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魔族の国編 ⅣⅩⅡ

 なるほどと思った。

 バルコニーのプールからは、王城のドラゴンの止まり木が、同じくらいの高さで目に入ることに気が付いたからだ。なんという特等席。

 しかも、年がら年中温かい水が張られているプールで遊びながら眺められると……。

 まさに、貴族的な贅沢スポットと言わざるを得ない。


 プールの水は、人肌より若干低いくらいの温度。暖かい部類ではある。水深は、深いところで胸くらい。浅くても腰程度。入ったまま寝でもしない限り、溺れることはないと思う。それはお風呂でも同じことだけど。


 そして、この水着だ。これ、水を吸っても重くならないから、泳ぐのを邪魔しない。速く泳ぐための水着とは、まさに言い得て妙、コンセプト通り! とっても便利だ。……まぁ、ずっと服の下に着てるわけにはいかなそうではあるけれど……。トイレとか大変そうだし。


 仰向けになって浮かんで、ぼうっと、空を見る。雲一つない、いい天気だ。

 ここでこんな風にプカプカ浮かびながら、美女を侍らせて、昼間から葡萄酒(ワイン)でも(あお)った日には、一入(ひとしお)の優越感を感じられるんだろうなぁ。……うん。一気に悪徳貴族っぽさが増したね。


 そんな下らないことを考えて、自嘲気味に鼻で笑い飛ばしたら、プールの縁に腰掛けて、パシャパシャと水を蹴ってみんなを待つ。

 バルコニーと部屋を結ぶ扉が、静かに開閉した音が聞こえた。背後に息を殺した人の気配。そろりそろりと近付いてくる。

 誰かな? ユニエラちゃんか、シャルちゃんか……。シェリーちゃんは違う気がする。

 ユニエラちゃんはもう少し気配を消すのが上手だと思うし、シャルちゃんかな? と予想する。

 そして、背後の気配はすぐ真後ろまでやってきて――

 私の視界を手で覆った。


「だ――」

「シャルちゃん!」


 だーれだ! などと言わせる暇など与えず、私は背後のセリフを食って回答した。しかし、回答した直後から、くすくすという笑い声が聞こえてくる。あれれ?

 バシャバシャと、両脇からプールに人が入る音。そして、私の視界を奪った後ろの君 (暫定候補シャルちゃん)は、私に身を寄せて、そのまま密着してきた。シャルちゃんには無いものの感触が、背中に柔らかに、温かく感じられた。そして、仄かに香る、花のような香り……。つまりこの子は、シャルちゃんじゃ……ない?


「だーれだ?」


 耳元で優しく、囁き声で問われる。

 緊張と恥ずかしさが滲んでいるのであろう、震えるその声は、まさに劇薬。私を一撃で震え上がらせた。


 いやいや、こ、答えなきゃ……。


 そう思うも、回答を待つ間の、後ろの彼女の呼吸の吐息が、時折、耳にかかり、そのたびにゾクリと背中が痺れる。


 私、こんなに耳、弱かったっけ? それとも、目隠しをされているから?


 今、目隠しを解かれたら、どんな情けない顔をしていることやらと、少し怖く感じながらも、回答をし直す。


「しぇ、シェリーしゃん……」


 呂律(ろれつ)が回ってなかった!? 恥ずかしい!!


「正解は〜?」

 と、前から声。聞き慣れたそれは、間違いなくこっちがシャルちゃんだと分かる。

 顔から手が退けられ、私の顔が(あらわ)になるその刹那、私は自分の手で顔を覆った。

 絶対に変な顔をしている。見られるわけには行かない!! その一心だった。

 目隠しされたまま、耳元で囁かれ、さらに息を吹きかけられて変な気持ちになって、顔が蕩けているなど、知られるわけにはいかないのです! 乙女として!


「ちょっと、ディーちゃん!? それじゃ答えが分からないよ?」

「い、今はちょっと……顔は無理……見ないで……///」


 お尻を滑らせてプールに入ると、空気を吸い込み、そのまましゃがんで水に潜った。


「これは、是が非でもお顔を見なければなりませんわね! お二人とも!」

 ユニエラちゃんが嫌な提案をしているのが聞こえる。


 その後すぐ、私は、三人によるくすぐり攻撃によって、体内の酸素を吐き出し、あえなく御用となった。だけど、くすぐりで笑ったおかげで、蕩け顔を晒さずに済んだので、不幸中の幸いではあった。


「な、なんだか……」

「ええ……(ゴクリ)」

「色っぽい、ですね……ディティスちゃん……」


 お、おかしい……。蕩け顔は見せていなはずなのに、三人とも私の顔を見て生唾を飲んでいる。色っぽい? なぜ?

 

 そのとき、はらりと、結っていた髪の一部が解けた。くすぐり攻撃の中で結びが緩んでいたらしい。濡れ髪は結い直すのが大変だし、髪を傷めるんだよねぇ。と、もはや髪留めの体をなしていない状態のヘアクリップを外すと、残っていた髪も下りる。結うのは乾いたらだね。

 などと、注意を欠いた私が再び三人に視線を向けると――


「な、なんか、近くない? 三人とも」

 返事はない。ただの屍――いや、彼女たちの目は、言うなれば、猛獣のそれだった。


「綺麗だよ、ディーちゃん……」

「ディティス様……」

「反則ですよ、ディティスちゃん……」


 ずいと、三人が距離を詰めてくる。熱の籠もった目で。気圧(けお)されて思わず後退(あとずさ)るも、背中には壁。

「さ、三人とも、お、落ち着こう? ね? ほら、見てみて、景色。すごく良いよ! ……遊ぶんでしょ? な、何して遊ぶ?」


 返事はない。

 シャルちゃんの細く(しな)やかな両腕が、私の首に回る。

 ユニエラちゃんの長い指が、私のお腹をそっと撫でる。お腹の奥の方で何かが疼く。

 腰に手を回したシェリーちゃんが、顔を耳元に寄せて囁く。「耳が、弱いんですね、ディティスちゃん♡」バレていた……。


「じゃあ、ディーちゃん()、遊ぶね♡」

「――んぅ……///」

 蠱惑的な笑顔でそう言うと、シャルちゃんは私の唇を奪った――。


 まだ日は高くて、しかもここは外で、私は三人を相手に声を抑えるのが大変だった……。

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