契約しない?】
色欲の魔王さんと……?
【うん♡ すぺちゃんとも契約したんでしょ? お姉さんともしてほしいなぁ。そうするとね……】
ぼしょぼしょ、とルクスリアさんが、僕に契約特典を教えてくれる。
それは……破格の条件だ。
そんなことができるようになるなんて……。
【どう? お得よ?】
……僕は、ルクスリアさんを受け入れることにした。
そして……二人で作戦を立てる。
【OK。じゃ……作戦開始ね】
はい、あの……どうして僕を気に入ったの?
【そのすべてを諦めない、わがままっぷり……かな? 高慢があなたを気に入るのがわかった気がする。強欲、暴食あたりも、貴方を気に入りそうね♡】
……ほかの魔王さんか。会ってみたいなぁ。
【すぐ会えるよ♡ さ……けーちゃん、ふぁいと。踏ん張りどころよ】
僕は覚悟を決める。
よし……。
「わかった! 反転魔族さん! 僕はカバンを渡す! その代わり、ディートリヒさんを解放して!」
『ケースケ! だめじゃ! こんなやつが約束を守るわけなかろう!?』
スペさん、ごめん。
だますようなまねをして。ゴキブリが約束を守らない?
そんなの、想定内だ。
『ぎゃっはは! いいぞぉ! ほら、こっちに投げやがれ!』
僕はカバンを取り外す。
「……スペさん」
『む?』
スペさんにだけ聞こえる声で話す。
『……何か考えがあるんじゃな?』
「……うん」
『わかった……』
スペさんがころん、と落ちる。
「そっちに、投げますよ!」
『ああ、ばっちこい!』
僕はカバンを、思い切り投擲!
緩やかな放物線を描き、勇魔のカバンが飛んでいく。
やつが、地面に落ちたカバンを手に取り、にやぁ……と笑う。
『あっさり手放したな、おまえの大事な聖武具をよぉ!』
「はい。だから、ディートリヒさんを解放してください!」
『いいぜえ、解放してやるよぉ……』
にぃ……! と反転魔族が邪悪に笑う。
『おまえら全員を、死の恐怖からなぁ……!』
反転魔族はディートリヒさんを突き飛ばす。
そして、自分の黒い聖武具を、巨大蟲の卵めがけて放り投げる。
「そんな!? 剣が卵に……逃げてください! 勇者どのぉ!」
ディートリヒさんの叫び声がむなしく響く。
剣が巨大蟲に、突き刺さる。
今にもふ化しかけていた、破裂寸前の卵。
そこに刺激を与えればどうなるか……。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
~~~~~~
《チャラオ視点》
ぎゃは!
ぎゃはははは!
ばーかばーか!
カバンのガキのばーかぁ!
このオレが約束なんてよぉ、守るわけねーだろばーーーーか!
「ぎゃはっは! オレの勝ちぃいいいいい!」
巨大蟲の卵大爆発!
結果、近くにいたあのカバンのくそガキが、爆発をもろに受けた!
周りにいた赤い髪の、ディートリヒとかいう女も!
メイドのヘルメスとかいうやつも!
みーんな消し飛んだ!
そしてこの妖精郷も!
帝国もぉお! みーんなみーんな、消し飛ばしてやったぜええ!
その証拠に、目の前には荒野が広がっている!
ぎゃはっはあ!
「オレの勝ちだぁ……!」
「誰の?」
「そりゃもちろん……お…………れ…………え、えええええええええええええええええええええええええええ!?」
そんな……!
あ、あり得ない!?
「か、カバンのガキぃ!? なんで生きてやがるぅうううううううううう!?」
あのカバンのガキ! けーすけとか言ったガキが!
五体満足で……生きてやがるのだ!
「お、おまえは爆発をもろに食らって死んだはずだろうが!?」
「はい、死にました」
「はぁああ!? じゃあなんで生きてるんだよぉ!?」
そのときだ。
「うふ♡ それは……お姉さんの力よ♡」
ふわり、と。
カバンのガキの隣に、一人の……エロい格好の変な女が現れたのだ!
最初、天使かと思った。
だが、翼の色が黒いし、それに、腰から生えている。
「サキュバス!?」
「ま、種族はそうだけど……お姉さんはただのサキュバスじゃないわ♡」
そいつは、痴女みたいな格好をしていた。
肌をこれでもかって露出してる。
ボンテージ風の、革紐みたいな服を着てる。
局部を隠して、後それ以外は全部肌を露出する……普通に露出狂みたな格好!
紫がかったつややかな長い髪。
赤い瞳。そして……赤いフレームのめがねをかけた……エロ天使。
「お姉さんの名前は、色欲の魔王、ルクスリア♡」
「色欲の魔王!? なんで……魔王がここに!?」
「あの卵の中に取り込まれてたのよん」
「はぁ!? じゃ、じゃあなおさら……どうしておまえがここにいるんだよぉお!」
「簡単よ。けーちゃんが、あの卵の中から、回収してくれたから」
「なにいぃ!?」
あ、あり得ない!
「ど、どうやって! あいつには、聖武具がないんだぞ!?」
オレの手の中に、やつのカバンがしっかり握られてるんだ!
けーすけが何をできるってんだ!
「それは……よく出来た偽物です!」
「偽物だぁ!?」
『そうじゃ!』
え!?
オレの持っているカバンの表面に、にゅ……と顔が生える!
ぽんっ!
『我、参上!』
「てめえは! フェンリル!? ぐあぁあああああああああ!」
フェンリルはでかくなると、突進かましてきやがった!
オレはよけられず、ぶっ飛ばされる。
『ふん! あほなおまえに教えてやろう! カバンを投げる時、我が変化して、カバンになったのじゃ! ケースケが投げたのは、カバンに変化した我! 本物はこっそりと隠し持っていたのじゃ!』
ち、ちくしょう……!
『爆発の寸前、あの一瞬で聖武具を使って、魔王を回収してやがったのか! オレが勝ちを確信したその油断をついて!』
『そうじゃ! ケースケは爆発のエネルギーごと、魔王ルクスリアを収納しておったのじゃ!』
つ、つまり……。
「帝国は……無事!?」
『そうじゃ! エネルギーを吸い込んだからの! といっても、全部じゃないが』
森は消し飛んだが、帝国まるごと消し飛ばす作戦は失敗に終わったわけか!
ちくしょう!
『だ、だがよぉお! おまえと……そして、ディートリヒやヘルメスは、爆発を受けた! 特にカバンのガキは、死んだはずだ!」
「そこで、お姉さんの出番ってわけ。けーちゃん♡」
ガキはうなずくと、手を前に出して叫ぶ。
「夜王薬箱!」
瞬間、エロ天使こと、ルクスリアが翼を広げて宙に舞い上がる。
そして……。
「みんな、元気になぁ~れ~♡」
ちゅっ、と投げキッスをする。
すると……ハートマークの何かが飛んでいき、ディートリヒとヘルメスの死体に当たる。
かっ……!
コォオオオオオオオオオオオオオオ!
光が二人を包み込む!
焼死体二つが、みるみるうちに戻っていくではないか!
「う、うう……」「ここは……?」
ば、ば、バカな!?
『死者を蘇生させた!?』
『ええ、これがお姉さんと契約した、けーちゃんの新しい力。夜王薬箱。死者すら復活させる、超治癒術よ。ま、制限はいろいろあるけどね』
ディートリヒとヘルメスのもとへ、けーすけが走る。
そして、二人を抱きしめる。
「ごめんなさい、二人に、痛い思いさせちゃって……」
「気にしないでくだされ、勇者殿!」「そうです、わたしたち無事ですから!」
二人がガキを抱きしめ返す。
……なんてことだ。
おれの作戦は……全部失敗ってことじゃないか。
卵で帝国を吹き飛ばすのも失敗したし、人質を取ってあのガキを殺すのも、失敗した。
そのうえ、蘇生術なんてチートを、あいつに身につけさせてしまった!
「おい」
ぞくっ、とするような声が、あのガキからする。
ガキは、オレに冷たいまなざしを向けていた。
「よくも、僕の大事なものを、傷つけようとしましたね」
「あ、あ……ああ……」
かたかた、と体が恐怖で震える。
あのガキの背後に、死神がいるのを、幻視する。
「おまえは、もう許しません。……スペさん、やろう」
『おう!』
ぴょんっ、と子犬の魔王が、カバンの上に乗っかる。
「僕は死んだことで、条件をクリアしたみたい。そして、聖武具の、新しい力を解放したんだ」
『せ、聖武具の……新しい力……?』
ずずずずず……とやつの持つカバンが……。
『か、カバンが黒く! ま、まさか……! 黒い聖武具!?』
やつも、オレと同じ黒い聖武具を!?
「顕現せよ、【呪武具・高慢なる勇魔の鞄】!」
瞬間……やつのもつ黒い鞄から、黒い突風が吹き荒れた!
「ぐあぁあああああああああああああああああああ!」
オレは思わず吹き飛ばされる。
やつの鞄からは、荒れ狂う暴風のような、魔力があふれ出ていた!
「おまえは、もう許さない。首を置いてけなんて言わない」
赤い眼、そして黒い魔力。
高慢の鞄とやらを携えたガキは、勇者とはとても思えない。その姿は……まるで……。
「その首を、引きちぎって、グチャグチャにしてやる!」
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