132.
城内は、外観以上に禍々しい空気に満ちていた。
黒曜石でできた床は底なしの闇のように黒く、壁には苦悶の表情を浮かべた悪魔のレリーフが彫り込まれている。
肌を刺すような冷気と、濃密な瘴気。
一般人なら、立っているだけで発狂してもおかしくないレベルのプレッシャーだ。
「ひぃぃ……。あ、足が……足が前に出ませんんん……」
リコがガタガタと膝を震わせ、生まれたての子鹿のようになっている。
「ケ、ケースケさん……! ここは『嘆きの回廊』です! 侵入者を感知して、壁の中から無数の槍や毒ガスが噴き出す、魔界でも指折りの処刑通路なんですよぉ!?」
「へぇ。面白そうな仕掛けだね」
「面白くないです! 死にます! 確実に死にますぅ!」
リコが涙目で警告するが、僕はまるでショッピングモールでも歩くかのように、スタスタと足を進める。
僕の隣には、恋人のアイが寄り添っている。
彼女は周囲の殺風景な景色には目もくれず、僕の腕にギュッと抱きつき、上目遣いで甘えてくる。
「ねえケースケ君。今度のデート、ここにする? ちょっと暗いけど、二人きりになれるわよ?」
「はは、それも悪くないね」
「もぉー! 二人とも正気ですかぁぁぁっ!?」
リコの絶叫が廊下に響き渡った、その時だった。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!
不穏な地響きと共に、通路の両脇に並んでいた巨大なガーゴイル像が一斉に動き出した。
その数、二十体以上。
石造りの翼を広げ、真っ赤に光る眼で僕たちを捕捉する。
「ああっ! で、出たぁぁぁっ! 『殺戮の石像兵』です! 物理攻撃無効、魔法耐性特大、動くものはミンチになるまで殴り続ける地獄の番犬――」
リコが解説を終えるより早く、先頭のガーゴイルが巨大な石槍を振りかぶった。
速い。
音速を超えた一撃が、僕たちの頭上へと迫る。
だが、僕は動かない。
動く必要がないからだ。
「――邪魔」
僕の隣で、アイがポツリと呟いた。
彼女は指一本動かさない。
ただ、その美しくも冷徹な瞳で、襲い来る石像の群れを「視た」だけだ。
パァンッ!!
破裂音が響いた。
アイの視線が突き刺さった瞬間、先頭のガーゴイルが内側から爆散した。
それだけではない。
連鎖するように、後続のガーゴイルたちも次々と粉砕されていく。
ドガガガガガッ!
まるで透明なプレス機に押し潰されたかのように、堅牢な石像兵団が一瞬にしてただの砂利の山へと変わった。
「……目障りよ。ケースケ君との時間を邪魔しないで」
アイは冷たく言い放つと、すぐに「えへへ」と僕に向かって愛らしい笑顔を見せる。
その切り替えの早さが可愛い。
「……え?」
リコが口をパクパクさせて、砂利の山を見つめている。
「視た……だけ……? 最強の番犬が……睨まれただけで全滅……?」
『…………』
ヒキニートさんもまた、無言でその光景を眺めていた。
しかし、数秒後。
『――ッ! いかん!』
ヒキニートさんがハッとしたように声を上げた。
『スルーしてしまった! 今の超常現象を、「ああ、アイちゃんなら普通だよね」と納得してツッコミを入れなかった!』
「何やってんのさ」
『ち、違うんだ! 最近、お前らが規格外すぎて、ぼくの感覚が麻痺してきている! 「視線で破壊? あるある」じゃねーよ! おかしいだろ!』
ヒキニートさんが頭を抱えて悶絶する。
『くそっ……! ぼくとしたことが……毒されている! お前らのチートに毒されて、正常なツッコミ判断ができなくなっているぅぅぅ!』
「うるさいなぁ」
一人で葛藤するヒキニートさんを尻目に、僕たちは砂利の山を踏み越えて、さらに奥へと進んでいくのだった。
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※2/11(水)
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