第四章 50話 二条城の秘密と帰国準備
1553年9月1日
信輝「義輝様、宜しいでしょうか?」
義輝「おう、右衛門佐、いかがした?」
信輝「失礼致します。」
信輝「こちらでお世話になって早、三年となりました。幕府領も落ち着きましたので、そろそろ信濃に帰ろうと思うのですが、宜しいでしょうか。」
義輝「そうか。帰って欲しくはないのだが。ここまで余のためにずっと引き伸ばしにしてきたのだからな。それにそちからは、政治に貢献してくれただけでなく、南部馬二百頭を献上してくれたり、兵の調練方法を教えてくれたり、薬草を分けてくれたりと随分と世話になった。大峰銃が残念だが、弾や火薬がこちらでつくれないのであれば仕方がない。……わかった。帰国を許そう。」
信輝「ありがとうございます。」
義輝「いつ頃出立するのじゃ?」
信輝「そうしましたら、雪の心配もありますので、五日後にこちらを出立し、最後に奈良、堺を見学し、そのまま堺から船で帰国しようと思います。」
義輝「そうか。京館はそのままにしておくのじゃな?たまには余にも会いに来てくれ。」
信輝「はい。ありがとうございます。最後に、一つだけ、今こちらは平穏ですが、また晴元や三好のように義輝様を害し奉ろうとする者が現れるかもしれません。そのときに備えて、実はこの二条城と大峰京館は地下で繋がっております。もし万が一の時は、私の配下の戸隠衆を数人残しておきますので、その者たちに従って、我が領内までお越し頂きます様にお願い致します。」
義輝「そんなことまでしてくれていたのか。そちには感謝してもしきれないな。礼を言うぞ。」
信輝「いえ。何もなく足利の世が続くことを願っております。」
義輝「最後に宴を開こう。明日の夜にそちの家臣たちも連れてここに参れ。」
信輝「ありがとうございます。」
義輝様に許可を頂いた。
義輝様が言ったように、俺は将軍家直属部隊のために南部馬を二百頭献じ、大峰でやったように、次男、三男以下や武士でない者たちの中から募兵し、調練した結果、二百の南部馬の騎馬隊を作ることに成功した。
募兵をすれば、領地から徴兵はできるが、農民兵となってしまうため、この直属兵は重宝された。
大峰銃も献上しようか考えたのだが、弾、火薬だけでなく紙製薬莢と雷管も必要なため、また、壊れたとしても修理できないために、銃は断念した。
その分、直属兵には徹底して武術を仕込んだ。新陰流は師匠の許可がないから教えることはできなかったが。それでもその辺の兵よりはかなり強いだろう。
これで俺らがいなくなっても少しは安心だ。
そして、二条城と大峰京館は地下道で繋がっている。大峰京館と、八善屋の京支店も繋がっている。大峰京館からは、郊外へも抜け道が繋がっている。
これで、もし松永久秀や、六角、細川が攻め寄せても、直属兵で退けるか、万一の時は抜け出せる。
これで大丈夫だろう。
ここは大峰京館の俺の部屋。
信輝「又兵衛、采女、いるか?来てくれ。」
又兵衛・采女「ハッ。」
信輝「義輝様の許可をもらった。五日後にここを出て一度奈良へ行き、その後堺へ行ってそこから船で帰る。八善屋甚兵衛には船の手配をお願いした。堺から大湊、清水湊、小田原と行き、陸路を相模、武蔵、上野から信濃の佐久に入る。ここの兵五百は全て連れて帰るが、奈良へは連れて行かず、堺へ直行させる。奈良へ行くのは近臣衆と小姓衆だけだ。二人と配下も一緒に頼む。ここには戸隠衆から五人だけ残しあとは帰ることにしよう。人選は采女頼む。」
采女「ハッ。」
又兵衛「わかりました。殿にはお伝えしますか?」
信輝「手紙を書こう。采女、以前持って行ってくれた者に今回も頼む。」
采女「畏まりました。」
又兵衛「奈良には何を?」
信輝「家臣にしたい者がいる。采女、柳生宗厳殿と島左近殿が今どこにいるか探してくれ。おそらく、柳生殿は興福寺に、島殿は平群郡にいるはずだ。」
采女「畏まりました。」
信輝「又兵衛は、松永久秀について探ってくれ。深くはしなくていい。奈良に行くときに会わないようにしたいだけだ。」
又兵衛「畏まりました。」
信輝「では頼んだ。備前と肥後と陸奥を呼んでくれ。」
又兵衛・采女「ハッ。」
三人が来た。
山下肥後「帰るんだって?」
中村陸奥「長かったね。もう京の観光名所はだいたい行ったし、帰ってもいいな。」
室賀備前「やっとですね。公方様の方は大丈夫でしたか?」
信輝「ああ。許可をくれたよ。三年いたからな。直属兵もものになったし大丈夫だろう。最後に抜け道のことを話しておいたよ。」
肥後「ああ。抜け道な。使えるの?」
陸奥「まあ何かあった時にはいいんじゃない?」
備前「でもこれだけ領土も広くなって兵も集められるようになったのに、そんなことを考える者はいるのでしょうか?」
信輝「まあ、いないに越したことはないけど、念のためさ。知ってる人ほとんどいないから言わないように。でさ、帰りは堺から、八善屋の船で大湊、清水湊、小田原と帰ろうと思うからよろしく。」
肥後「わかった。どこも寄らず?」
信輝「奈良に寄って行こうと思う。」
陸奥「誰?」
信輝「柳生と島左近が欲しいなと。」
陸奥「おーいいね。『神託』する?」
信輝「お願い。柳生宗厳殿と島左近殿に、近く奈良に大峰右衛門佐の一行が来るから家臣にしてもらえと、お願い。あと、紀州にいる雑賀孫一殿と佐竹義昌殿にも堺でお願い。」
肥後「孫一か。鉄砲か。」
陸奥「大峰銃あるから個人の技量とかあんま関係ない気がするけどね。まあやっとくよ。」
信輝「あと誰かいる?」
肥後「官兵衛は?」
信輝「官兵衛か。ちょっと待って。……今7歳だから一人で堺に来るのは無理かな。」
陸奥「そうか。じゃあいいか。藤孝殿来てくれないかな?」
肥後「さすがに無理だろ。来てくれたらそりゃ嬉しいけど。」
備前「公方様の直臣に声かけるのはちょっと。」
肥後「だよね。」
陸奥「じゃあ諦めるか。」
信輝「じゃあ、柳生、島、雑賀、佐竹だけお願いね。あと、明日の夜に二条城で宴やるから来いって。」
肥後「わかった。」
陸奥「帰る準備は?何かやる?」
備前「私が差配しますから大丈夫です。」
信輝「ありがとう。よろしく。帰ることは明日皆に俺から言うから。」
備前「畏まりました。」
翌日の朝、四日後に帰国するため、その準備をするように皆に話した。
京館は当分の間来ないだろうから、身の回りを整理しておくようにし、後は備前と相談して、荷物が多い場合は後から八善屋にお願いすることも話した。




