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【書籍化】カバンの勇者の異世界のんびり旅 ~実は「カバン」は何でも吸収できるし、日本から何でも取り寄せができるチート武器でした~  作者: 茨木野
第4部

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132/138

132.

 城内は、外観以上に禍々しい空気に満ちていた。

 黒曜石でできた床は底なしの闇のように黒く、壁には苦悶の表情を浮かべた悪魔のレリーフが彫り込まれている。

 肌を刺すような冷気と、濃密な瘴気。

 一般人なら、立っているだけで発狂してもおかしくないレベルのプレッシャーだ。


「ひぃぃ……。あ、足が……足が前に出ませんんん……」


 リコがガタガタと膝を震わせ、生まれたての子鹿のようになっている。


「ケ、ケースケさん……! ここは『嘆きの回廊』です! 侵入者を感知して、壁の中から無数の槍や毒ガスが噴き出す、魔界でも指折りの処刑通路なんですよぉ!?」

「へぇ。面白そうな仕掛けだね」

「面白くないです! 死にます! 確実に死にますぅ!」


 リコが涙目で警告するが、僕はまるでショッピングモールでも歩くかのように、スタスタと足を進める。

 僕の隣には、恋人のアイが寄り添っている。

 彼女は周囲の殺風景な景色には目もくれず、僕の腕にギュッと抱きつき、上目遣いで甘えてくる。


「ねえケースケ君。今度のデート、ここにする? ちょっと暗いけど、二人きりになれるわよ?」

「はは、それも悪くないね」

「もぉー! 二人とも正気ですかぁぁぁっ!?」


 リコの絶叫が廊下に響き渡った、その時だった。


 ゴゴゴゴゴゴ……ッ!


 不穏な地響きと共に、通路の両脇に並んでいた巨大なガーゴイル像が一斉に動き出した。

 その数、二十体以上。

 石造りの翼を広げ、真っ赤に光る眼で僕たちを捕捉する。


「ああっ! で、出たぁぁぁっ! 『殺戮の石像兵ガーゴイル・トルーパー』です! 物理攻撃無効、魔法耐性特大、動くものはミンチになるまで殴り続ける地獄の番犬――」


 リコが解説を終えるより早く、先頭のガーゴイルが巨大な石槍を振りかぶった。

 速い。

 音速を超えた一撃が、僕たちの頭上へと迫る。


 だが、僕は動かない。

 動く必要がないからだ。


「――邪魔」


 僕の隣で、アイがポツリと呟いた。

 彼女は指一本動かさない。

 ただ、その美しくも冷徹な瞳で、襲い来る石像の群れを「視た」だけだ。


 パァンッ!!


 破裂音が響いた。

 アイの視線が突き刺さった瞬間、先頭のガーゴイルが内側から爆散した。

 それだけではない。

 連鎖するように、後続のガーゴイルたちも次々と粉砕されていく。


 ドガガガガガッ!


 まるで透明なプレス機に押し潰されたかのように、堅牢な石像兵団が一瞬にしてただの砂利の山へと変わった。


「……目障りよ。ケースケ君との時間を邪魔しないで」


 アイは冷たく言い放つと、すぐに「えへへ」と僕に向かって愛らしい笑顔を見せる。

 その切り替えの早さが可愛い。


「……え?」


 リコが口をパクパクさせて、砂利の山を見つめている。


「視た……だけ……? 最強の番犬が……睨まれただけで全滅……?」

『…………』


 ヒキニートさんもまた、無言でその光景を眺めていた。

 しかし、数秒後。


『――ッ! いかん!』


 ヒキニートさんがハッとしたように声を上げた。


『スルーしてしまった! 今の超常現象を、「ああ、アイちゃんなら普通だよね」と納得してツッコミを入れなかった!』

「何やってんのさ」

『ち、違うんだ! 最近、お前らが規格外すぎて、ぼくの感覚が麻痺してきている! 「視線で破壊? あるある」じゃねーよ! おかしいだろ!』


 ヒキニートさんが頭を抱えて悶絶する。


『くそっ……! ぼくとしたことが……毒されている! お前らのチートに毒されて、正常なツッコミ判断ジャッジができなくなっているぅぅぅ!』

「うるさいなぁ」


 一人で葛藤するヒキニートさんを尻目に、僕たちは砂利の山を踏み越えて、さらに奥へと進んでいくのだった。

【おしらせ】

※2/11(水)


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