131.
魔族王の城門へと続く巨大な跳ね橋。
その手前で、僕たちの足が止まった。
バチバチバチッ!
空間が紫色の火花を散らしている。
目に見えない巨大なドーム状の壁が、城全体を覆い尽くしていたのだ。
「あ、あわわ……っ! これは『絶望の帳』です!」
リコが顔面蒼白で叫ぶ。
「魔族王様直属の『結界師団』が百人掛かりで展開している、物理・魔法完全遮断の絶対防御です! 正規の手順で解除しない限り、蟻一匹通れません!」
「へぇ。なるほど」
僕は興味なさげに鼻を鳴らす。
確かに高密度の魔力だ。
普通の魔法使いなら、触れた瞬間に黒焦げになるだろう。
「蟻は通れないかもしれないけど、僕たちは通るよ」
「えっ? で、でも……どうやって……」
「スペさん、出番だよ。起きて」
僕は自分の頭の上で丸まっている、白い毛玉をツンツンと突いた。
『むにゃ……? なんじゃ主殿、良いところで呼び出しおって。昼寝の最中じゃったのに……』
僕の頭上から、不満げな声が降ってくる。
そこにいたのは、手のひらサイズの愛らしい子犬――の姿をした、神狼フェンリルだ。
普段は魔力節約と昼寝のために、このサイズに縮んで僕の頭を定位置にしている。
「散歩の時間だよ。目の前のコレ、邪魔だからどかしてくれ」
『ん? なんじゃ、ただの魔力の壁ではないか』
スペさん――スペルヴィアは、僕の頭からピョンと飛び降りた。
スタッ。
地面に着地した瞬間、彼女の愛らしい姿がブレる。
影が爆発的に膨れ上がり、周囲の空間を圧迫するほどの神気が溢れ出した。
『こんな薄皮一枚で、我と主の道を塞ぐとは片腹痛いのう』
光が収まると、そこには月光のように輝く銀色の毛並みを持つ、巨大な狼が顕現していた。
見上げるほどの巨体。
金色の瞳は、あらゆる生命を威圧する王者の輝きを放っている。
「ひぃっ……!? お、狼……!? さっきまで可愛かったのに!?」
リコが腰を抜かす中、スペさんは巨大な鼻を鳴らした。
『退がっておれ、小娘。巻き込まれても知らぬぞ』
スペさんは一歩、前へと踏み出す。
彼女は結界に向かって、その強靭な顎をカッと開いた。
「えっ……ま、まさか……!?」
リコの絶叫を置き去りに、スペさんは躊躇なく、その不可視の壁へと喰らいついた。
ガブッ!!
ベキベキベキッ!!
硬質な音が響き渡る。
何もない空間に亀裂が走り、紫色の電撃が悲鳴を上げて飛散した。
スペさんは、最高位の防衛結界を、まるで薄焼き煎餅か何かのように噛み砕いたのだ。
『バリ、ボリ……。ふん、湿気ったビスケットの味がするわ』
「好き嫌いするな」
『文句を言うな。ほれ、通れるぞ』
パリーンッ!
スペさんが食い破った大穴を起点に、城を覆っていた結界全体がガラス細工のように崩壊した。
紫色の空が晴れ、城への道が完全に開かれる。
「……う、嘘ぉ……」
リコが呆然と口を開けている。
「魔界最強の盾が……たった一口で……」
「さあ、行こうか。魔王様が首を長くして待ってるはずだ」
僕はスペさんの背中をポンと叩き、崩れ落ちた結界の破片を踏みしめて城内へと足を踏み入れた。
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