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物語の主人公にはなれません〜魔力なしの令嬢に転生しましたが、なんとか踏ん張ります〜  作者: しーしび
最終章 モブでも踏ん張って幸せになります
102/112

6

「ウルグス嬢っ!」


コーラさんが爆走していると、後ろから声がかかった。

いつの間にか皇太子が追いついてきていた。


「えっ…、殿下が何故…」

「兄上の危機を待ってるなんて出来ませんよ。きっと皆もそうでしょう」


振り返ると、皇族付きの騎士団がうじゃうじゃと後ろについていた。

どっかの家の騎士団もいる気がする。

しかもそれを率いるコーラさんがやけに凛々しい。


「宮殿の庭で、兄上のものと見られる魔石が発見されました。兄上はおそらく魔法が使えない可能性が高いです」

「えっ…なら…」

「はい。兄上は腕っぷしは平均男性以下なので、無抵抗と変わりません」

「…」


最悪の情報だ。

丸腰ってもんじゃない。


「もうすぐ帝都の検問所ですわよっ」


コーラさんが叫んだ。


だとしたら少しは足止めできているかもしれない。


「見えてきましたわっ!」


そう言われて前を向き直す。

はっきりと、門が見えてくる。

行く人かの門番と異国の商団が見えた。

でも、服装はグリード国とは違う。


──もう通り過ぎた?


どきりとする。

向こうだってのんびりしてないはずだし、追いつけるかどうか危うい。


焦りが込み上げてきたその瞬間──


前世よりも格段にいい視力の私ははっきりと見えた。


例の商団が門番に明らかに大量のお金が入ってると見られる小袋を渡した。

門番もそれを受け取ると、商団を通し始めた。


──絶対怪しいじゃん!


しかも魔石はその商団の方を指している。


「コーラさん!アレです!あの商団です!」


私は指してコーラさんに行った。

すると、彼らもこっちに気づいたのか慌てて門を通過する。


「騎士団だ!通せっ!」


皇太子が叫ぶ。

門番も大勢の私達で只事ではないと、門を開けたまま避難する。


「やっ!」


コーラさんはそれを見ると、さらに加速する。

もう、コーラさんは戦士に見えるよ…

私もその勢いに便乗する。


「待てぇええええ!止まりなさぁああああい!!」


声が枯れるんじゃないかってぐらい叫んだ。

それで彼らが止まるわけもないんだけど、兎に角叫んだ。


魔石の光が強くなりはじめた。

そして、その光が真っ直ぐ一つの荷馬車に繋がっていく。


「ノアーーー!!!」


そこにいる。

私は声なんて枯れてもいいと思った。

腹から目一杯声を出す。


「まだ、話したい事があるの!!」


ノアがいると思われわれる団体に声をかける。


「ノアに伝えたい事があるの!死ぬならそれを聞いてから死んでよぉおおお!!」


私が思いの丈を述べていると、コーラさんの体がびくりとした。


「その発言はどうですの?」

「え?なんか言いました?」


コーラさんが私に言ってきたけど、小さくてよく聞こえなかった。


「別になんでもないですわっ!」

「分かりましたっ!ノアーーーーー!」


細かい事は後だ。

しがみつく事しかできない私は兎に角叫びまくる。


そして段々と私たちは逃げ去ろうとする商団に近づいていく。

私も何度もノアの名前を叫ぶ。

叫ぶ毎に近づいていく。

すると、荷馬車の幕が動いた。


「ノア!」


ひょっこりと顔を出したのはノアだった。

その顔に魔石の光がガンと当たって眩しそうだった。

魔石はノアにぶつかると、その輝きを緩める。


「ノア!」


眩しそうに目を凝らすノアに私はもう一度叫ぶ。

私にもノアの顔がはっきりと見える。

魔力が使えないからか、目は水色に戻って、髪も黒の短髪。


「ミンディ?」


ノアは目を丸くさせて私を見つめる。

そして何故か裸。

いや、そんなのどうでもいい。


「あっ…」


すると、不意を付く為か荷馬車が急に方向を変えた。

その勢いで、ノアがふらついて荷馬車の奥の方に倒れた。

ノアの姿が見えなくなる。


「周りこめ!」


アーノルドさんが指示を出すと、一気に私たちのサイドから馬が駆け出す。

そして次の掛け声で、後ろからいくつかの矢が飛んだ。

矢は馬に刺さっていく。


流石に逃げきれないと感じたグリード国は速度を落とすこともないが、剣を抜いて応戦する姿勢を見せてきた。

このまま捕まる気もないみたい。

どうにか逃れようと、彼らは足掻き続ける。


「ミンディさん、気をつけますのよ!」


コーラさんも剣を抜いた。

持ってたのか。


リアル・ジャンヌダルクだよ。

あ、あれはリアルだったか。


「コーラっ、この先は崖がある。そこまで追い詰めるぞっ!」


アーノルドさんが叫ぶ。

なるほど、左右から回り込むことで相手の動きを制限しているのか。


──これが戦術…


生で体験できで凄さをビリビリ感じる。

緊張感が私の肌を刺激しているようだった。


「お兄様っ…殿下は?」

「あぁ、既にオリエンスの騎士が守っている」


アーノルドさんが顎で指した方向には、サイドを守られながらも突き進む皇太子の姿があった。


「どうやら、オリエンス公爵令嬢が待機させていたみたいだ」


──用意周到…


一体どんな事を予想していたのか。

ひとまず、この誘拐事件は予想してなさそうだし──


──まさか、自分とこの騎士団を送り込んで国を乗っ取る気だったとか?


ありえない話ではない気がする。


「いくぞっ」


アーノルドさんが加速させる。

それにコーラさんが続く。

私はしがみつくだけだったけど、彼らの強さに背中を押される。


「コーラさんっ!ノアの荷馬車に近づけますかっ?」


私が言うと、コーラさんが少しだけ振り返る。

目を細めたあの表情だった。


「まさかあなたっ…」

「はいっ!できますかっ?」


私はもう一度、強気で叫ぶ。

こうなったら、思いつくことはやるっきゃない。

とにかく彼らを止める。それだけだ。


「…わかりましたわっ!落ちませんのよ!」

「はいっ!」


ちょっと躊躇ったコーラさんだったけど、直ぐに頷いて、ノアの荷馬車に向かっていく。

もちろん、彼らはこちらを近づけまいとやってくるが、コーラさんがうまく避ける。

そして、彼らの手を狙い、剣を振り落としていく。


「ノア!ノアっ!」


再び荷馬車に近づいた私は、呼びかける。

ノアもふらつきながらも全開になった出入り口から顔を出す。


「そっち、いくから!」


私が顔を上げて叫ぶと、ノアはあからさまに躊躇した。


「えっ、ここっ…そこから!?」

「いくよ!」

「ミンディ!危ないっ!やめろ!」

「行くから!捕まえてね!」

「おい!」


ノアらしくない慌てっぷりで、言葉使いが荒かった。

ノアもマックスに慌てるとこうなるのか。

だけどそんな言葉を無視して私は、いつでも飛び移れるように体勢を変える。

手間取りながらも、なんとか体勢を整えると、私はコーラさんに合図する。


「いつでもどうぞっ!」

「分かりましたわっ!」

「ノア、行くよ!」

「やめろ!!ミンディ!!」


私がノアに宣言すると、コーラさんがさらに荷馬車に近づいていく。


「今ですわっ!」


そして、もう少しで荷馬車に突っ込むって時に、手綱にグッと力を入れて、馬の体を旋回させた。

馬が荷馬車に横付けしたような形になった瞬間に、私は足に力を入れる。


「えいやっ!」


掛け声と共に荷馬車に移る。

私を止めようと前に来ていたノアも直ぐに飛んでくる私を受け止めようと手を広げた。


ダンッ

ドンッ


私はなんとか上手いとこノアの胸に飛び込むことができ、ノアも私を抱きとめて後ろに転倒した。

大きな衝撃音が出たけど、なんとか着地成功。


「…これは無謀すぎる」


ノアが仰向けのまま呟いた。

だよね。私もそう思う。


簡単に倒れてしまうノアの胸は、昨日のチェイスの胸よりも薄っぺらくてちょっと頼りない。

でも温もりは私が大好きなものだった。


──ノアだ


失うかもと思った本人が目の前にいる。

そしてえ私を抱きしめている。

それだけでもう溢れる気持ちがあった。


──いや、今は浸ってる場合じゃない!


私はグッと眉間に力を入れて、直ぐに溢れそうな気持ちを堪える。

そして、その勢いのまま顔を上げて、ノアの上に乗ったままノアに話しかける」


「ノア、魔玉があっても魔法は使えない?」

「…うん、それは完成形じゃないから」

「そっか…」


思惑は外れた。ノアの魔力が込められているからいけるかと思ったけど、違った。

ノアは重たいはずなのに、焦ってそのことを忘れている私の為に黙ってくれている。


「そのまま攻め込めっ!」


外からはアーノルドさんたちの声が聞こえる。

剣が交わる音や、誰かの叫び声。

改めて聞くと、恐ろしいものだった。


──どうしよう…


私は荷馬車から彼らを見つめる。

アーノルドさんもコーラさんも皇太子も奮闘している。

そして確実にこちらが優勢で、グリード国の人たちを押していた。


──でも、このまま待ってても誰かが傷つくかもしれない…


早く決着させる。

それが一番だ。


「すまない。僕がもっと力があったら…」


ノアも私の考えがわかっている様で、気不味そうな表情を浮かべた。

だけど、それも一瞬で、直ぐに瞳に力を入れる。


「さっきと同じで飛び降りよう」

「へ?」

「僕が下になれば君が怪我をするのは防げると思う」

「何言ってんの…」


私はノアがそんな発言をするとは思わなくて、固まってしまった。

ノアの表情は強さの中にいつもの優しさがある。

そんな表情のままノアは言葉を続ける。


「僕は魔力がある分、魔石さえあればマナの循環が良くなって怪我をしても回復速度は早い」


──あぁ…この人は…


ぎゅっと胸が掴まれる気分だった。

またノアのせいで感情が込み上がってくる。

心臓が痛いと錯覚しそうな程、胸が締め付けられる。


ノアもじっとこちらを向いて目を離さない。

本気なのは十分わかる。

でもそれは私の望むものじゃない。


「馬鹿!!!カバ!!!」


気持ちが高まり過ぎて、語彙力が小学生以下になった。


「私がこっちに飛び移った意味ないじゃない!私にだってノアを守らせてよ!私、やっと魔石を持てたのに!やっと力になれるかもしれないのに!」


何の為に、騒ぎを起こしてまでこれを奪い取ったと思っているのか。

私はノアに訴える。


「一緒に、元気に帰るんでしょ!でないと許さないから!」


何目線で語っているのだろうか。

だけど、勝手に犠牲になろうとするノアが許せなかった。

私は溢れてくる涙を拭った。

今は泣く時じゃないのに、ノアの気持ちに怒りで止める事ができない。


「助けに来たの。わざわざ怪我をさせるんじゃない!」


私はノアにそう叫ぶと、場所を移動した。

目指すは、御者のいる運転席。


「ミンディ?」

「ノア、やることはやるよ!私たちの世界を守ためには、気にしちゃいけないこともあるの!」


そう言って、荷馬車の脇にあった縄と網をノアに渡して、腕を見せた。

そこまで言えば、ノアは直ぐに理解し、頷いた。


──いけるはず!


そう思った私は、勢いよく御者のいる方の布を開けて、魔石を使う。


「とぅわっ!!!」

「うわぁっ!!」

「えい!」


私は掛け声と共に襲いかかるように、御者にそれを使うと、感電したかのように御者が悲鳴を上げながら痙攣を起こす。

ノアも声を出しながら、御者に網を被せ自分のいる荷馬車の方に引き摺り込む。

そして、御者が網の中でわちゃわちゃしている間に、何とか縄で縛っていく。


「ミンディさん!!!!前ですわっ!」


するとコーラさんの声が聞こえた。

私とノアは同時に前を確認する。


崖が目の前まで来ていた。

しかも、馬がさっきの騒動で錯乱状態になっている。


──やばいっ!


私が慌てて、馬の手綱を持ったのと、ノアが駆けつけたのは同時だった。

力を込めて止めようにも、馬は止まる気配を見せない。


──もっと、練習しとけばよかった!


後悔はいつだって遅すぎる。

ノアもどうにか止めようと力を込めるはそう簡単にはいかない。


もう崖は直前だった。


「ミミ、踏ん張れっ!」


ノアが叫んだ。

最後の力を振り絞って、ノアが馬の進行方向を変えようと力を込める。

馬はギリギリで方向を変えるも、遠心力で私達は飛ばされた。


──死ぬっ…


咄嗟に私は目を閉じた。

終わったと思った。

自分がこのまま地面に叩きつけられて終わりなのは一瞬で悟った。


「っ…」


だけど、体に衝撃はなかった。

感じられるのは何か私を引っ張る何か。

重力に逆らう何かが私の片腕にかかっている。


「ノア…」


恐る恐る目を開ければ、ノアが短剣を崖に突き刺して私を掴んでいた。

ノアの細い腕にいくつもの筋が出ていて、彼が限界であることを感じさせる。


「っ……」


ノアはあのぼんやりとしか顔を顰めさせながら私を何とか掴んでいる。

でも、これ以上は無理だ。

二人とも助かる見込みはないと思う。


「っ、ノア──」

「ごめん……限界かも……」


私が感動の言葉を言いかけると、ノアからギブアップ宣言された。

ずるって私の体が下がった。

ブワッとこわさが倍増する。

私は意外と往生際の悪かったようで、焦ってしまった。


「え、ちょっと!離さないで!」

「うん…、あ、ちょっと…」


私が力を振り絞ってノアの腕にしがみつく。

ノアの体力が更に減ったようで、ノアの手が短剣からズレた。


「ノア!だめ!落ちるって!」

「でも限界…」

「ノア!ちょい!もうちょい耐えて!」

「無理…」


ノアの手が震え、完全に手が離れそうとした瞬間──


「二人とも、鍛え直す必要がありますわっ!」

「本当だっ!」


私とノアの体がブワッと浮き上がった。

そして勢いよく崖の上に引き上がる。


「助かった…アーノルド」


ノアが地面に足がつくと、肩で荒い呼吸をしながら言った。

私も深呼吸をして顔を上げるとそこには満足げな笑みの怪力兄妹。


──兎に角、助かった…


いつの間にか、グリード国は抵抗をやめていた。

色々と疑問は残っているけど、ひとまず生きている。

ノアも私も生きている。

それで今は十分だった。

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