第五章 83話 京の変事と偽将軍
1554年4月21日
昨日、かなりの数の戸隠衆を上方に送り、采女にも上方に行ってもらい、その采配をお願いした。
今日は朝からずっと政庁で兵を直江津に送る手配を指示し、昼過ぎからは屋敷に戻り、梅の間で残りの兵の準備の段取りを考えていた。
備前、肥後、陸奥がいるが、誰も喋らない。
もし祖父が心配する通りだとしたら大変なことだ。明日にでも直江津から船で出よう。
この前の毛利の話を聞いた時から懸念にはなっていたのだ。
すぐにでも相談して足利家に援軍を送ればよかった。
祖父も父上も足利家に対してこんなに好意的だったとは。
いや好意的とはまたなんか違うな。
それに昨日言ってた大峰のことってなんだ。
そこに慌てた又兵衛が入ってきた。
又兵衛「殿!京が!足利家が!」
信輝「何!やっぱりか!」
又兵衛「足利家が攻められました!敵は、細川、六角、三好、松永、朝倉、浅井、それに本願寺も加わっているようです。」
信輝「そんなにか!そして!」
又兵衛「まだその情報しか。次の情報が入ってくるはずですので。」
信輝「わかった。父上の屋敷に行こう。祖父様、伊勢叔父も呼んできてくれ。」
又兵衛「ハッ。」
信輝「先に行くぞ!」
肥後「ちょっと落ち着こうぜ。」
信輝「ああ、悪い。でも義輝様だぞ?」
肥後「将軍家がそんなに大事か?」
信輝「そりゃあ将軍家だぞ?」
肥後「いや、まあそうなんだけど。」
陸奥「まあ確かに義輝様はいいお方だったよ。でも史実見たら足利家ってあの足利義昭だよ?あんまいい印象ないけど。」
肥後「そうだよな。ちょっと思ってたけど、この家の教育、なぜか足利家に寄ってるような感じだったもんな。」
信輝「そうかな?」
陸奥「まあ確かに武家の棟梁なんだろうけど、足利尊氏とかってよく言われてない時代もあったじゃん?」
肥後「そうだよな。」
信輝「言われてみればそうか。でも義輝様は。」
陸奥「気持ちはわかる。まあ落ち着こうよ。」
肥後「焦ってもいいことないぞ。」
信輝「ああ、うん、わかった。ありがとう。」
父上の屋敷に集まった。
だが、次の情報がなかなか来ない。
皆黙っている。
又兵衛「殿。」
信輝「又兵衛か!どうなった?」
又兵衛「はい。細川、六角、三好、松永、朝倉、浅井の軍に攻められ、二条城は焼け落ちました。大峰京館や、八善屋の京支店。それに天龍寺なども一帯が焼かれたようです。情報が入ってくるのが遅いのは、我らの配下が甲賀にやられているようです。甲賀が情報操作をしています。」
信輝「なんだと?じゃあ二条城が攻められたのはいつなんだ?」
又兵衛「4月17日のようです。」
信輝「斉藤、長尾に対して出陣した日ではないか!」
広心「又兵衛よ、公方様は?隼人が率いている者たちはどうなった?」
又兵衛「まだ行方はわかりません。」
信秀「武衛、采女を行かせたのではないのか?」
信輝「はい、昨日のうちにかなりの人数がここを発っています。」
信秀「それを待つしかないか。」
広心「悪い予感が当たってしまったな。せめて公方様がご無事であればいいが。」
信秀「予想はしていたが、斉藤、長尾も細川、六角、三好、松永、朝倉、浅井と繋がっているな。」
大久保伊勢「しかし、なぜ我らが足利家を助けに行くと思ったのでしょうな?」
信輝「昨日仰っていた足利家と大峰には何かあるのでしょうか?」
又兵衛「お話し中申し訳ございません。次の情報が入りました。京は完全に連合軍の軍勢に支配されたようです。配下が、公方様の安否を確認しようと二条城から大峰京館への地下道を確認しに行きましたが、埋められていたそうです。」
信輝「何!あの地下道が!それで義輝様は!」
又兵衛「まだ行方がわかりません。」
広心「そうか。」
また静かになった。次の戸隠衆待ちになった。
なぜそれだけの家が連合を組んだのだろう?
首謀者は明智か?細川晴元か?
又兵衛「次が戻ってきました。未だに公方様や隼人様は行方がわかりませんが、連合軍が攻め寄せるときに口々に、正統に戻す戦だ、と言っていたそうです。」
信秀「正統?将軍家のか?今の公方様が正統だろう?」
広心「正統か…。」
また静かになった。
義輝様は正統じゃないのか?
確かに足利将軍家は将軍を継いだ人たちがややこしい。応仁の乱から後が特にややこしい。
でも、義輝様は間違いなく、足利の血を継がれたお方だ。
祖父様は何か知っているのか。
頼む、義輝様、無事でいてくれ。
又兵衛「よろしいでしょうか?次ですが、京では、偽公方は討ち取ったという噂が流れ、新しく正統な公方様が就任されるとも噂されているようです。」
偽?って義輝様のことか?
それとも今回の連合軍が偽の将軍を立てたか?
そういえば堺公方様というお方もいるよな。
史実でも14代はその方だ。
どうなってるんだ。わからん。
広心「そうか。間に合わなんだか。又兵衛、すまんが引き続き情報を集めてくれ。」
又兵衛「ハッ。」
広心「武衛、采女が戻ったらまた話を聞こう。それまで皆、この屋敷にいた方がよい。よいな、右京。」
信秀「はい。」
間に合わなかったって…。義輝様…。




