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第五話:屋敷と愉快な仲間1

 シュタインとの戦闘を終え改めて忠誠を誓われた俺はといえば、「もう少し身体を馴らしておきましょう」というシュタインの助言に従い、現在メデカと鬼ごっこの真っ最中である。かれこれ何時間経ったのか。



 あの猿!!全然!!捕まらねぇ……!!



 シュタインとの時よりも遥かに殺気立っている自信がある。だというのに、空振り、空振り、空振りだ。憎らしいことにメデカは身体に似合わぬマントを羽織っている。これは鬼ごっこ開始前にシュタインがメデカに着せていたのだが、マントの先さえ掴めねえ。素早さが異常だ。シュタインの実況によると、どうやらメデカは魔界の中でも最下層の下級魔族であるが、逃げ足の速さだけはトップクラスらしい。悪さといえば物を盗むくらいだという。こそ泥か。




 ――ようやくマントの端を掴むまでに身体が馴染んだ。メデカを捕らえることが出来なかったのは、非常に気に食わないがシュタインが「屋敷にご案内します」と言うのでそっちを優先した。決してあの猿相手に尻尾を巻くわけじゃねぇ。いつかぜってー噛んでやる。


 シュタインの後を着いて走り続けていると、大きな屋敷が見えてきた。蝙蝠が羽を広げたような形をした門がある。はっきりいって、デザイン重視で侵入者を防ぐ気概が微塵も感じられない。常にウェルカムって感じだ。ただ、羽の形をした門にところどころ何かが溶けている……つぅか融合?とりあえず気持ちが悪いモノなので俺は見なかったことにした。


「ケルベロス様、この門は屋敷の住人以外を喰らいああして栄養を取り込んで成長します。イーターという魔草の一種ですが、ここまで大きなイーターはケルベロス様の屋敷以外にはありません」


 ……だというのに、シュタインが誇らしげに解説するものだから、視界に入れてしまった。イーターという魔草だそうだ。マジか。草なのかこれ。見た感じもの凄く固そうで黒々としている。つぅか、見なかった事にしていたが、やっぱアレ、喰われてんのか。そうだよな。さっきからギャアギャア騒いでるもんな……。


「では屋敷に参りましょうか」


 その断末魔の叫びを耳にしてもシュタインは笑顔だ。背景とのギャップに、俺はつくづく此処は魔界なのだと感じた。このイーターという魔草に必要なこととはいえ、悲痛な叫びを耳にして感じるものがあるのは、俺が人間だったからだろう。


 どうやら俺はこの門に屋敷の住人として認識されているらしい。ケルベロス家って言ってたからな、たぶん識別出来るんだろ。魔力で判別とかしてんのか?詳しい事は解んねーけど、俺はもう諦めた。自分で理解していくしかない。

 門をくぐって屋敷までの道のりを歩く。


 道端に干からびた何かがゴロゴロ転がっている。低級の魔物だったものだろう。それをシュタインがさっきから、通り道に転がっているものだけ起用に剣で放り投げている。


「……申し訳ありません、ケルベロス様。リリスが食い散らかした残骸でしょう。この見苦しいものは屋敷に着き次第処分させます」


 ああ、そうしてくれ。見てて気分が悪いしな。衛生面の上でそれは大事だ。魔界に衛生も何もあったもんじゃねぇけど……。


 屋敷の扉の前につくと、シュタインが扉に手を掛けて開く。意外にも中は普通だった。全体的な色調は暗色で統一されているとはいえ、床には絨毯が引かれているし奥には階段がある。だが、それだけだ。家具もなければ、灯りも見当たらない。そもそも魔界は1日中曇天で薄暗いため自然と夜目も利き明かりは必要なかった。


「おお、待ちかねておりましたぞ!ケルベロス様……!」


 その階段から駆け下りてくる一つの影。とてとてという擬音がお似合いの三等身だ。これだけ聞くと女がカワイイと声に出しそうなものだが、そんな可愛らしいものではなかった。潰れて餡がはみ出たあんパンみたいな顔の、燕尾服を纏った何か。頭が2、身体が1といったアンバランスな姿は滑稽であり不気味だった。それが恭しく頭を垂れるものだから、頭の重さに身体が浮き上がって逆立ち状態だ。


「ああぁあ、シュタイン!早くわたくしめを起こせ……!こんなっ、ケルベロス様に無礼極まりない姿を晒すなど万死!!」

「残念だ。俺は主君以外の命令を訊くつもりはない。どうしてもというならば、オラン。皿の毒を舐めるように願い出て頂けませんか」

「それでこそケルベロス様に仕えるに足る臣下っ!シュタイン、貴様をケルベロス様の第一の臣下に推したわたくしめの目は素晴らしい」

「自賛はいりません」


 ヤバい。見ていられない。悪い意味で。手足ばたつかせるのをやめろ!言い難い気持ちの悪さだぞ、こいつ!シュタイン、とにかくどうだっていいから起こしてくれ……さっきの方が見ていて耐えられる。シュタインを見上げて鳴く。シュタインはこれでいて俺の願いを正確に読み取るのに長けているため、すぐさま「わかりました」と頷いてソイツを持ち上げ足から床に落とした。


「おお、なんと臣下思いのお方であろう……!このオラン、誠心誠意ケルベロス様にお仕え致すと改めて誓いましょうぞ!」


 だから頭を下げるなこの馬鹿!!



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