魔族の国編 ⅢⅩⅨ
到着した宿屋は、思っていたよりも大きくて、格式高そうで、私たちは面食らった。
こんな、見るからに冒険者でございといった容姿の私たちを、すんなり入れてもらえるのだろうかと不安が過ぎる。
が、そこは王子殿下である。
クガルーアさんは、平然とした顔でドアマンに向かって行く。
当然止められる。だがそこで、伝家の宝刀! ――ダジャレではない。
クガルーアさんは、紹介状を指で挟んでピッと見せる。無駄にかっこつけていると、シウスさんが隣で溜息を吐いた。
怪訝な顔で紹介状を受け取ったドアマンは、文面を検めると、目を大きく見開いた。何が書いてあるのかは知る由もないけれど、概ねの想像はつくので、その驚きは理解できる。
そして、慌てた様子で紹介状を持って中に引っ込んでいった。えっと、ドアマンの仕事は……?
少しすると、ドアが開いた。さっきのドアマンだ。「どうぞ」と、さっきまでとは打って変わった、にっこり営業スマイルだった。
少しの言い知れない、謎の罪悪感を感じながら中に入ると、従業員と、偉い人っぽい人たちが、横一列でお出迎え。ここまでしなくても!
「いらっしゃいませ!」と、綺麗なハーモニーを響かせて、深々とした一礼まで披露された。こんなことを庶民の私にされた日には、もう、こっちが謙遜してしまう。
そんな私たち一般庶民の内心など露知らず、クガルーアさんをはじめとした貴族出の皆様は意にも介さず受付カウンターへと進んで振り返る。
「部屋割りはどうする?」
ノリが軽いッ!!
「……お、お任せしましゅ……」
過去一で小さい声が出たと思う私でした……。
なんでも、私たちの宿泊費は王城から出るという、紹介状の文面だったらしく、それに甘えさせてもらうことになった私たち。
そして、肝心の私の部屋はというと、ユニエラちゃんの強弁により、キングサイズベッドのスィート。シャルちゃんとシェリーちゃんとの同室になった。最上階のその部屋には、ジオロジィの街を一望できる温水プールと、広い浴槽が備えられているのだそうだ。お風呂は兎も角として、プールは宿の部屋に必要なのだろうかと、庶民感覚的に思ってしまう。
それはさておき、他の部屋割りはというと――
まず、クガルーアさんとシウスさんの二人部屋。スィート。順当。
次いで、シーリーズさんとリヴィちゃんの二人部屋。一般客室。これも順当。
アレイスターさんの一人部屋。一般客室。
あ、一般客室と言うけれど、ちょっと見せてもらった限り、私たちが普段使うような宿屋の一番良い部屋よりもずっと上等だったと、付け加えさせてもらうよ。念のため。
そして最後に、意外なペアとなった、アイちゃんとクロウの部屋。ロア君がいないからとはいえ、大丈夫なのかな、この二人で……。社交性の塊で気遣いの神であるアイちゃんはともかく、クロウはそういうのと無縁そうだし。人の血肉で体洗ってそうじゃない?
「また巫山戯たことを考えているな、アンカー」
「別にい? ――大丈夫、アイちゃん? 一人部屋でも良いんだよ?」
「だ、大丈夫。い、いくらティレル陛下が、や、宿代をもってくれると言っても、や、やっぱり、限度はあると思うし、そ、それに、クローさんとも、す、少しは、な、仲良くなりたいから……」
「ふっ、誰かさんと違って、慎ましくて、礼儀を弁えてそうで、可愛らしいじゃないか、キール妹。嫌いじゃないぞ」
「何様だよお前……」
「うるさいぞ、無神経ガサツ女。話しかけるな」
「はいはい」
と、部屋割りが決まり、各々荷物を置いて再びロビーに集まったところで、今日のところは解散、自由行動となった。
「よし、キール妹。街へ行くぞ。仕事で何度か来ているから案内してやる。どうした? 俺と仲良くなりたいんだろ?」
「う、うん!」
本当に二人で出かけていった……だと!? まぁ、アイちゃんはしっかりしてるし、悪い遊びにハマるとか、非合法なことに首を突っ込むとかはしないだろうけど……クロウかぁ……不安だ……。
そんなことを考えながら二人を見送っていると――
「ディティス様! あちらで水着が借りられるそうですわ! お部屋のプールに行って遊びましょう!」
ユニエラちゃんが興奮気味に詰め寄ってきた。
「ディーちゃんの水着! えっちなのを選んであげるね!」
「嗚呼――今、私がディティスちゃんのほぼ裸体なぞ見てしまったら、意識を保っていられるかどうか……。ですが、このシェリー、負けませんわ!」
と、三人で私を囲んで、やいのやいの言いながら、貸し衣装室と書かれた部屋へ向けて、腕を引っ張り、背中を押してきた。
「いや、シャルちゃん、えっちなのは……ちょっと……私は普通のがいいかなぁ……」
えっちなのはシャルちゃんの方が似合うと思うからね。私のはいいんですよ、地味めなので。ふふふ、とびきりの美人三人で目の保養、目の保養〜。
「「「えっちなのを着せたいの(ですわ)!!」」」
三人の圧が、凄かった……です。
「いい加減、そろそろ百合を書かないと、死ぬぜ、お前?」
と、超かぐや姫やら他の百合作品やらに脳を殴られ続けているので、書きます。




