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シア薬剤店  作者: レレナ
第1章
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第8話 商売の理想

今回は第1話と第2話からちょっぴり時間が遡ります。

時系列的には第7話と第1話の間です。

話が行ったり来たりしていますが、今回はちょっぴり昔を思い出していると思ってください。



ちなみに『閑話 小作農ポーラの証言』と今回の話で多少話が食い違っている所が数か所あります。(例えば、シアは1ヶ月だけグリアに預けられたはずなのにシアはポーラの元に戻らず普通にグリアと街を去った…とか)これは言葉の通じないシアとポーラたちの間で起こった相互理解の不備を演出したつもりです…下手ですみません。

 お世話になったポーラさんの家から出て1週間経った。


 私はグリアさんと言うお婆ちゃん一緒に薬を売りながら村や町を移動していた。


 と言っても、実際に薬を作っているのも売っているのもグリアお婆ちゃんで、私はと言うとグリアお婆ちゃんにくっついて歩いてグリアさんが薬を作るところを眺めているだけ。


 私が、薬の調合に興味を持ったのはポーラさんの家に訪問販売に来たグリアお婆ちゃんが来た時だった。単なる木の根っこやただの草や葉っぱにしか見えない物を細かく砕き、すり潰し、粉にしていく様は私にとって魔法の様な光景だった。


 実際に魔法と言う物を見た事は無いけど、特別な機械や器具を使わず、単なる石で出来たすり鉢に擦り棒。ただそれだけで薬が出来るのだ。魔法を唱えるわけでもない、特に気負った様子も無く、のんびりと、家の住人と会話を楽しみながらの調合風景。初めて見るその光景はまさに魔法だった。


 私は、薬の調合と言うモノにえも知れぬ興味がわいた。その日はじっとグリアお婆ちゃんの作業を見つめていて、あっと言う間に時間は過ぎ、グリアお婆ちゃんは帰って行った。


 グリアお婆ちゃんやポーラさんに色々聞きたい事があったが、言葉が分からないのがもどかしかった。


 一月後にまたグリアお婆ちゃんが来た時は、再びグリアお婆ちゃんの作業をじっと見ていた。この頃になると、私はポーラさんの家で手伝っていた農作業がまともに手伝えてなく、かえって邪魔になる事がしばしばだった為、自分が情けなくて気落ちしていた時だったので、興味があった調合風景はなおのこと輝いて見えた。


 隠していたけど、気落ちしていた事、薬の調合に興味があった事はポーラさんにもバレていた様で、ポーラさんからグリアお婆ちゃんに、薬の調合を私に教えてくれるよう頼んでくれたみたいだった。


 薬の調合を教えてもらうにはグリアお婆ちゃんと一緒に行かなきゃダメなようで、しかもグリアお婆ちゃんは、その日のうちにこの街を出る様だったのですぐに私も付いて行く事になった。


 言葉も通じず、右も左もわからなかった私を色々と気にかけてくれたポーラさん一家。きちんとお礼とお別れしたかったが、言葉が通じないのは辛かった。


 結局、きちんとしたお別れも言えずにいたけど、ポーラさんは解ってくれたみたいで、お別れの最後には私をぎゅっと抱きしめてくれた。


 ポーラさんの家を出てグリアお婆ちゃんと一緒に薬の売り歩きだけど、言葉が通じないのは変わらず、グリアお婆ちゃんが何を言っているのか理解するのに四苦八苦した。逆にグリアお婆ちゃんは私が何を伝えたいのか、何と無く解るようでさほど苦労している様子は無かった。ずるいと思ったけど、それが年の功なのだと思う。ポーラさんもそれなりに私の伝えたい事を察してくれていたけど、グリアお婆ちゃんはそれ以上。人生経験ってスゴイ。


 各地の村や町を回りながらの訪問販売。私はゆっくりとグリアお婆ちゃんから薬の調合を教わっていった。もちろん最初から薬なんて作らせてもらうわけもなく、初めてやった作業は、乾燥した葉っぱを物凄く細かくすり潰す事。まあ、それも不合格だったみたいだけど。


 不合格でも、グリアお婆ちゃんは怒らず、いつもニコニコとしていて「もう少し細かく」を繰り返して言ってきていた。もちろん言葉は解らないけど、何と無くそれは私にも解った。


 合格した時はとびっきりの笑顔で私の頭をなでてきて、また違う葉っぱを手渡してくる。コレの繰り返し。葉っぱが違うだけで、やってる事は同じの単純作業だったけど、私にはそれがすごく面白いと思えた。


 そうしているうちに瞬く間に1ヶ月が経ち、またポーラさんのいる街にやって来た。


 久しぶりに会ったポーラさん一家は、1ヶ月前と全く変わらず私を出迎えてくれた。


 この頃になると、グリアお婆ちゃんはめっきりと足腰が悪くなってきていた。私と一緒に歩き始めた時と比べても、はっきりと目に見えて動きが悪かった。


 正確な歳は解んないけど、グリアお婆ちゃんは物凄い高齢だ。顔もしわくちゃだし、声もガラガラ。ただ、全然怖くない。なんか逆にあったかいカンジがする声。


 そんなお婆ちゃんがほぼ休み無く村や町を渡り歩っているのだ。今までもかなり無理していたんだと思う。多分この街に来るのは最後になるかもしれない。


 ポーラさんのお父さんの腰の薬がこの街での最後の仕事。薬を作り終えると、グリアお婆ちゃんの足を殊更気に掛けつつ、ゆっくりとこの街を後にした。


 結局、この街がグリアお婆ちゃんの訪問販売の最後となった。今までの無理がたたり、月の村まで残り半分位になった辺りで、グリアお婆ちゃんは、ほとんど満足に歩けなくなった。


 移動中の農家の馬車とかに同乗させてもらったりしながら移動して、今までの村や町には立ち寄らず、私の知らない街にやって来た。


 城壁は高くて頑丈。城門もポーラさんがいた街の様な木の城門じゃなくて金属製。かなり街の規模が大きいみたい。


 街に入る検問はポーラさんのいた街で発行された身分証で無事に通行出来た。


 街に入ると、やっぱり今までの街とは規模の何もかもが違った。今までほとんど見かけなかった冒険者がどこにいても見かけるし、商人や露店、商店、宿屋の数が物凄い。元の世界の地元の駅前やアーケードまでとは 言わないが、活気が凄い。


 どうやら、この街はグリアお婆ちゃんが本来住んでいる街のらしい。街の片隅、低所得者であろう人たちが多くいる区画にひっそりとある、店舗を兼ねた小部屋がグリアお婆ちゃんの家の様だった。


 グリアお婆ちゃんが懐から小部屋のカギを取り出して扉の鍵を開ける。しばらく開閉されていなかった扉は金具が軋み、ギギギと音を立てた。


 私と一緒になってから一度もここには来ていない。最低でも1ヶ月は空室だったであろう部屋の中は少し埃っぽかった。


 家賃とかどうなってるんだろう? 完全に買い取っている部屋なのかもしれない。言葉は解らないけど、そのへんは追々解ると思う。


 部屋の中にはほとんど何もない。小さな机と椅子。ベットと小さなタンス。それだけだった。


 街に着いたのが夕方近くだったので、その日はそのまま近くの露店で夕食を済ませて、グリアお婆ちゃんの部屋を掃除。そのまま泊まらせてもらった。


 次の日から、グリアお婆ちゃんは部屋の中で薬を作り、そのまま部屋に来た人に販売をする、という形をとった。


 元々グリアお婆ちゃんはそういう販売方法をしていたみたいで、部屋に来た人は普通に薬を買っていって特に問題は無かった。それにグリアお婆ちゃんはこの辺りでは人気の薬屋さんだった様で結構な人数、お客さんが来ていた。


 それから半年。


 グリアお婆ちゃんの部屋に住み込みで働き、営業時間外や休みの日、お客さんの途切れた合間を縫って言葉や薬の調合を少しずつ教わっていった。


 グリアお婆ちゃんが薬を作りそのまま販売をする形だったモノが、商品名や簡単なあいさつ程度を何とか覚えていった頃、グリアお婆ちゃんが薬を作り私が販売をするという形に変わっていった。


 英語の成績がお世辞にも良いとは言えなかった私が、言葉を覚えるのは相変わらずだったけど、薬の調合は面白く、楽しかった。


 たまに商人から薬草を買い取ったり、冒険者に薬草採取を依頼したり、冒険者が突然アポ無しで持ち込んだ薬草とかを買い取ったりと…対応するのはグリアお婆ちゃんだったけど、毎日真新しい事が起こって楽しい日々。


 冒険者から持ち込まれる薬草の値段とかも何と無く解ってくれば、商人から買う金額との差異も解ってきて、今持ち込まれたあの薬草はこれ位かな~と勝手な予想を立て、実際にグリアお婆ちゃんが手渡す金額を見て、当たりハズレを心の中で一喜一憂する。


 グリアお婆ちゃんは商人から買う事もあったけど、基本的には冒険者の持ち込みを買い取ることが多かった。一番安く仕入れられるのがそれだったからだ。そして安く販売する。


 グリアお婆ちゃんのお店がお休みの日や露店で何回かご飯を食べた時に他の、薬を売っている他のお店も見てみたけど、ウチが一番安かった。


 安く仕入れて安く売る。それなりに生活出来るだけの量を作る。グリアお婆ちゃんの薬屋は理想だと思う。だからお客さんも多いしリピーター、固定客も多い。


 薬の調合の勉強は面白いし、売るのも楽しい。まだまだわたしがすり潰した粉をそのまま使ってはもらえないけど、自分の作った薬が売れるようになりたい。


 毎日が楽しかった。

次回は9月3日 12時を予定にしています。

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