22.チャラオ、魔族に堕ちる
《チャラオ視点》
オレ、は目を覚ます。
「…………」
呆然と、空を見上げていた。
……体を起こして、思い出すのは、オレを倒したあのガキ。
カバンを持った、黒髪のガキ。
オレと一緒にこの世界に召喚された勇者だ。
「あんな……外れ野郎に……オレは……」
カバンなんて外れ聖武具を持ち、見下していた相手。
そんなあいつに……オレは……負けてしまった。
剣なんていう、いかにもな強武器をもち、剣の鬼と呼ばれるようにまでなった……この……オレが。
あんな……やつに……。
そのときである。
PRRRRRRRRRR♪
ポケットの中で、何か音がした。
それは、王家の宝、遺物と呼ばれる特別な魔道具。
これは【通信機】といって、離れたところのやつと、会話できる魔道具だ。
ようはケータイだ。
こんな異世界にもケータイがなぜかあったのだ。
でもすごい貴重なもの。王家が保存していた遺物であり、四大勇者にのみ、支給されていた。
通信機の、通話ボタンを押す。
本音を言えば出たくなかった。しかしそれをすると、後でもっと怒られる。
オレはしぶしぶ通話する。
「は、はい……」
『チャラオ。首尾は、どう?』
「わ、ワルージョ……様……」
ワルージョ。ゲータ・ニィガ王国の、女王であり、オレの【ご主人様】だ。
オレはワルージョから、あのガキを捕らえるよう、密命を受けていた。
『首尾は?』
「あ、いや……」
……ここであのガキを逃がした、とは、いえなかった。
一度目(そんときは、あのガキ=カバンの勇者とは知らなかったが)だけならまだしも、二度も、オレはあんな廃棄やろうに負けてしまったのだ……。
言えるわけが……。
『もう、いいわ。失敗したのね』
冷たく、ワルージョが言い放つ。
そこにどこか、オレへの失望を感じられて、慌てて言う。
「ま、待ってくれ! 頼む! もう一度チャンスをくれ!」
『もうすでに二度も負けてるでしょう?』
「た、確かに……そ、そうだけど……で、でもよぉお! 今度は……! 今度こそは……!」
『ふぅううう……。あなたには失望したわ。剣の勇者、チャラオ』
ワルージョが、言う。
『あなたを、追放する』
「………………は?」
『あなたを騎士団長からクビにし、身分を剥奪のうえで、国外追放とする、と言ったのよ』
……最初、意味がわからなかった。
だが次第に頭が理解してしまう。自分は……捨てられたのだ、と。
弓の勇者と、同様に。
「ま、待って……待ってくれってぇ!」
だが、ワルージョはもう通信に出てはくれなかった。
こちらからかけても無駄だった。
「う、嘘だろ……冗談だよな……?」
だが、オレは知ってる。
あの女は、やると言ったらやる女だ。
そばで彼女の行いを見て。
だから、彼女が発言を撤回しないことを、知ってるんだ。そして……。
「オタク野郎も……」
飯田オタク。
あいつは最後まで、いなくなったカバンの勇者を探そうとした。
ワルージョに反対したあいつは、お尋ね者扱いされたうえに、国外追放。
今もあいつはゲータ・ニィガには出禁になっている。
また、王国では、あいつは大犯罪者扱いされてる。今もだ。
「…………」
オレは理解した。
ワルージョにとって、勇者は駒にしか過ぎないんだ。
使えないとわかった駒は……ぽい。
今思えば、カバンのガキもそうだったのかもしれない。
使えないから、捨てた。簡単に死んだことにされる。
強大な権力者。それがワルージョ。
で、オレはワルージョに捨てられた。
……もう、この国にオレの居場所は……。
「う、ぁ……ああぁあああああああああああ!」
この世界に来てもう結構な時間がたつ。
オレはここで、勇者としてちやほやされて生きてきた。
だから、帰れないとわかっていても、耐えることが出来た!
でも!
もう勇者扱いされない!
オレは……じゃあ、どこで生きていけばいい!? どうやって!? 何として!?
この世界に、オレの居場所なんてないのに……!
と、そのときだった。
「その気持ち、よく、わかりますよ。剣の勇者」
「!? だ、誰だ……!?」
黒い、女。
ぱっと見の印象はそれだ。
黒いドレスに、真っ黒な髪の毛。
黄色い肌。
「に、日本人……?」
「ええ。そのとおり。私もあなたと同じ【廃棄勇者】の一人よ」
「は、廃棄……勇者……?」
聞いたことない単語だが、しかし、意味はわかる。
捨てられた、勇者ってことだ。
オレやオタクやろう、そして……あのカバンのガキも。
「私は、あなたをスカウトに来たの」
「スカウト……?」
「ええ。あなたも、廃棄勇者の仲間にならない?」
「…………」
「一人でいるのはさみしいものよ? 私たちは同じ仲間。手を取り合って、この世界……ぶっ壊してしまいましょう?」
「世界を……壊す……?」
ええ、と黒い女がうなずいた。
「あいつらは、私たちをこの世界に理不尽に連れてきた。これは拉致よ! 勝手に拉致しておいて、用がなくなったら……ポイ。むかつかない? むかつくわよね?」
……黒い女の言葉が、オレの中に入ってくる。
どす黒い感情が、芽生える。
「むかつく……」
「憎いでしょう?」
「憎い……!」
「なら……ね? 仲間になりましょう?」
「ああ! なる! オレは、おまえたち廃棄勇者の仲間に!」
すると女は、にぃ……とうなずく。
そして、指を鳴らした。
「じゃあ、貴方に力を授けるわ」
瞬間、足下から何かが這い上がってきた。
「う、うわぁああ! な、なんだぁ!?」
大なムカデみたいな、黒い虫が、オレの足を駆け上ってきた!
「いや、やめろおぉおおおお!」
虫はオレの口の中にはいってく……く、くる……くるう……くうるうぅ……きたぁあああああああああああああああああああああああああ!
ばき!
ぼき!
ぼこぼこ!
オレの体が変わっていくぅ!
体に力がみなぎってくるぅううううう!
この万能感! 今のオレなら、なんでもやれそうだぁああああああああああ!
「ふふ……バカな男」
『うぉおおおおおおおおおおお! 力がみなぎるぅううううううううううううううう!』
オレは、気づいたらでっかくなってた!
でかくて、黒い……なんかすっげーのになってた!
「じゃあ、勇者チャラオ……いいえ、反転魔族【剣のチャラオ】」
『反転、ま、……ぞく? 剣の……チャラオ……?』
「ええ、それが貴方の新しい名前。さ、好きなように世界を壊しなさい」
『うひゃひゃ! わかったぜぇ! リーダーぁ……! この反転魔族! 剣のチャラオ! 好きなようにすべてを壊してやるぅうううううううう!』
だん! とオレは飛び上がる。
こちらの世界にきて、でっぷりと太ってしまい、素早く動けなくなっていた!
だが、いま!
オレの体は! 羽が生えているかのように、軽い!
『うぎゃはははあ! ん……? ああ! あいつはぁ……!』
オレは、見つけちまったぁ……!
カバンのガキだ!
『あのカバンのガキぃ! オレを馬鹿にしたやつが、そこにいるぅ! あいつを殺してもいいんだよねえ!?』
「ええ、どうぞお好きに」
黒い女の声が耳元で聞こえてきた。
剣の勇者……いや、反転魔族さまは! にやりと笑うぜ!
『殺し! くびり殺してやるぜ、カバンの勇者ぁ……! このオレ! 魔族となったこのオレがぁ……! おまえをぶっ殺してやるぅう!』
ぎゃはは!
ぼこして、ころして、最後は首を切って、さらし首にしてやろうかなあ!
ぎゃーーーーはっはっはぁ!
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