終章 前を向く者
GクラスとFクラスに転校生がそれぞれ一人ずつ来たらしい、というのがここ最近持ちきりの話題だ。
哲は一人黙って、新学期でざわつく教室に入る。
「……はぁ」
あれからどう割り切りをつけていいのか、そもそもつけてしまってもいいのか分からず、どんよりと残りの夏休みを過ごしてしまった。
「どうしたんだい? 浮かない顔だねぇ」
ヴィーゼルタが鈴を転がしたような声でからからと笑う。
蜂蜜の砂糖がけみたいな甘ったるい声は言っては悪いけど今の哲には毒だった。
「宿題やってないとか?」
「やーりーまーしーたー」
実はというとあれから勉強にも手がつかずなんとなく敬遠していたのだが、最終日から三日前に見かねた諫から『ホムンクルスを言い訳にしないで』と言われ、やらざるを得なかった。
彼のことを言い訳にはしたくなかったから。
「じゃあ何だい? 夏休みを満喫できなかったとか?」
「夏休みは満喫しましたよ。これ以上ないほどにね」
こればっかりは即答だった。
ホムンクルスと過ごした六日間は間違いなく人生の中で一番楽しかった。
「ふぅん、変な哲くん」
ヴィーゼルタは興味がそれたようで哲に話しかけるのをやめる。
哲もそれに合わせて席へと向かった。
◇◆◇
「転入生のロナーテル・ルーインっす。よろしくお願いします」
紫の髪をツインテールにし、王冠モチーフのカチューシャをした少女が壇上に立って、ぶっきらぼうにそう言った。
ロナーテルはある一点──ロゼルア=アルカディアの方を睨んでいる。
ロゼルアは飄々とした掴み所のない性格で、そしてあの『アルカディア家』次期当主筆頭候補だ。
羨む人はたくさんいても、憎まれるようなことはあまりないはずだ。
ましてや、アルカディア家直属の従者であるルーイン家の者には。
「どうかしたかな? ロナーテル」
「……何でもないっすよ」
「はい、そこギスギスしない」
雪菜が「もう」と言ってロナーテルを席へと案内する。
リセ一年ということで同じ学年の雪菜の弟である清の横に座らされた。
ロナーテルはいまいち釈然としない顔でお礼を雪菜に述べる。
そんな波乱一歩手前の一幕はあったが始業式は無事に終わった。
哲はいつまでも落ち込んではいられないな、と前を向きはじめたのだ。
――双子の弟、諫のことを置いて。




