急 決断
原宿駅を降り立った若者は須らくも或る種の異様な光景を見た。明治神宮へ至る道、門の傍に雑多な制服を着た警備の人間が乱立していた。多くは警察の制服を着ていたが、見慣れぬ制服を着ていた警備もおり、皆背が高く筋肉質な体形であった。本能的、或いは直観的に理解できる事があった。この先で何が行われているのか?普通の警官も居れば、機動隊も存在し、背の高い白人も黒人も居た。セキュリティレベルの高さが示されていた。明治神宮一の鳥居の前には、特別な事情のために立ち入りを禁止しています。ご不便をおかけいたしますが、ご協力をお願いいたします。そんな旨が立てかけられていた。
「なに?撮影?」
そんな原宿のギャル達は彼らの異様な光景を撮影しようとするが、不思議な事にカメラも動画撮影機能も作動しなかった。
「誰が来てんだ?マイケルジャクソン?」
一方。御苑内見晴らしの良い丘には円卓の机と椅子が用意されていた。一人、既に座っている人物がいた。正午きっかりの時間を二時間も前に座り、どこかを見つめ、或いは目をつむって、考え事をしているかのようだった。
「…」
そして彼はチラリと空を見た。否。上空成層圏にも到達している天空城ラピュータに向かって微笑んだ。最高戦力会議。それは、決して力を持つ者だけで行われるクローズな環境ではない。一定以上のセキュリティを持つ者ならば、なんなら会議内容すらも聞ける或る意味オープンな会議である。最高戦力という現場における最大の責任者が顔を突き詰めて話し合う場所。それは個人と個人の思惑同士が重なるのではなく、国と組織、友人、義理、義務、ビジネスも含めて複合的な意味合いも極めて大きいものである。
「彼女が出席できない!?行方不明?ガードも?」
直前になってノクターンの所在が不明による出席不可が確定した。会議の主役ともいえる存在が空白になった瞬間だった。
「ええ。こちらでなんとか穏便に済ませるわ。そっちもお願いね」
如月は通話を切って、珍しくため息をついた。
「こういう時って、大体悪い方へ流れてくのよね。昔から。それも最悪のが」
時刻は会議20分前。
「…え?」
テーブルを前にして、米国代表のマイケル・タイソンが目の前の人物を見ながら驚きながらも着席した。
「ありえない…」
「…」
その顔を見るなり、タイソンは呟いた。それは歴史上、最もある意味、最大の有名人であった。
「…」
オーストラリア代表のスミスも彼に驚いた。
「ばかな…」
ありえない異常事態に気付いた。それと同時にタイソンも彼を見て驚いた。スミスの身長が2メートルを大きく超えていたからである。資料で理解していたが、実物の迫力は相当なものだったのだ。ヒトではない存在との混血である。
「そろそろ時間ですね」
開始五分前に如月が着席した。寒空ながらも晴天に恵まれた良い日であった。
「英国の吸血鬼が遅いナ。バーさんだから寝坊でもしてんだろうカ?」
タイソンは軽口を言ってがははっと笑った。
「誰がバーさんだって?」
タイソンの隣には既に座っていた。
「…生きがいい餌だこと。さっさと終わらせましょうか」
英国代表のローズ、吸血種でありながら異形喰らいの美食家である。髪の毛のセットに二時間はかかったであろう奇抜な髪型に大きくデザインが誇張された真っ赤なドレス。シンプルなスーツで出席していたスミスとタイソンとは対照的であった。
「貴方がいるってことは、結構シナリオを進めてるのか。それとも異常事態なのか」
「後者だね」
老人でありながらも精悍さが残る目をしていた。
「先に残念なお知らせがあります。本題である夜宮勇樹がこの度欠席致します」
如月は遺憾ならがらも宣言した。その言葉を聞いて一同の雰囲気が揺らめいた。
「マジかヨ…」
「へぇ…」
そんな中、初老の紳士は厳かに言った。
「それでは、会議を話し合おうか。議題はヨミヤ・ユウキの処遇についてだ」
「おいおい。ジーさん。まだ三分あるゾ。バチカンからのがまだ来てないゾ?」
タイソンの台詞と同時に青空が翳った。見るとヘリコプターによる降下で、ロープが下がっている。若い男が飛び降りた。
「…」
「おいおい。俺は聞いてないゼ。あんたが来るとハ…」
タイソンは生唾を飲んだ。
「いやーすまない」
赤毛の髪を後ろに引かせた珍しい緑色の瞳を持つ男だった。
「待たせちゃったかな~?」
「無言ではないのとしたら、交渉か」
男はヘリコプターから降りた際も、一際大きな玉座とすら言える大きな物体を片手で持っていた。乱雑にテーブルにつけると大きな椅子に腰を下ろした。
「ネオで結構です。あれ?バチカンの人は来ないのかな?」
如月は予想外の出席者に戸惑った。ネオ。補完委員会を裏切った一派。そして、ここの上空の結界が破られ、如月に連絡が通知されてない異常事態。
「あー。大丈夫ですよ。ちゃんと機能はしています。この結界はね。聖なる結界なんですよ。神聖のね。僕の属性は神聖であり無色なものなので問題は無いんです」
「…」
如月は言葉を失った。ハッタリではない、異常な素だけのスペックの異常値を感じた。そもそもこの苑内ではあらゆる能力は使用不可であるはずだった。それを突破するとは、前代未聞の事態であった。
「じーさんがリスクを冒してここまで挑発されちゃあね。より面白い方を取るなら、そっちだ」
「時間です」
如月は時計を見て、毅然と言った。
「ネオって…」
スミスは呟いた。彼もまたこの異常事態に寒気を覚えた。
「人類補完委員会のクーデターのご本人様」
ローズが小声でスミスに教えた。
「なんでまた…」
「疑問にお答えしましょう。我々は非人道的な実験を行いつつも理論を完成させるべく動いてくれた組織のリーダーを三人も潰されました。千年女王、ガルシア君にエルさん。非常に有能でしたが遺体も無く殺害されました。夜宮さんにね。場所がどうやら悪かった。おかげで我々ネオは非常に混乱しています。指揮系統も滅茶苦茶でね。それで提案しにきました。…ローズさん、アドルフさん、大変申し訳ございませんでした。仲直りしませんか?」
「…」
ローズは何も言えなかった。
「条件次第だ。君は何を対価として差し出す?」
「ある程度錬金術は完成しました。アリシアさんの案なんですが、僕個人も賛成してます。大まかな人体実験は終了しました。儀式の遂行もプラン進行も。こちらから提出できるのは構築理論と実験データです。多少人道的には問題ありましたが、千年計画もこれで百年計画には届くでしょう。僕達が実行しても良かったのですが、夜宮さんのおかげでスポンサー離れに内部混乱で大変なんです。彼の始末で、手打ちにしません?」
「…」
如月は思わず立って叫ぶように言う。
「冗談じゃありません。勝手に話を進めないで頂きたい!」
「そうですか?皆時間無さそうだから僕がやった方が早く終わりますよ?」
「そういう問題ではありません!」
「そういう問題じゃないですか?あなたの立場も分かりますけど、じゃあ多数決取ります?このまま進めないなら挙手を。進めるならそのままで。皆さんどうです?」
「…ッ!」
スミスだけが挙手をしていた。
「彼は英雄だ。民衆のため、土地のために戦った結果だ。その結果が彼自身を殺す事に繋がるなんてバカげてる。賞賛や栄光を渡しことすれ、彼の行いがまるで功罪のようだ。やるせない」
「それとそれ。これはこれですよ。人間の中身も経歴も全て、マクロの見方では一人の人間です。たった一人の人間で今後戦争に巻き込まれる人間の数を考えれば、感情論なんて甚だ場違いだと思いません?」
「オーストラリア代表としてはその意見は正しい。代表者としての意見はね。但し、個人では反対だ。私個人的にはその意見は拒絶する。馬鹿げてる」
「じゃあオーケーじゃないですか。満場一致。このまま話を進めましょう」
如月は座らず、少し黙った後に再び口を開いた。
「彼を渡す事は出来かねます。皆さんの意見はどうですか?」
「良い取引だと思う。実験データも気になるし。もちろん現物での結果や工場なんかも明け渡してくれるんでしょ?」
「ええ。白旗を上げたわけですから」
「ならいいんじゃない?それこそ委員会のシナリオ通り、事が進んでる」
ローズは言った。
「俺は特に興味は無いナ。その話にはネ」
タイソンは事も無げに言う。
「力を持つ者はそれ相応の運命が刻まれる。彼もまたそうであるという事だ。もっとも、私は許可を下すだけ。この会議の議決と同様、許可を下すだけになる。手段や方法は君の好きにするといい」
「なるほど!じゃあ彼に懸賞金を懸けます。大々的に。世界が彼を狙う。彼の安心を蝕み削る。それで我々のスポンサーも安心できる。安心して業務に従事できるというわけですよ」
「つまらないな」
スミスは席を立った。
「話は以上だ。議決が下った以上、これ以上の意味は無い」
スミスはそう言ってコートに手を掛けた。
「俺様もだナ。これ以上会議に興味はねーヨ」
「結構ですよ。最強のまほうつかい、夜宮勇樹の議題はここで終わり。我々は刺客を送るだけ。彼の首が、人間牧場、生育実験環境、人間増築学といった分野に大きく影響しますから。良かったら皆様も奮ってご参加ください」
ネオはニッコリと笑いながら、二人を見送った。
「書面にまとめて頂戴」
「おや?委員会はレスポンスに時間がかかるのでは?」
「ここには最重要人物と委員会メンバーがいる。彼らが納得するには十分でしょう」
「如月さんとは違って慈善活動じゃありませんからね」
そう言ってネオとローズは笑った。
「…」
ふと、目線の端のガードの一人、特別作戦群の下位組織とのパイプ役である、痕跡消去担当のシュッピ―が合図を送っているのが見えた。
「じゃあ。解散でいいですね?こういうのって、24時間以内が勝負ですから」
「…ええ」
「如月君、悪いな。委員会にとって都合の良い結果だけが残った」
この初老を引き入れたのは、如月の決断だった。そしてその決断は如月の目論見とはまるで正反対の結果を導いた。
「…」
尚も遠くでシュッピ―は絶妙に如月の眼が届くところで合図を送っていた。実に手を振るという露骨な合図に発展していた。
「失礼」
如月が立ち上がると。
「ああっっと!如月さん。ありがとうございます。良いきっかけになりました」
そしてチラリと時計を見て言った。
「今から少し血の制約やら儀式的な下準備も必要なので、24時間かかります。丸一日は我々にとって非常に長い時間ですが、貴方にとっては短すぎる時間でしょう。24時間後に我々は魅力的な提案をオープンにします。現在十二時十五分ですね。ご健闘をお祈り致しますよ」
実にまるでデートを誘うような好青年の物言いであった。
「…ありがとうございます」
予断は許されない。そう思いながらも、如月は席を立って特別作戦の護衛チームへ向かっていった。
「如月さん。スミスさんから提案があるようです。これを」
彼が名刺を渡してきた。オーストラリア代表のカードであった。
「彼が、アガルタへのチケットを渡すと。至急ご連絡を」
如月はヨミヤ・ユウキの抹殺指令が下る前に、彼に対して異界への追放処分を下さなければならないのかと逡巡した。会議では一貫して夜宮の処分に否定的な立場を貫いていた。そして、如月は、スミスはがアガルタの巨人族の血を引いている事も知っていた。
「アガルタへ行かせるしか、もう、彼の平穏は他にはない」
「そうね。確証は持てないけど、私達がしてやれる唯一の希望はそれぐらいか」
「世界の境界線を越えた楽園トゥーレ。地球空洞説を明示するスモーキー・ゴッド。過酷過ぎます…」
如月は円卓の席へと戻ると、残っていたローズとネオと初老の紳士はニコニコ顔で彼女を迎えた。
「残念ね。実に」
轟音が響き、如月は見上げると空が割れている光景を目撃した。巨大な岩の塊が日差しを遮り、見る者に巨大な威圧感を与えた。
「こ………れは…」
「結界は解除した。貴方たちの役目は終わったのよ。人類補完委員会はたった今、新しい局面を迎えた。その生贄が、先ずあなたよ」
ローズが手で払うような動きをすると、如月の首が弾けるように飛んだ。首は文字通り首の皮一枚だけで繋がって身体は傾き崩れていった。
「新しい物事のスタートには生贄が必要だ。それがより強く美しいものなら尚の事、祝福される」
初老の紳士は如月を見ながら言った。
「ネオ究極の目的、ファーザーの復活はいいのかね?ネオ君」
「アレもまた千年計画の一つですよ。焦る必要じゃない。手段は限られてますが、人類の時間も長くなれば、手段も増えるでしょう。目的のためならあらゆる手段が許される。あなたの言葉ですよ?」
ネオも如月を見ながら言った。
「日本の協力が今後期待出来なくなるけど、本当に始末して良かったの?」
「かまわないよ。今はネオとの絶対的な融合が先だ。ネオ君。これで儀式遂行、血の儀式によって誓いは有効なものになる」
「全ては人類の救済のため。でしょ?」
「そして全てはここからだ」
初老の紳士がそう言った途端だった。ローズの肉体が弾けるように爆散した。
「なん…」
矢という矢が、彼らに向かって飛んでいた。その矢は電気や火や氷を帯びていた。何千、何万もの矢であった。ネオが如月が寝ている方を見ると、彼女の遺体は消えていた。更に周囲を見ると、まるで巨大なガラス細工の檻に閉じ込められたように歪んで見えた。
「自己認識が現実を書き換えて浸食してますね。あれれ?トップはお飾りだって言ってませんでした?」
「外からの解呪を待つか、術者である如月君を殲滅するか、君が決めていい」
「早い方を選びましょうか」
ネオは魔力を展開した。
「まさか、世界最高峰に挑むとは。なかなか面白いサプライズをしていただけますね」
視覚化できるほどのオーラは、質量共に地球上で最も上質な強大さ湛えていた。ネオというこれまでの勝利の山。負けたことが一度も無い人生であった。
「おや?」
二人の周囲を取り囲むのは、八人の戦士。
「まるで仏の使いだな。君は神道経由の術者だと聞いていたが」
「動けます?」
「問題ない」
初老の紳士も魔力を全開にし、白兵戦に備えた。
「焼き尽くすぞ」
八人の戦士は音速で初老の紳士に斬りかかった。首、腹、背、足、情け容赦ない攻撃の瞬間、別方向、真上からの巨大な雷。それをものともせず、ネオは初老の紳士の前に立って、八人の戦士を自身の圧縮した魔力を跳ね上げ、弾いた。
「はあはぁ…。おや?酸素濃度が低下してますね。大丈夫です?」
「慣れてる。問題無い」
「ですよねー」
既に如月のフィールドの酸素濃度は10%を切っていた。常人ならば既に立っていられない環境である。
「聖なるオーラはやがて肉を包む超越的な鎧と変わる。絶対防御なんてものじゃなく、カリスマはこういう表現にぴったりだ。如月さん、そろそろ終わりにしませんか?」
音速を凌駕する攻撃も、酸欠による毒攻撃もいずれも多くは決定打になるべき攻撃手段であった。それが無傷でこうも悠々とされる事態は、如月にとっても初めての事だった。
「僕に傷をつける事なんて出来ませんよ。最強の魔法使いですから」
「表出し、幻は消えて、彼方へと散ってゆく」
目の前10メートル、首にリボンを巻き付けながらも息を切らした純白の戦闘服に身を包んだ如月がいた。
「ほう」
初老の紳士は手のひらを向けると、如月の両脚が握り潰された。
「ぐァ…ッ」
倒れ込むように崩れ落ちた。二人は如月へ向かって歩いてゆく。その途中でフィールドマジックは解除され、檻は消えてなくなりかけたように見えた。
「…」
如月は二人が目前に迫るところで立ち上がり、木製の小さな箱を投げた。二人はその箱に吸収されるように消えていった。
「はぁはぁ………。年かな……三対一は流石にしんどい…」
そんな言葉を漏らした直後、箱が割れて中から二人が戻ってきた。
「手中の寺院。国宝でしたっけ?なかなか面白かったです」
「予想以上の破壊力だな。もっと実力をアピールしてれば、私は君の死にゴーサインなど出してなかったよ」
二人はまるで楽しいアトラクションを体験した直後のような言いぐさで如月の心をえぐった。
「ッち」
如月は懐から注射器を出し首筋に打ち込んだ。その直後に如月のオーラが肥大化し首の損傷個所は復元された。
「今度はどんなおもしろいものを見せてくれるんでしょうか?」
「素晴らしい体験だろうね。きっと」
如月はオーラでもって、剣を複製した。実物よりもやや小さい宝剣である。むしろ短剣とも言えるだろう。
「神聖なる神々の神器で心臓の斬られたら、流石の僕でも即死は免れない」
両手を広げながらも涼しい顔でネオは言ってのけた。
「…」
過去、多くの輝かしい戦果を挙げた如月であったが、いずれも必殺の技術を駆使した攻撃は確実に命中し効果を与えた。目の前にいる二人は、それらを軽々と跳ねのける力を持っていた。最初の全力、如月の持ち得る最大限の出力でローズを撃破、続いて展開されるフィールドマジック、酸素濃度を下げる維持をしつつも不動明王第六童子の召喚、神の雷の降臨、国宝である最小の寺院の展開。これらですら、致命の一撃を与えられなかった事実。初老の紳士の方は分からないが、ネオの方はほぼ無傷。
「…」
ひょっとして、初老の紳士はヒーラーなのかと疑問に思う。だとしたら納得だ。だとしたら、大ピンチだ。最悪の状況下、今フィールドマジックを解いたらどうなるか?今外界はどうなっているか?特別作戦部隊と委員会のよこしたら警備兵が争っているだろうか。既に殺されたら?例え善戦していたのだとしても、この二人が放たれたら全滅は避けられない事態に直面するであろう。
「やはりここで倒しきるしかないか…」
ドーピング。魔力増強剤である。握りつぶされた傷跡も復元してゆく。
「…ッ!」
最速で、先ずは弱い方を仕留める。初老の紳士の息の根を止める。跳ねた直後、投げた刃は立ちはだかるネオの防御を貫通し、初老の紳士の胸を貫いた。呪詛囲みの業の印を踏んでいる攻撃は、確実に再生を許さず、確実に二の刃でネオの間合いまで飛んだ。そこで再び増大したオーラが展開され、その衝撃で如月の体は弾かれた。
「凄いなぁ。コレだからA級のアイテムは回収しときたいんだ」
寸でのところで、ネオは如月の投擲攻撃を避けきった。それでも左腕が千切れかかっていた。後ろを一瞥すると初老の紳士の肉体はどろどろに溶けていた。
「…」
ネオは頭を素早く回転させた。組織委員会のトップの死滅。トップの持つ資産、遺産の回収をすべきか、目の前の敵を殲滅するのが先決か。
「はぁはぁ…」
衝撃破というよりも、内部からの破壊を促すような。如月の肋骨が何本も折れているほどの損傷を受けた。
「流石に危険過ぎるかな。想定より大きな被害ですよ。いずれにせよ、ラピュータからの部隊で殲滅すべきかな。使われたアイテムも国宝級二点、素晴らしいです」
止めをさすべく、ネオは如月へ歩みを進めた。そこでネオは周囲の景色が元の丘の原っぱに戻った事を知った。フィールドマジックを維持する事が困難な事態に如月は重症であった。
「…あれ?」
ふと、ネオは自分の胸を見た。
「え!?」
槍が、突き刺さっていた。加えて吐き込む大量の血液をネオは吹いた。
「グングニルの槍………」
ネオは仰向けに倒れ込んだ。上空のラピュータが平行ではなく傾いていた。ありえない事態だった。
「既にラピュータには十字軍の派遣を終了している。先遣隊にノクターンも同行してるから後は殺戮本能を満たすだけ」
「参ったなぁ。まだやることが」
ネオの頭を踏み潰しながら彼女は言う。
「お待たせ」
バチカンからの使者、異端狩りのエリザベスであった。
「遅刻でしょ…」
炸裂音、発砲音、真上上空で終わりくるラピュータの世界に思いを馳せながら、如月は安堵と共に気を失った。