第37話:おにぎり
翌朝、目覚めるとすでに水コンビが来ていた。シャフ君も珍しく私より早く起きている。
「珍しいね、シャフ君もいるなんて」
シャフ君は不服そうに答えた。
「毛が生えてない手の人材が必要だって、なんか知らんけどロウ君に叩き起こされたっす」
あ、確かに?
「ではみなさん、まず米を炊かねばなりません。
えー白米はまず綺麗な水で洗いまして、あとはなんか鍋にぶち込んで、指のひと関節目くらいまで水を入れて…
それで…あれ…?なんか『はじめコトコトなんとかかんとか』みたいな感じだったんだけど……思い出せない…」
「「「「「……は?」」」」」
いや、そうよね、一同そうなるよね。
何だっけ…
初めコトコトにトコトコあわせてコトコト…
違うな。何かこれ早口言葉と混ざってるな。
そもそも炊飯器でしか米を炊いたことがない…しかもこの囲炉裏の火って火加減できるのか…?
ならもう炊飯器を作ればいいじゃない!
ということで、炊飯器を神力で作るところから始まり、『スタート』のスイッチを押した。
52minと表示されている。
「主、この52minって…」
「あと52分かかる」
「えぇ!せめてできてから起こしてくださいよ!リーマン君ならちゃんとその辺加味してくれるのに!」
「起こしたのは私じゃないもーん。
そういえばさ、魂の管理のシステムってその後どうなってるの?」
私はシャフ君とはすっかりオタク友達で、彼の働き具合の確認をすっかり忘れていた。
「んー…行き詰まってるっすね。最近は自分もう出る幕ないっす」
なんと…
それじゃただの給料泥棒して、昼夜逆転で家に引きこもって漫画読んだりゲームしてるだけの社会不適合者じゃないか…
「どこまでできて、何で止まってんの?」
「朝リストが届いて、それをスキャンしてデータ化して、上から見てくだけ、みたいに転生先辞典と照合しやすいように、魂を並び替えるとこで止まってて、そこから先はいまだ手作業なんすよ。
転生先辞典の秘匿性がどうだとか管理がどうだとか規律神はうるさいし。
パスワードかけて、特定の人しかアクセスできない様にしたらいいってリーマン君と言ってるんすけど、
パスワードを忘れたらどうするんだとか言ってて…
あと死神様と連絡というか会えなくて、調整ができなくて、転生先辞典をそもそもタブレットとかで入力してくれるようにできないんすよ」
はー…あの神は本当に…
「規律神には『お前が決めたパスワードをかければ済むだろ。今辞典をしまってるその棚の鍵を物理的に壊して燃やしてやろうか』って、私が言ってたって言っといて。そうすればどっちのほうが安全かわかるでしょう。
死神様はなぁ…私もまだ会ったことないな…水神様、死神様ってどこに行ったら会えます?」
ムーンをせっせとブラッシングしている水神様に声をかける。
「………会えないよ。少なくとも今は。」
何か訳ありだろうか…?
水神様が手を止めたことでムーンが容赦なくパンチしている。
相手は原初の神だぞ…
何となく今はこれ以上聞いてはいけない気がして、深追いはやめておいた。
「その辞典もスキャンするとか?」と、シャフ君に提案するも、本形式な上に、容易に背表紙が切れない様になっていて、1ページ1ページ見開きで読み込んでいくことになるから余計めんどくさくなるらしかった。
「んー…本当に手詰まりだねぇ…」
「そうなんすよねぇ…まぁ、あっちこっちページやら冊子を行ったり来たりしてた前よりはマシって感じですね。
あと、あまりに自動化すると失業者が増えるってのも言ってたすね」
それなぁ…ままならないものである。
その後もあーだこーだと話していると、ピピーっ!と炊飯器に呼ばれた。
「炊けたぞ!出番だシャフ君!」
私たちはひとまず、普通に茶碗に盛って少しずつ食べた。
スイから「おいしい!スズメは損してる!」と謎のコメントが飛び出した。
ほわぁああぁ…
この独特の甘み、食感、やはりソウルフードだ…
他の人たちの様子も見てみると、気に入った様だった。
私は、シャフ君とスイにおにぎりの作り方の解説をした。
水神様は今は、たぬきから手を離せない。
他はみんな毛だらけなので握れない。
まず手を水で濡らして、適量のご飯を手に乗せて…
「「「ぁあ”っちぃっ!!」」」
3人は釜にご飯を投げ戻した。
ちょうど、日向ぼっこなのかお散歩なのか、外から帰って来て少し冷えたおかきの甲羅で手を冷やす。
炊き立てご飯は危険。
その後、無事大小、形様々な塩おにぎりができた。
改めてみんなで食べる。
おぉ!さっきとはまた違うおいしいさだ!!とみんなで盛り上がる。
こたつの部屋に目をやると、たぬきとムーンがチ⚫︎ールが恋しい、何の味が至高だとか話している。
アッシュはひっくり返って寝ている。舌が出っぱなしだ。
ドンは夢中で骨に齧り付いている。
おかきは、果物を齧り、きなこがその匂いを嗅いでおいしいのかと聞いていた。
こんなにわいわい大勢で食べるご飯はいつぶりだろう。
美味しいという気持ちと、
大事な人たちも美味しそうに食べている姿
これが、世に言う『ご飯はみんなで食べた方がおいしい』ってやつか、
まぁでも一人で漫画やアニメを見ながら食べるご飯もまた至高だけどね。
その後、しばらくの間、我が家ではおにぎりブームが続いた。




