魔族の国編 ⅣⅩⅧ
ホテルに戻って、潮騒からのお土産である、ダンクルオステウスのフィッシュアンドチップスを他のみんなにお裾分けしたけど、アイちゃんとクロウは留守だった。どうも、昨日の夜から戻ってきてないらしい。
ちょっと心配だけど、アイちゃんに限って危ない案件に首を突っ込むとかは想像しづらいと、ユニエラちゃんも言っているし、アイちゃんもクロウもいい大人なわけだしと、心配しすぎないことにした。
まだちょっと余るお土産をホテルの人にも、差し入れですと手渡すと、蓋の焼印を見てすごく喜ばれた。どうやら、かなりの人気店だったみたいだ。
「シーラさんもすごいところで働いてるんだね」とシャルちゃんに言うと、「みたいだね」と、とても嬉しそうにはにかんだ。
そうして、自分たちの分は、明日の朝か昼にいただくことにして、今日のところはもう寝ようかという話になり、部屋に戻った。
お風呂に入って、新しく交換されたバスローブに着替える。ベッドも綺麗にベッドメイクされて、私たちが飛び込むのを待ってくれている。
今晩は珍しく、イチャつく空気にならず、全員大人しくベッドに入り、シャルちゃんを中心に全員で彼女を抱きしめるような形で就寝した。
翌朝。昨夜は早く眠ったからか、起きるのも昨日の比ではなく早かった。みんなほぼ同時に目が覚めて、体を起こして伸びをして、そして、一緒だねと笑った。
さて、今日は出発の日で、私の盾の受け取りもある。昨日は私服に着替えていたけれど、今日は鎧に着替える。鎧も、ホテルにお願いした整備を終えて、ピカピカな状態で私たちを待っていた。
そうだ。私今、こんなドレスみたいな鎧着てるんだった……。と、ちょっと現実に戻される。――いや、こっちが現実? それとも夢?
目の前のきらびやかなドレス鎧を見て、前後不覚になりそうになった。
「早く着替えなよ、ディーちゃん。下着のままじゃ風邪ひくよ?」
「あ、うん」
シャルちゃんに言われて、私は鎧を手に取った。ぢっとそれを見る。やっぱりまだちょっと現実感がない。こんな可愛いのを、私がなんて……。
「ディティスちゃん、もしかして着替えさせて欲しいんですの? よろしいですわよ! 私が手取り足取り〜♪」
「いや、違う違う! ちゃんと着替えるから、自分で!」
シェリーちゃんは、「あら残念ですわ〜」と引き下がった。ぼーっとしてる場合じゃなかったよね、うん。
ようやく私は鎧に着替えた。
スースーと、若干落ち着きの悪い太ももの辺りが気になりながらも、着替え終わった私たちは、昨夜のお土産を開いた。
すっかり冷めきってしまったフィッシュアンドチップスではあるけれど、一晩を経て水分を含み、ふんわりしっとりした衣が、また別の食べ物のようで、これはこれで美味しそうではあった。
朝から揚げ物というのも、どうかとは思うけど……。あんまり時間をおいても悪くなっちゃうしと、私たちは朝食としていただくことにした。
添えられたタルタルソースが、大変良い仕事をしていた。ちょっとビネガーと柑橘系の香りが強く、そのおかげで胃もたれることもなく、さっぱりとした食後感で食べることができた。冷めてもここまで美味しいとなると、最高級ホテルのホテルマンたちが狂喜乱舞するほどの有名人気店なのも頷けるというものだ。
忘れ物のチェックを入念にして、部屋を出る。エレベーターでロビーまで降りると、すでに正装をしたクガルーアさん含めたみんなが集まっていた。
そこにはアイちゃんとクロウもいた。とりあえず、二人とも無事で何事もなさそうで良かった良かった!
「アイちゃん、おはよう! なんか久しぶりな気がするね。どう? クロウに何かされな、かっ、た……?」
近づきながらアイちゃんたちに声をかけたんだけど……何やら様子がおかしい。
なんていうか、二人、距離近くない? クロウのいつもの憎まれ口も聞こえてこないというか、ずっと俯いていて大人しいし、クロウの手が、さっきアイちゃんの手と繋がってたように見えたんだけど……。しかも恋人同士でやるやつ。
いやいや、朝だしな。まだ寝ぼけてるのかも。たぶん気のせいだよね、うんうん。
それにほら、アイちゃん、クロウと仲良くなりたいって言ってたし、実際、仲良くなったってこと……なのかもだし?
「お、おはよう、ディティス、み、みんなも」
「なんだ、アンカー? 相も変わらず眠そうな面だな。顔でも洗ってきたらどうだ?」
クソ、クロウのいつも通りの憎まれ口が今更飛んできた。やっぱりさっきのは見間違いだったに違いない。
「お、揃ったな。おはようさん。昨夜は馳走になったな、お前ら。美味かったぞ」
「はい、おはようございます、クガルーアさん。お口にあったようで良かったです」
私たちの合流を確認したクガルーアさんが、昨日のお土産のお礼を述べた。それに続いてシーリーズさんたちもお礼を言ってきたので、それにも返す。
「ゆ、昨夜?」
昨夜留守だったアイちゃんが首を傾げる。私はすかさず木箱が一つ入った手提げをアイちゃんに差し出した。実は一つだけ残していたのだ。ロア君の分は無いけど、それはご容赦願いたい……。
「これ、昨日海に行ったお土産。アイちゃんの分。早めに食べてね?」
「あ、ありがとう、ディティス。クロー、い、一緒に食べようね?」
「いや、俺は別に……まぁ、一口くらいなら食べてやらんこともないが……」
そのクロウの様子を見て、アイちゃんは微笑んだ。どうやら本当にちゃんと仲良くなったようだ。すごいなぁ、アイちゃん。
「よし。じゃあ、王城に行くぞ」
ビチっとキメた格好のクガルーアさんがその場を取り仕切る。
「ディティス。お前の盾も王城で渡すらしい。ロアはそのとき合流するって話だ」
なるほど。まぁ、国の設備使わせてもらったからそうなるよね。と私は納得して頷いた。
「そういえば、マイクの方はどうなったんですか、クガルーアさん?」
初日に交渉に行った結果を聞いてなかったなと思って、今尋ねた。
「ああ。まぁ、二つ返事で快諾してもらったぞ。受け渡しは、それもこれからだ」
それは良かった。何かポカでもしてご破断になってたりしたら……なんてちょっとだけ考えてたから、いい知らせだね。
「俺がそんなポカ、するわけないだろう……」
おっと、顔に出てた……。
クガルーアさんがチェックアウトの手続きを終えると、来たときと同じように、ホテルの上役たちが出張ってきて、一列に並んでお見送りをされた。ちょっと恥ずかしい……。




