第18話:神隠しにあった人間
「シャフ君ネット使えないとあっち行く意味ないよね?家にいる?
一応部屋用意しといたから、必要なもの書き出しといてー!」
そう伝え、私は転移を試してみる。
あの『外の応接間』をイメージする。
パッ!
お!できた!目を開くと着いていた。
そういえば私、規律神たちがどこで仕事してるのか知らなかった!!
しまった!と思っていると、大きなドンが走ってくるのが見えた。
さすが!!案内に来てくれたのねー!!
「靴!忘れてるぞー!!」
ほんとだ、部屋からそのまま裸足で来ちゃった
「ついでにドン、規律神どこにいるかわかる?」
匂いでわかると言うので、背中に乗って案内してもらった。
規律神はまだ仕事中のようなので、規律神の部屋で、元のサイズに戻ったドンと遊びながら待った。
「あー!!もう!!!戸籍ですね!!
本人も良いって言ってましたよ!でも代わりにお願いしたいことがあるとかで、1度直接お話したいそうです!」
「ほう!じゃあ本人のとこに連れてってよ」
「え?神が出向くんですか?」
「え?そもそも無茶な頼み事するのはこっちじゃん?」
どうも規律神とはちぐはぐする。
グチグチ言いながらも、本人のところに案内してくれた。
「リーマン君は?」
「え?昨日の眷属のことですか?今魂の管理の仕方の詳細を詰めていますよ」
働き者なようで何よりです。
1人の女性のデスクにやってきた。
どうやら見た感じ私と同じ国の出身ではなかろうか。
「初めまして。葉露凪です。あ、元人間の怠惰神です」
思わず人間の頃の挨拶が出てしまった…
「あ、初めまして、北尾根 咲と申します。私のような者が直接お話ししたいなどと申し訳ありません」
「とんでもない!無理をお願いしているのはこちらなので。規律神の部屋で話しましょう」
「え!?」と規律神はこちらを見たが、他にどこで話せって言うんだ。とねじ伏せた。
ひとまず応接用のソファに座り、あちらの世界を完全に捨てられるとは、どんな暮らしをしていたんだろうと興味半分で聞いてみた。
彼女は、2週間前までは元の世界で暮らしていたらしい。
両親は早くに事故で他界し、田舎の祖父母の元に身を寄せ、通信制の高校を卒業したそうだが、祖父母の介護と勉強、日雇いのバイトとの両立で友達もできなかった。
そんな祖父母も看取ったところで、親戚との遺産相続の揉め事が始まり、疲れ切って全て放棄した。その後も就職は難しく、細々と孤独に暮らしていたが、耐えられなくなってきていたところで神隠しにあったそうだ。
絵に描いたように不幸である…
「た、大変でしたね…」
としか言えない…
コメントしづらい…
「まぁこちらで返り咲いて見せます!親からもらった咲って名前の通り!」と笑った。
やっぱあの世界線、人間をタフにするな…
私はさっそく本題に入ることにした。
「あなたの戸籍を貸してくれる代わりに、お願いがあると聞いたのですが…」
すると、咲さんはとても気まずそうに言った。
「あの…こちらのトイレ事情をご存知ですか…?」
「いや、それが私たち神々はトイレ要らないみたいで知らないんですよ。まさかぼっとん便所とか…?」と聞き返す。
「そんな生やさしいもんじゃなくて…
バケツに貯めるんです…!!」
ぎぇえええぇえええ!!!!
「ま!!まじでか!!」
「そうなんです…!!私たちの国って、どこよりもトイレ綺麗な国だったじゃないですか!?堪えられなくて…」
それはそう!!
「それでお願いというのは…?」
「現世をご存知の怠惰様の領地で暮らさせてもらえないでしょうか…?きっとトイレも現世に近いですよね…?」
申し訳ないことにトイレどころか、住民ゼロである。
「自分の領地に、神隠し人間に住んでもらうことは問題ない?」と規律神に確認すると、問題ないとのことだった。
芸術の神なんかは、いろんな刺激が欲しくてスカウトしてまで住まわせているらしい。
「よし!うちの領土に家を作りましょう!記念すべき第1領民です!」
トイレの浄化槽に邪悪スライムを入れておけば良いんじゃないかな?
さすがに可哀想か…?
「ねぇ、あの邪悪な落魂って何した魂なの?」と規律神に聞いてみる。
「私も、それが気になって一度、調べたことがあるのですが、色が濃いほど…
口にするのも躊躇われるほどの悪辣非道な人間たちだったようです。
地獄というものがあれば、そちらに落とすべき魂ですね。
もしかすると、あれらは転生させないために落ちているのかもしれません。
正直他の神々も扱いに困っています」
よし、永遠にトイレの浄化槽に堕ちてもらいましょう。
「こっちに来てまだ2週間ということは、まだ銀行口座やクレカ等も残っているのですか?」
と聞くと、口座どころか曰くつきアパートの契約も残っているはず、とのことだった。
ネットは残念ながらスマホのみだった。
「よし!じゃあ一度現世に戻って、そのアパートでインターネットの開通の契約をしてもらえませんか?
お金は現金があるので、あなたの口座に入れます。Wi-Fiのルーターも買いましょう」
これで規律神も文句はないはずだ。
またも咲さんが気まずそうに口を開く。
「あの…そのアパート…出るんです…
だからあまり長居したくないというか…」
「え…?G…?」
「いや、幽霊の方です」
どっちにしろ嫌だな。




