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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
最終章 モブでも踏ん張って幸せになります
108/112

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「着替えました…」


暫くすると、レイナが部屋から出てきた。

真っ白な見習い神官の服はいつもレイナが好んで着ていたものよりも、シンプルで女性らしさの少ないものだったけど、逆にレイナの素材の良さを引き立てていた。


「目立つよね」


十分、目立つ要因はある。


「はい」


ノアがカツラを取り出した。

色は黒だけど見覚えのある形。


「この前のを黒に染め直した」

「あぁ、え?何でわざわざ?」

「黒髪は魔力の強い証だから見習いとして一番おかしくない色だ」


なるほど。

魔力の勉強は結構諦めていたら、知らないことも多い。


「顔はある程度隠れるから大丈夫だ」


そう言って、ノアがそのカツラを渡してくる。


──けど、前夜祭の時、ノアはめちゃくちゃ目立ってたんだけどね


これで隠し切れるか些か不安だけど、サイドの髪をどうにか前に持ってくればどうにかなるか。

私はノアから受け取って、レイナにそれを装着する。


「…」


レイナは終始不機嫌そうだった。

いや、不機嫌なのかな?

少しきつい目つきをするけど、それでも何か思い詰めているようで──

もしかしたら、ベイリーの件が来ているのかもしれない。


──伝えるべきじゃなかった?


私もそんなレイナを見ているとそんな考えが過ぎる。

そうすればレイナが苦しむこともない。

けど──

正解は分からない。

もしかしたら、私が『すべき』だと思ったことは間違いだったのかもしれない。


「ノア様…」


準備が整い、これから出ようって時、レイナがノアに声をかけた。


「わ、私…ノア様がここにいてって言ってくれたら──…」


レイナはそう言いかけて、意味深に言葉を止めた。

まだ、レイナには未練があるのかもしれない。

レイナは上目遣いでノアを見上げる。

私はガン無視だ。


ノアはスッとレイナの方に顔を向けると、表情を変えずに口を開く。


「僕が君にできることは何もない」


はっきりとした口調でノアは言った。


「最初の段階で、僕が君に持てる同情は既に使い切っている。だから、僕に何も望まない方がいい」


その言葉にレイナがピクリと反応した。


「同情……?本当に同情しかないの…?」

「それ以外何が持てる?君は自分の行動を振り返って好意的なものを持てると?」

「あっ…」


ノアは心底驚きながらレイナに尋ねる。

レイナもそんな反応が返ってくるとは思わなかったのか、一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにノアに問いかける。


「ベイリーなの?ベイリーのことがあるから──…?でも、あれは私…何も知らなくて……」


レイナは胸に手を当てて、訴える。

こちらに来てよく見る姿だ。


──受け止めれなくても仕方ないとは思ってたけど…


私はそんなレイナを見て複雑な気分になった。

まさか過失だと言うとは予想しなかったから。


ノアはそんなレイナを見て何を思ったか、体をレイナに向け直す。


「知らない事は仕方ない。それも一理ある」


ゆっくりと落ち着いた声でノアは言った。


「けど、もし事故が起こった後で魔法具が暴走するなんて知らなかったって言ってもそれはただの言い訳だ。どこにだって可能性はあって、それを考慮する必要がある。だから、人は考える能力があるんだ」

「で、でも……」


レイナはそれでも何か道を探そうとする。


──そっか…


私は納得した。

もし、それを認めてしまえば、レイナは今までの全てを否定することになる。

それが受け止められないんだ。

口で伝えられただけの他人の死より、自分の今までの方がレイナは気になっている。

その気持ちが分からなくもないが、それでは最後までレイナを信じたベイリーは何だったのか。


私は拳を握った。


──言わなきゃよかった…


レイナは自分の過ちを少しは自覚するのでは?そう思って出した切り札だった。

結局、帰ることを選んだのもただ逃げる為だった。

自分が間違ってないと思うため。

またしても私の言葉は無意味だったのだろうか。


「私だって考えてる…考えてるのに……何で?だって、今まで間違えたことなんて一度もないのに……」

「っ…あんたっ─!」


レイナがうじうじとまたしても言い続けた事に耐えきれなくなった私はついカッとなって一歩踏み出す。


「ミミ」


だけど、それをノアが止めた。

これがノアの力かってぐらい力強く私の手を掴んでいた。

私が振り返ると、ノアはグッと私を引き寄せた。


「そこまで君がする必要はない」


ノアは私に言った。

そう言われて気づく。

私はレイナをビンタしようとしていた。

怒りに任せて動こうとしていた。


ノアは繋いでいた手に少し力を加える。

さっきより弱い力だけど、それでも大きなノアの手は全部を包んでくれているみたいだった。


ノアはレイナに顔を向け直す。


「どんな過失でも回避できる可能性はある。もし、あの侍女がミンタを飲むことを君が止めてれば彼女は死なずに済んだ」

「……」


レイナは何も言わない。

いや、言い返せないんだと思う。

それは誤魔化すことのできない真実だから。


「それに、君は自分の意見と合わない人間は排除した。だから結果的に君のご機嫌を取る為のスコットレット家の人間ばかりが集まった。君の能力が効かなかった人はすぐに排除した」


その言い分に心当たりがあるのか、レイナはノアに顔を向けた。


「君は最初から考えることを放棄していた」


ノアの声の温度が下がった。


「そして、責任も放棄した」


ノアを見上げると、ノアは顔は厳しかった。

その顔には軽蔑がはっきりと見えている。


「そんな君に差し伸べる手はない」


ノアは言い切った。

それと同時に繋がったままの手にまた力が入った。


──ありがとう


私はノアに伝われって思いながらその手を握り返した。

私の代わりにノアは言ってくれた、

これ以上、私が言いたくない言葉を言わなくてもいいように、自分の行為に傷付かなくていいように。

彼の優しさは強かった。


「私…私…ただ、みんなに、みんなに……そんなつもりじゃ…だって、私…誰も、違うって……言わなかった…私は合ってるって…みんな言ったじゃない」


レイナは動揺して呟いた。

レイナの力によってそれは導き出された事。

だからレイナは自分が違うだなんて思った事は一度もなかった。

仕方ないかもしれない。


「誰も間違ってるなんて……」

「本当にか?」


ノアがそう問いかけると、レイナはハッとして顔を上げた。

私を見て、そしてすぐに下に目を落とす。


「美々ちゃん……美々ちゃん………が…あぁ……」


そう言って顔を覆ったまま、その場に崩れ落ちた。

しばらくすると、レイナの肩が震え始めた。


「ごめんなさい…私………、私……ごめんなさい…」


子どものように身を縮こませて、レイナは謝り始めた。

私の顔を見てはないけど、きっとそれは私に対する言葉。

啜り泣く音が聞こえる。


「私…もっと…あ、あぁ……可哀想とかじゃない…私が…私のせいで……」


やっと、レイナが理解してくれた。

後悔に苦しみ始めたレイナを見て、鼻の奥がつんとなった。

分かってくれた。


「美々ちゃん…ごめんなさい……ベイリー……」


遅い後悔かもしれない。

それでも、私はその言葉を聞けてよかった。


──もう、いい


私しか前世の私を救えない。

そう思ってたけど、違った。

ノアが助けてくれた、認めてくれた。

レイナが分かってくれた。


それでよかった。


震え続けるレイナを見た後、私はノアに顔を向けた。

ノアは少し憐れんだ目をしていた。


「僕たちももっと早く気づくべきだった…」


こんな事態に陥る前に。


ノアも後悔していた。


そしてその部屋にはレイナの泣く声が響くだけだった。





レイナが落ち着くのを待っていると、日は既に沈み始めていた。

赤みが濃くなる空を見つめながら、私たちは移動する。


レイナは長いカツラで顔を隠して、大人しくついてきた。

涙が枯れて、落ち着いたレイナはスッと立ち上がって「…帰ります」と決意した表情を浮かべた。

やっと、帰る意味をレイナは分かったみたい。


私もノアも何も言わず、ただ力強く頷いた。


そして散歩をしてくると言って、私たちは世界樹のある方へ向かう。

何人かとすれ違ったけど、大して反応はされなかった。

緊張しながらも、私たちは何とか世界樹の前までやってきた。


世界樹はかなり奥の方にあって、進むたびに人気がなくなり神妙な空気が漂い始めた。


「これが世界樹…?」


世界樹の前にくると、私はその真っ白な大木に目が奪われた。

いや、真っ白っていうか白銀に光っているように見える。

大きさも空を覆い隠そうとするかのように大きく枝葉が伸びていて、今まで見てきた樹の中でダントツで大きかった。

陽の光に透かされて、木の葉はガラスのようにも見えた。


桁外れの神秘さに私は呆然と立ち尽くす。

あまりにその幻想的な大木を前に私は息を呑んだ。


「さぁ、崩すよ」


ノアはそう言うと、持っていた瓶を開けた。

デネブレ産のシャンパンだ。

全く穢れのない土地で作られたそのシャンパンはその世界樹と似た美しい透明感がある。


ノアはそれを例の池に注ぐ。


「うちのシャンパンが、この聖力を維持する役割を担っている」


ノアがそれを注ぐと、世界樹の周囲を取り囲んでいた池の輝きが増した。

その池も不思議で、黄金の水が溜まっていて、世界樹を照らしていた。


「行こう」


ノアは世界樹の方へと繋がる橋を渡り始めた。

私とレイナもそれに続く。


「魔石の使い方は分かるね」


ノアは橋が終わりかける直前にレイナに問いかける。

レイナはコクリと静かに頷いた。


「私が、これにマナを注いで世界樹に祈ればいい…ですよね」

「あぁ」

「分かりました…」


レイナは自分の魔石を握りしめ、俯く。

輝きに満ちていたはずのレイナの目は、澱んでいた。


「ここからは君だけしか行けない」


ノアが道を開けてレイナに道を指し示す。

レイナは自分の向かう道をじっと見つめていた。


「…」


レイナは深呼吸をして、私の方に顔を向けた。


「ミンディさん。今まで……ごめんなさい。私──……」


そこまで言いかけて、レイナはまた俯いた。

私は黙ってレイナの言葉を待つ。


「いえ、何でもありません。…ノア様も迷惑をおかけしました」


そして、レイナは私とノアに頭を下げた。

丁寧な綺麗な所作だった。

けれど、レイナはまだ震えていた。


ギュッと心を掴まれたように痛かった。

私はレイナに同情しているのだろうか。

憧れていたレイナの姿はそこにはない。

すごいと思っていたレイナの輝きはどこにもない。


それがひどく寂しかった。


あれだけ関わりたくないとか思ったのに、それでも私はレイナの今の姿を見るとどうしても苦しくなる。


──望んだことなのに…


自分勝手だ。

レイナに分かって欲しいと思いながらも、その後の姿を嫌だなんて思うだなんて。


姿勢を戻したレイナは、世界樹の方へ体を向ける。

唇をギュと閉し、レイナは一歩ずつ進んでいく。


──本当にお別れ…


見るとヒヤヒヤして私は苦しくなる。

でも、何年も一緒にいた思い出は残っている。

諦めようと思っていたものがまだ隅に残っていた。


レイナが向こう側に行くと、ノアはレモラの葉を取り出し、橋の上から池にそれを落とした。


聖力を高め、そこに瘴気を注ぎ力を大きく反発させ、世界樹の結界を歪める。

その歪みにより出来た間にレイナがマナを送り込む事で、マナを世界樹に届ける。


「っ…」


力の反発の影響か、黄金の光が輝きを強め、私はつい目を細めた。

あまりの輝きにその光の色さえも判別できない。


「元の世界に返してっ…この力を私から取って……」


その輝きの中でレイナの呟きが聞こえた。

次第に風も巻き起こり始めた。

ノアが私を抱き寄せてその風から守ろうとしてくれる。

風は竜巻のようにぐるぐるとレイナと世界樹の周りで起こっている。


──このまま…お別れ……


寂しく思う気持ちがあった。

だけど、それよりも高まるのは、頼りなく見えるレイナの背中がどうしても許せないって気持ちだった。


レイナの魔石が赤い光を発しながら浮いて、世界樹の方へ向かっていく。

そしてレイナもそれにつられていくかのように、足が浮きはじめた。


「っ…」


──このままじゃダメだっ


私はまるで希望を全て捨てたかのようなレイナに耐えきれなかった。


「レイナ!!!」


私は風から庇ってくれるノアの腕から顔を出して、レイナに叫ぶ。

レイナも浮き上がりながら驚いた顔でこちらを振り返る。


「私はっレイナに憧れてたよっ!!」


熱くなる目頭。


「恐れずに動けるレイナは素直にすごいと思ってた!」


レイナはいつだって自分を持っていた。

他人が支えてくれたおかげでもあるかもしれないし、レイナが人の意見を信じないからかもしれないけど、それでもその自信ある姿は本当に輝いていた。


「人の前に立てるのはレイナの力だよっ!いくら人の力を借りたって、レイナに動く力がなければ無意味だものっ!レイナは動ける人なんだよ!」


あの輝きは私の確かに憧れでもあった。


「だから…だからっ!」


伝えたいことはたくさんある。

沢山あるけど、どう言葉にすればいいのか分からない。

言葉に迷っている間にもレイナの体はどんどん世界樹の方へ引き寄せられていく。


「終わりなんかじゃないっ!ここからが始まりなんだよ!ベイリーの為にもそうでなきゃダメなんだから!絶対許さないから!」


私はレイナにありったけの声で伝え続ける。


レイナは驚いた顔のまま固まっていた。

まんまるな綺麗な目は、これでもかってぐらい見開かれていた。

澱んだ目よりそっちの方が全然いい。


「レイナっ!私は幸せになるために踏ん張る!だから、レイナも踏ん張って!!」


私は言い切ったと肩で呼吸をする。

決して、レイナは力だけの存在じゃない。


もうレイナの体は魔石と世界樹の光に包まれて消えかかっていた。

もうあの世界にレイナは戻るんだ。

もうこれで──


目頭に溜まった熱は、ついに溢れ出した。


「美々ちゃん……」


レイナはそんな私を見て呟いた。


「美々ちゃん!」


そうレイナが叫んだのと同時に、レイナはその光に完全に包まれて消えた。

風は止み、光も収まった。


「う゛ぅっ…」

「大丈夫」


泣き崩れそうな私をノアが抱きしめた。

ノアの温もりが心地よい。

私がそれに縋るように、ノアに抱きついた。


「大丈夫」


ノアはもう一度呟いて、濡れた私の目元に唇を落とした。


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