第1話:え?私人間じゃなかったの?
自分よりパニックな人を見ると、
逆に落ち着くというのはよくあることで、
私が今正しくその状態である。
目の前が大惨事だ。
私は100歳の誕生日にきっかり死んだはずだった。
ところが目を覚ますと、そこは広いホールだった。
たくさんの人が整列し、事務的な朝礼のようなものが行われていた。
私は彼らよりも高い壇上にいるようだ。
え?何これ?
どういう状況?
私の葬式…?
いや、知ってる人が1人もいない…
「すみません、三途の川はどこでしょう?」
なんて聞ける雰囲気でもない…
これ不法侵入的な扱いになる…?
目が覚めてるってバレたらまずい?
どうしよう…誰か説明して!
そんな私と同じく、どうやら彼らにとっても想定外のことだったようで、あちこちから驚嘆の叫び声が上がっていた。
私のすぐ下にいたおそらく偉い人たちであろう4人は、顔を真っ青にしている。
おそらく私も同じくらい血の気が引いた顔をしているだろう。
死んでるし。
ドドドドォッ!!
今度は何かが近づいてくる。
今度はなんだ!?と全会一致の恐怖と緊張感が走る。
ホールのドアがドーンッ!!と蹴破られるように開き、巨大な犬たちが乱入してきた。
その後ろを猫と亀がゆったりと入ってくる。
私は見覚えがある彼らに驚いた。
生前私が、施設などから保護して一緒に暮らしていた子たちではなかろうか。
みんな立派になって…
というか大きくなりすぎてない…?
アフリカゾウぐらいのサイズあるぞ…
犬たちは喜びのあまりホールを駆け回り、そんな暴走車のような巨大な犬から逃げ回る人々の、阿鼻叫喚で大混乱これ極まれりだ。
あまりの目の前の光景に逆に冷静になった私は、祭壇のような場所から周りを見渡した。
広いホールはとてもシンプルだが品がよく、淡い白とオレンジの繊細なモザイクの窓から差し込む光が際立ってとても美しい。
集まっている人々は様々な見た目の、様々な形式の服装をしていた。
生前見た色々な文化の民族衣装のようで面白い。
よく見ると尻尾や動物の耳、鱗が生えているような人もいる。
制服と思われる同じ服を身に纏った人々は、一律人間の形をしていた。
これはもしかして…
異世界に召喚されたと言うやつだろうか…?
と、生前のオタク心がうずく。
自分の身体を改めて観察する。
どうやら100歳の老体ではなく、高校生の頃のように、シワもシミもなく、すらっとしなやかな筋肉をしている。
身体が軽い!
物心ついた頃から常時だるかったのに!
特にアラフォーくらいからひどかったのに!!
生前気に入ってよく着ていた麻のワイドパンツに、ゆるっとしたロンTを着ているようだ。
素っ裸じゃなくて良かったぁ。
そしてウェーブがかった癖毛の黒髪がやたらと長く、床につきそうだ。
こんなに髪を伸ばしたことはないんだけどな…と考えていると、「とめないのぉ?」と脳内に声が響いた。
話しかけられた?と思い、あたりを見渡すと、私の膝くらいの高さの甲羅を持ったリクガメが隣でこちらを見上げていた。
この甲羅の模様、つぶらな瞳、間違いない。
「おかき!?」
おかきは私が40年間、生活を共にしたリクガメだ。
片手で持ち上げられるほどのサイズの種類だったのに、大きくなっている。
私は甲羅に抱きついて両腕でゴツゴツした甲羅を撫でまわした。
この感触!本当におかきだ!!
本当に本当に、会いたかったんだよ!!
感動に浸っていると、もっさもさの白い尻尾に頭というか全身をぽふぽふと、はたかれた。
「喜んでるとこ悪いけど、とめてあげてくれる?そろそろ可哀想なの」とまた脳内に声がする。
この真っ白でリッチな長毛の猫!!
「ムーン!!」
ぼふっとその大きな身体にダイブする。
この匂い、毛の質感、あたたかさ、ムーンだ…
「いや、だからね、後ろをよく見て。犬たちを止めて」と言われ、振り返る。
ホールは走り回る犬たち、逃げたり、放り投げられたりする人々、ドラム式洗濯機を眺めているような気分だ。
あら大変。
「おいで!!」
私が声を張り上げると、ピタッ止まり、一斉に犬たちは私の周りに集合した。
また会えた…ここは天国なの…?
いや、天国か、死んだもんな。
どなたかこの状況を…と犬たちの隙間から覗くと、
茫然とする偉そうな人たち以外は、皆気絶していた。
え!?
さっきまであんなに元気に(?)走り回っていたのに!?
「あの…」と恐る恐る声をかけると、ハッと我に帰ったように、彼らは跪いた。
「申し訳ございません!
あまりの想定外の事態に、我々も混乱しておりまして……!
つきましては、至急詳細を確認して参りますので、こちらでお待ち頂きたく…」
勢いよくハキハキと話す彼は、褐色の肌に赤い髪、高そうな布を斜めに巻き付けていて、古代の哲学者のような格好をしている。
「なるほど?わかりました」
そう答えると、彼は頷き、ホールから出ていった。
言葉通じてよかった、と思っていると、脳内に「天界の言葉になってるけどね」と響いた。
今の声はどの子だ?とキョロキョロし、みんなとの再会を堪能しようとしていた。
ただ、チラチラと視界に入る、ホールに散らばる気絶した人たちが気にかかる。
何より申し訳ない。
「あの人たち、どこかで休ませてあげた方が…」
そう言うと、一瞬で壇下の地面が盛り上がって床が斜めになり、開けっぱなしのドアに向かって人々が押し流されていく。
扱いが雑ー!!
金髪の筋骨隆々の男性が、ドアを閉めに行った。
「お目汚しを」とだけ呟き、何事もなかったかのようにしている。
寡黙でなんだか堅物そうだ。
「少し空気も入れ替えましょう」
今度は女性のとても軽やかな声がした。
手を叩く音と共に爽やかな風が吹いた。
きもち良ー!
彼女はとても綺麗な白い髪に、白いふわりとした上品な踊り子のような服がよく似合っている。
トップスとスカートの間から見えるおなかに、へそがない。
そして裸足だ。
爪先立ちしているのかと思ったが、よく見るとちょっと浮いてる…?
本当に人間ではない、何かなのだろう…
正直、意味不明なことばかりで、明確にわかることだけを、私の脳は捉えていった。
待っているだけの時間ほど無駄なものはない。
気兼ねなく再会を喜ぶためにも最低限の情報だけもらって、後々のために時短しておきたい。
まだ話していない性別不詳の人に、
「ここがどこかと、あなたたちにわかることだけでも先に教えてもらえますか?」と聞いてみた。
その淡い水色のウェーブがかった髪の人は、緩く三つ編みにしてまとめて片側に流している。
ゆるっと肩から落ちた羽織と、灰色がかった青い瞳が気だるげで、一番話しかけやすかった。
それにしても4人とも人間離れした美しさだ。
「えっと…そうですね……
まずここはいわゆる天界で、御身がおわすそちらは祭壇です。
通常、儀式により新たな神が降臨される場所でございます。そのため、御身も何かしらを司る神かと存じます。
ただ、我々は儀式ではなく、業務の朝礼をしていただけでしたので、事態が把握できない状態といったところでしょうか…」
ほう……
ん?
神って言った?
私が?
無宗教だった私が?
ないないないない!!!
「いや、神様だよぉ」
脳内でおかきの声がする。
ぎょっと目を丸くして、おかきを見る。
私の思考が読めるの!?
そして神なの!?
何の!?
【こぼれ話】
おかき
「僕だけもふもふしてないけど大丈夫ぅ?」
作者ねむ
「つぶらな瞳も何もかもかわいいから問題なし!!」




