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シア薬剤店  作者: レレナ
第1章
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第7話 シアの日常 -朝-

ようやく第1話に繋がりました。


今回は第1話その後という事になります。

「はぁ」と「ふぅ」の中間のようなため息が漏れる。


 お金の無い経験の浅い、冒険者に成り立ての者や、それなりの年月を冒険者として生計を立ててはいるが、それほど実入りの無い冒険者たちから無茶な値引きを求められる事は多々ある。そういった手合いを相手にする度、ため息が漏れる。


 言葉が通じないのが一番困るなぁ…


 この異世界に来て1年とちょっと。多少こちらの言葉は覚えたが、それだって自分の扱う商品の名前と、日常的にある物の単語がごくわずか。簡単な会話すらおぼつかないのが現状だった。


 この異世界に来る前は普通の中学2年生だったし、英語は大の苦手。ごくわずかに覚えたの単語と動詞では無理がある。


『アメリカに1年留学でもすれば、勉強しなくても日常会話なんかペラペラになるぜ?』


 同じクラスの男子生徒が、そんな事を言っていたのを思い出す。


 ウソだ。単語や動詞はともかく、会話なんてムリ。異世界に1年ちょっと居て、それが証明されてしまった。


 またため息が無意識に漏れる。


 朝もやは晴れたが、商売をするには不向きの川べりではまだあまり客が来ない。中央広場ではにぎわい始めているのが遠目に見える。


 中央広場の中心付近は無理でも、広場の端っこ位なら空いているスペースとお金さえ出せば露店を出せるが、ほとんど人の来ない川べりに露店を出すのは、非正規品や脛に傷のある者、場所代すら払えない低所得者がほとんど。


 人が来ない→売れない→お金が貯まらない→場所代が払えない→川べりに露店を出すしかない→人が来ない


 悪循環だった。


 と、また私の前にお客さんが来た。


 また冒険者。今度は女の人一人だった。フードなしのローブで小さな玉を組み込んだ杖を持っている。若い人で柔和なカンジ。魔法使いかな? 熟練の冒険者の女の人は結構キツそうな強面の人が多いけど、この人はそんなことは無かった。


 つらい冒険の日々で徐々にキツい顔になるのか、キツい強面だから熟練に成れたのかは解んないけど…


 どうでいいことだけど、何で魔法使いはローブなんだろ? 杖はまだわかるけど、会う人みんな揃いも揃ってローブばっかり。ローブ=魔法使いが私の中で固定化してしまっている。魔法使いはローブしか着ちゃダメって法律でもあるのかな? それとも逆にローブは魔法使いだけが着て良いっていう法律? そういえば鎧とかの上にローブ着ている人、見た事無いな…


 どうでもいいことを考えながらも、魔法使いの女の人に商品が書かれた木切れを見せる。


「**********これだけ? *******魔法薬******、******」


「魔法薬。無い。薬。これだけ」


 何とか聞き取れた、知っている単語から判断して答える。


 私の扱う薬は、その時に手元にある薬草とかから作るので、毎回陳列商品が微妙に変わる。粉薬、軟膏、液体タイプなど様々あるけど、魔法薬は無い。


 魔法薬というのは傷や毒、痺れと言ったモノを瞬間的に治す薬のこと。


 普通、薬という物は体内の免疫とかを活性化させて自然治癒力を高めるモノで、時間もかかるし、治るまでに本人の体力とかが重要になってくる。対して、魔法薬と言う物は、本人の体力とか自然治癒力とか完治までの時間とか一切無視した物。


 初めから魔法効果がある薬草や、特殊な魔物の体の一部…ツノとかキバとか目玉とか。そういった素材から作った薬自体に魔法を更に封じ込めて作る特殊な薬のこと…らしいけど、私には作れない。


 そういった素材は持って無いし、封じ込める魔法も知らない。と言うか、そもそも、魔法ってどうやって使うかわからない。なので私には魔法薬は作れない。


 ちなみに、瞬間的に治す効果がある魔法薬と言っても、グレードがあって、ピンからキリだ。普通の薬と比べても遜色無く、けがが治った後になって、まあ、早く治ったのかな?…なんて最低ランクから、怪我が逆再生みたいに目に見えて治っていく物。はては瞬きする間も無く本当に一瞬で治る最高ランクもある。最高ランクなんて見た事無いけど…


 素材自体にもランクがあって最低ランクの素材はそこら辺の普通の薬草に毛が生えた程度の金額だから、私でも、まぁ買えない事は無い。魔法使えないから結局魔法薬作れないけど。


 効果が早いし確実だから、貴族様や裕福な商人や、切った張ったが商売の冒険者が買う。


 目の前の魔法使いの冒険者は、駆け出しでそんなにお金もないから普通の薬を買いに来たといったところかもしれない。木切れに書かれた商品名と値段を見て、うーんと悩んでいた。


 駆け出しでお金が無くて魔法薬が買えないのに、中央広場ですらない、こんな川べりの露店で魔法薬があると思うのはどうかと思うけど…まぁ、さっきの無茶な値引きを要求してくる人よりはマシなのかもしれない。


 やがて決めたのか、魔法使いは木切れを私に返してくる。


「*********、******傷薬**赤***、3包****」


 今日、私が売っている中では最低ランクの傷薬が3包の様だ。


「傷薬。赤。1包。銅貨。5枚。3包。銅貨。14枚」


「***、****。はい、ありがと。銅貨14枚ね」


 私は銅貨14枚を受け取り、薬を3包渡すと、魔法使いは帰って行った。


 さっきの値引きみたいにならなかったから、問題なく済んだ。


 一瞬不思議そうな顔を魔法使いはしたけど、サービスした事が解ったようだ。


 この異世界のお金は『銅貨』『銀貨』『金貨』の3貨幣制みたい。銅貨100枚で銀貨1枚という事は判った。金貨の価値は解らない。金貨なんて見た事すら無い。


 私の薬の値段は別に高く設定しているわけではない。周りの同業者との兼ね合いがあるので十分適正価格で販売している。銅貨5枚がこのランクの傷薬の価格帯。


 まったく売れないと困るので安くしたいけど、あんまり安くして薬草とかの素材代を割っちゃうと意味無いし、同業者にも睨まれる。


 傷薬1包銅貨4枚でもいいけど、その微妙な価格の線引きがよくわからないので、3包買ってくれた魔法使いさんには銅貨1枚サービスしたのだ。これなら3包で銅貨1枚だから大した額じゃないし。


 あんまり安くして薄利多売して『あの時』みたいになるのが一番怖いし。

8/30 タイトルに話数入れました。

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