山賊討伐
「山賊?」
報告書を見た嶽城将成は、眉をひそめながら、上司のショウリの顔を見た。
「そうだ。街道を行き交う商隊が次々と襲われ、すでに死者も出ている。さらに、山賊の頭が異世界人だという情報を貰った。事実かどうかは分からんが、それが本当なら、対処してこい。処遇はお前が決めろ」
仕事の書類を処理しながら、ショウリは答えた。
「部下もいくらでも連れてって構いませんからしっかりと役目を果たしてきてくださいね」
ショウリの紫髪の女の従者が黄金の目から溢れ出る威圧感を与えながらそう言ってきた。
「分かりました。行ってまいります」
将成は報告書を置き、執務室を後にした。
「あの美人だけど、怖いんだよな」
執務室を出て、ドアの前で小声で愚痴を言った。
***
翌日、商隊の一員に扮して、山賊が出没する街道を進んでいた。
「マサナリさん。仕事の分はやりますけど、我々の命は守ってくださいね」
商隊の一員の男が問いかけてきた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと守りますよ」
将成は周りを警戒しながら、男の問いかけに答えた。
その時、前方から爆発音が聞こえた。
「前か!全員、警戒しろ!山賊が近くにいる」
商隊の一員に扮していた隊員に向けて大声で言った。
「俺は例の頭が前方にいるだろうから、前に行く。ユリチェさん。商隊の皆さんのことをお願いします」
将成は前方に向けて走り出した。
前方では、別の商隊が山賊たちに襲われていた。
護衛らしき男達が、山賊達と剣を交えていた。
「お、おい。やめてくれ…欲しい物はあげるからさぁ殺さないでくれ…」
商人の男が後ずさりしながら、山賊の男に訴えかけていた。
「無理。君の命は、この山賊の頭である俺が決めることだから」
頭を名乗る男はニヤニヤしながら、男に剣を向けていた。
将成は、走りながら腰に懸けていた刀の鍔を左手の親指で押した。刀を鞘からわずかに抜き出し、山賊の頭を名乗る男に斬りかかる準備をした。柄を右手で持った。
「お前が頭か!」
そう叫んだ。
「武士」
山賊の頭が将成の方を向いた瞬間に、刀を抜いた。同時に黒い煙のような闇が刀から溢れ出し、闇が全身を覆った。
将成は足に力を入れて加速した。
「天佑・雲煙」
烈が商人を人質に取ろうとした瞬間に黒い煙のような闇が周囲に広がった。
「チッ」
烈が闇に対応している隙に、商人の男を抱えて安全な場所に移動した。
そして、全身の闇が晴れた。
将成は黒い甲冑を纏い、黒い煙のような闇は甲冑から溢れ出ていた。
「大丈夫ですか?彼は俺が相手をするので、後ろに俺の仲間がいます。そっちに逃げてください」
商人の男を落ち着かせながら、優しい口調で声をかけた。
「あぁ。大丈夫だ。ありがとう。お前も気をつけてくれ」
商人の男はそう言って、後ろへ逃げた。
「お前も女神様から戴いた神稟持ちか!いつかは戦いたかったから今日の俺は幸運だ!俺の名は、大倉烈。お前の名は?」
大倉は、興奮しながら将成に問いかけてきた。
「我こそは、シャルバーレ連合の対魔・対異機構。通称AMOの嶽城将成である。な~んて」
将成は武士の様に名乗ってみたが、少し恥ずかしかった。
「すまん。君の願いは叶わないかな。俺は神稟ではない。堕天した。要するに、神稟を捨てた。俺が使っているのは、固有能力である天稟なんだ。そんな神の玩具には興味ないよ」
そして、続けて将成は冷静に答えた。
「そうか。だが、雑魚どもよりは殺り甲斐がありそうだ」
(まずは、相手の能力を見極めるのと今いるこの場所から離す)
将成は刀を構える。
(相手の能力は煙?それか別のものか。まだ、何か隠しているかもしれない。今、考えても無駄だ。戦いながら、相手の手の内を見極める)
烈は剣を構える。
両者が沈黙する中、将成がその沈黙を破る。
「天威・黒風」
将成は闇の力を刀に溜め、強風と共に砂塵をまき上げながら、斬りかかる。
「気炎」
将成の斬撃に合わせて、烈は剣に炎を纏わせて将成の刀と交わった。
烈の剣と交わった将成の刀の闇の斬撃が烈の剣を刀から弾き離し、烈に向かって一直線に放たれた。
「何!?」
烈は驚きの顔をした。
「よし。上手くいった」
(初めてやったが上手くいったな)
天威・黒風は普段は斬撃であったが、それを将成は烈と剣を交えるまで放たなかった。
「クソ!」
烈はその斬撃により、近くの森に飛ばされた。
それを追いかけて将成は走りだした。
将成は走りながら、刀を鞘に納めた。
そして、すぐに刀を鞘から抜いた。
鞘と刀から滝の如く、大量の水が溢れ出してきた。
「痛ってぇ。ここまで飛ばされたのは初めてだ。だが、ここは俺にとってはいい戦場かもな」
烈は立ち上がった。
「燎原」
烈は剣を振り回し、周りの木々を燃やした。
「天威・一水」
将成は刀から溢れ出している水を刀身から烈に向けて放水した。
(水?闇以外に持っているのか)
「だが、水なんか蒸発させてしまえばいい」
烈は将成の水の攻撃を避けながら、将成に近づいていった。
「出来るならやればいい。」
将成は水が溢れ出している刀を地面に刺した。地面に刺さった刀からは、水が溢れ続けていた。
「魔術《刀》。魔法《水》」
将成は魔術で刀を出した。
この世界の魔術は魔力を使って物の具現化、加工、強化、結界などを行うことができるものであり、魔法は火、水、雷などの属性魔法、回復、強化魔法などを行うことができるものである。
「火牛」
烈が放った炎の斬撃は牛の姿に変わり、将成に向かって突進してきた。
将成は魔術で作った刀に魔法の水を纏わせて烈の火牛を斬った。
両者は技を出し合い、剣技での死闘を繰り返し鎬を削り合った。
「天威・黒風」
「煙炎」
両者は森が燃え、地面は将成の刀によって水浸しになっていることも忘れる程であった。
その時、将成の刀が烈の剣に折られてしまった。
将成は急いで、刺した刀を取りに行った。
両者は、限界に達していた。
だが、今のこの状況が両者にとって望んだ状況になっていた。
烈にとっては炎が、将成にとっては水が、周囲に多くあった。
両者は最後の力を振り絞って技を打ち出す。
烈は森を焼いていた炎を残らず剣に集め始めた。
将成は刀を地面に付けた。
将成は地面に染み込んだ水や地面に溜まっている水を地面の土と石、砂などと共に剣の方に集めていった。
「将成!!この俺の炎でテメェを火葬してやる!!猛炎!!」
これでもう声が出せなくなるぐらいの大きな声と共に、烈の剣に業火のごとく燃えている炎が将成に襲いかかる。
「お前の一撃に応えよう。天誅・土石龍」
将成が操る水は、土や石、砂を巻き込んで龍の形となり、烈の《猛焔》を受け止めた。
両者の攻撃はぶつかった。
「焼き尽くせ!!」
「飲み込め!!」
互角だった二つの攻撃だが、次第に烈の《猛焔》が《土石龍》に押され始めた。
「クソ!まだだ!燃えろ!」
その言葉通り少し盛り返したものの、どんどん集まってくる土や石、砂に押されてしまった。
烈は土石龍に飲み込まれた。
「ハァハァ…危なかった。隊員を呼んでこの中に飲み込まれた烈を引き出さなくては」
将成は水の斬撃を空中に放った。
数分後、隊員達が来た。
「あっちにいた山賊はどうなった?」
「全員対処しました」
「そうか。じゃあ、すまんがこの中に山賊の頭の烈がいる。引き出してくれ。引き出したら教えてくれ」
将成は隊員から水を貰い軽く休んだ。
「いました」
隊員達は烈に向けて剣を構え、烈を紐で縛って捕まえた。
「生きてる?生きてるなら、話させろ」
将成は烈のもとに行った。
「もう抵抗はやめろ」
烈の所に行き、しゃがんで話しかけた。
「情けなどいらん。さっさと殺せ!」
「じゃあ、一つだけ聞きたい。俺もまだここに来たばっかりだ。お前はどうして、山賊になった?」
「俺はこの異世界に来て、色々と人々を救ったりしていたら、いつの間にか領主になっていた。だが、5年前の反乱のせいで妻も子も領地も無くした。俺が生きる為には、これしかなかっただけだ」
「そうか。たとえ一一」
将成が何かを言いそうになったが烈がそれを遮った。
「お前との話などどうせ死ぬのだからどうでもいい。早く妻や子のもとに連れてってくれ」
「悪いが、それはできない。お前が過去に何を失ったかは分かった。お前が奪った命は戻ってこないし、なかったことにはできない。今は生きて罪を償うことだ。」
将成はそう言って立ち上がり、隊員達に告げた。
「烈は拘束したまま連行してくれ。処遇については帰ってから考える」
「承知しました。後は我々にお任せください」
「生きるというのはやはり大変なものだな。さて、ショウリさんに報告しなくては」
将成は背伸びをしながらそう言って現場を後にした。




