第四章 64話 慶事と強敵出現
1553年10月25日
この日、政庁の大広間に家臣たちが集められた。
発表されたことは三つ。
まず先日の婚姻の話。
当事者たちは驚き、恐縮し、喜んでいた。
周りの家臣たちも妬んだりせず、心から祝っていた。
明智一族だけ我関せずという態度だったのが気になったが。
次に俺の弟、武蔵が足利将軍家の許しを得て正式に山内上杉家を継ぎ、上杉武蔵守信政と名乗り関東管領職を称することになった。
これには家臣全てが歓声を上げた。
三つ目に上州について。
今、安倍家が土木工事を開始したが、それに加えて、大工集団も派遣し、軍を送り、築城をすることになった。
今回築城するのは前橋城。これが上州の中心となる。上田城並みの規模となる。そこには、黒田掃部が城主として入ることになった。
黒田掃部が城主だった龍岡城には島津大隈守信忠が入る。
上州は、あと、北の渋川城、南の藤岡城、東の伊勢崎城を増改築することになり、渋川城に真田弾正大忠幸隆、藤岡城に内藤修理亮昌豊、伊勢崎城に馬場美濃守信春が入ることになった。
上州の北部には沼田城があり沼田万鬼斎という者が城主としている。ここには使者を送ったがこれは大峰には下らず、栃尾城にいる長尾景虎に属した。
長尾景虎との戦いも近い。
これらが発表され、越後や、上州についての意見が交わされ、この日の評定は終わった。
集まった家臣たちは三々五々山を下って行く。
そんな中、明智十兵衛に声を掛けられた。
明智「武衛様、お久しゅうございます。ご壮健そうでございますね。」
信輝「おう、十兵衛か。そなたも達者で何よりだ。」
明智「一つお話してもよろしいでしょうか?」
信輝「何かあったか?」
明智「越後のことでございますが。」
信輝「越後が?」
明智「越後は今、長尾家の兄弟で争っております。」
信輝「知っている。」
明智「兄が晴景殿。弟が景虎殿です。」
信輝「知っている。」
明智「兄の晴景殿は病がちで体調が優れず、国の統治も乱れているとか。そこで国人たちが弟の景虎殿を立てて長尾家、越後の守護職を継がせようと争いは始まりました。」
信輝「知っている。」
十兵衛と話していると、説教されているようで、知識をひけらかしているようで、話が全く前に進まなくてめっちゃイライラする。
明智「ここまでご存じでしたら、景虎殿に味方すべきではないでしょうか?」
信輝「なぜだ?」
明智「景虎殿の方が、天の時、地の利、人の和を得ているように思われます。」
信輝「わかりやすく言え。」
明智「景虎殿から私に使者が参りました。」
信輝「そなたに?」
明智「はい、私の前主の斉藤山城様を通して交友がある者が景虎殿方におりまして。その者を通して、大峰家に同盟交渉をしたいと言ってまいりました。」
信輝「最初にそれを言え。そして、さっきの評定で言え。その者には何と答えた?」
明智「同盟が上手くいくように最善を尽くすと。」
信輝「勝手に我が家の方針をそなたが決めるな!そして、俺ではなく父上に言え!」
明智「私が仕えたのは武衛様ですので。」
あーーーー腹立つ!色々腹立つ!これはもうだめかもしれない。それ最初に言ってたらこの無駄なやり取りいらなかったろ!でも我慢だ。
信輝「そうか。では父上のところへ行こう。」
明智「はい。」
まだ政庁にいた父に目通りを願い、通され、この件を話した。
信秀「それはできぬ。晴景殿と同盟を結んでおる。越後に兵を出すのは晴景殿の援護だ。」
そりゃそうでしょう、ずっと越後は晴景殿と同盟してきたわけだし。
明智「情で物事を決めるのは愚かなことではないでしょうか?」
信輝「十兵衛!!!父上に愚かとは何事だ!!」
明智「失礼しました。」
信秀「愚かかもしれないが、利だけに目が眩み、信義にかける行為をしても滅びるぞ。」
おーーかっこいい。十兵衛はダメだな。これ多分裏切るな。
明智「ですが、利を追うことも大切なのでは?」
信秀「もうよい。下がれ。」
明智「ハッ。」
この後は何も言わず十兵衛は帰って行った。
明智家は信用されておらず、本丸に屋敷がない。二の丸に配されている。これにも不満があるようだ。
確かに同時期に家臣になった者たちは、山の下の方だが、皆本丸に屋敷が用意された。なぜ自分だけがと不満がたまっているのだろう。
父上とは最初から馬が合わなかったみたいだな。
俺もだけど。
さっきも思ったけど、多分これ明智裏切るわ。本能寺ではないけど。
自分の意見が絶対に正しいと思ってるみたいだし。
忠誠心なんてないし。
そもそも俺のところに来たのも斉藤道三に言われたからだって言ってたし。
ここを出て斉藤道三のもとに帰るか?
もしかして長尾景虎のところにでも行くんじゃないか?
そしたら今度は、武田信玄と北条氏康に続いて、上杉謙信と明智光秀の夢の共演。
こっちの方があり得なかった組み合わせだな。
いや、戦いづらくなるからやめてほしい。
謙信の騎馬と、光秀の鉄砲。これはきつい。
負けるかも。
でも、戦の最中に裏切られるよりはいい。
ちょっと様子見るか。
十兵衛には大峰銃渡してないよな?
持って行かれたらたまらん。
見張りを厳重にしよう。
他の家臣たちの見張りも厳重にしよう。
連れて行かれたらたまらん。
っていうか腹が立つ。
明智一族だけいなくなるなら最悪いい。
これからも多分上手くいかないと思う。
でも処刑するほどではない。
それはやめておこう。
父上には後で謝っておこう。当家に連れて来たのは俺だ。
又兵衛と采女に、明智一族の見張りを厳重にすること、武器庫や浅川園の見張りも厳重にすること、他の家臣たちの見張りも厳重にすること、国境にも目を光らせておくことを頼んだ。
明智一族が逃げたらどうするか聞かれたが、見逃せばいいと答えた。
そしたら案の定、又兵衛と采女がその後すぐに明智屋敷に行った時には既にいなかったそうだ。
評定に来るときにはもう決めていたのかもしれない。
逃げたのは明智一族だけ。
南部馬が数頭盗まれたようだ。
銃も盗まれた形跡があるらしい。
くそっ。
ただ、弾や火薬は作れるかもしれないが、薬莢や雷管は難しいだろうから使えるか。
でもリスクは上がった。
もっと早く気付くべきだった。
くそっ。
向かったのは、おそらく越後。
長尾景虎と明智光秀が敵に。




