第三章 47話 援軍と戦の結末
1550年9月2日続き
旗が見えた。
とても見慣れた旗が。
あの丸に九枚笹の旗を俺以外で使うのは。
でも…。
そんな…!
まさか!
こんな所にこのタイミングで来れるはずがない。
もし来れるとしたら、数日前に戸隠衆から手紙を受け取ってすぐに出発したのだろう。
それでも間に合うかどうか。
よっぽど急いで来てくれたんだ。
父上!!!!
信秀「放てーーー!!!」
ズドーーーン!ズドーーーン!ズドーーーン!
大量の大峰銃が火を噴いた。
騎乗したまま大峰銃を撃っている。
信秀「次だ!放てーー!!」
ズドーーーン!ズドーーーン!ズドーーーン!
そして騎乗したまま弾込めまでして次を撃つまでの時間も短い。
さすがだ。大峰兵は次元が違う。
信秀「行くぞーー!!かかれーー!!!」
一気に突っ込んできた。
三好勢は大峰銃で外側が崩れている。
そこに南部馬の騎馬隊が突っ込んだ。
一蹴。
あっという間に三好勢は崩れ、西へ向かって蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
中には何が起きたかわからないまま討ち取られていく者もいる。
強い。
強い。
強い。
助かった。
と思ったら力が抜けて馬から落ちそうになった。
涙が出そうだ。
竹千代「殿、すげえよ。」
辰千代「まだまだ俺たちじゃ敵わないな。」
千凛丸「素晴らしいです。」
俺らの周りにいた敵も一目散に逃げだした。
義輝「誰じゃ?」
松若丸「父です。」
義輝「信濃のか?」
松若丸「そうです。信濃から来てくれたみたいです。」
義輝「なんと。すごい父上じゃな。それに、兵も並の強さではない。」
松若丸「すごい父です。」
義輝「助かったな。」
松若丸「助かりました。父のお陰です。」
それから、しばらくして三好勢は影も形もいなくなった。
父上がやってきて、片膝をついた。
信秀「公方様ですな?信濃水内郡大峰が領主大峰民部大輔信秀と申します。我が子息がお世話になったようでありがとうございます。」
義輝「危ないところ助かった。足利義輝じゃ。そちの子、松若丸にも命を助けられた。大峰家には二度も助けられてしまったな。」
信秀「ありがたい仰せ。」
義輝「三好勢はいかがした?」
信秀「ハッ。今、家臣たちが戻って参りますゆえ少々お待ちください。」
義輝「しかし素晴らしく強かったな。騎馬のまま鉄砲を撃ち、そのまま戦う兵とは驚いたぞ。」
信秀「これは我が子息が考え出したものでして。」
義輝「そうなのか。松若丸には余も色々と助けてもらっておる。」
そこに室賀備後がやってきた。
室賀備後「殿、三好勢片付きました。」
信秀「そうか。どうなった?」
室賀備後「ここでお話ししても?」
義輝「よい、戦場じゃ。そのまま話せ。」
室賀備後「ハッ。まず、三好長慶ですが、討ち取りました。」
義輝「なんと!あの三好長慶を!」
室賀備後「他、三好実休、安宅冬康、岩成友通も討ち取りました。松永久秀は逃してしまいました。」
信秀「そうか。」
義輝「なんと。それでは三好勢はほぼ壊滅ではないか。」
信秀「すぐに摂津、河内、和泉の平定戦に迎え。」
室賀備後「ハッ。」
信秀「少ないが二千を連れて行け。主計も共に行け。」
室賀備後・中村主計「ハッ。」
義輝「待て。六角と晴元はいかがした?」
室賀備後「ハッ。その者たちはいつの間にかいなくなっておりました。」
義輝「さようか。」
信秀「探しますか?」
義輝「そうしてくれ。」
信秀「ハッ。兵庫、兵五百を率いて六角殿、細川殿を追え。」
山下兵庫「ハッ。」
信秀「隼人、兵庫とともに何人か捜索に出せ。」
戸田隼人「畏まりました。」
義輝「手間をかける。」
信秀「いえ。では京へお供致します。」
義輝「頼む。」
蒲生賢秀「お待ちください。申し訳ございませぬ。私、蒲生賢秀と申します。私はこの度、主家に見放され、父も討ち取られました。大峰様の家臣として頂くことはできませんでしょうか?」
信秀「松若丸、いかがする?」
松若丸「はい、よろしいかと。」
信秀「そうしたら賢秀殿、松若丸の家臣として仕えてくれ。家族はいかがするのだ?」
蒲生賢秀「はい、今から迎えに行きます。」
信秀「既にその六角が手をまわしていることもあり得る。隼人。」
戸田隼人「ハッ。」
信秀「人をつけてやれ。」
戸田隼人「畏まりました。」
蒲生賢秀「ありがとうございます。」
信秀「では参りますか。」
義輝「うむ、頼む。」
そのまま我々は、大峰兵に守られ中尾城に戻った。
室賀備後と中村主計は兵を率い平定戦へ。
山下兵庫は六角、晴元を捜索へ近江方面へ向かった。
三好長慶殿、三好実休殿、安宅冬康殿、そして先日俺が討ち取った十河一存殿がいなくなった三好家は急速に力を失うことになった。
中尾城に戻り、明日改めて大広間にということになり、その日は解散となった。
大峰兵たちは中尾城の長屋を当ててもらった。
その夜、父上の部屋を訪ねた。
松若丸「父上、松若丸です。宜しいでしょうか。」
信秀「入れ。」
松若丸「父上、危ないところを助けて頂き、わざわざ信濃から助けに来て頂き本当にありがとうございました。」
信秀「よい。わしも京に来ることができて、公方様に拝謁できたのだ。全てはお主のおかげだ。」
松若丸「私などとんでもない。私は義輝様のお役にたてませんでした。本日の戦でも、元はと言えば、きっかけを作ってしまったのは私です。そして今日の戦の戦術を考えたのも私です。私は何もできませんでした。」
信秀「そんなことはない。今の大峰も、本日助けに来た兵も装備も、もともとはお主が全部作ったものだ。銃を作ったのも、それを作る鉄も、火薬も硝石も硫黄も、鉱山を開発したのも、鍛冶師も山師も、兵を集めたのも、調練を考えたのも、南部馬を集めたのも、兵を集めるための資金も、馬を買うための資金も、資金を作るために商品を作ったのも、それを考えたのも全部お主だ。今回京に来るために八善屋に船をお願いし直江津から参ったのだが、その八善屋がすぐに動いてくれたのも、お主が八善屋に与えたものが大きかったからだ。わしはそれを少し使っただけ。お主が頑張った成果だ。」
松若丸「ありがとうございます。でもそれも父上が許容して下さらなかったら何も成し遂げられませんでした。本日の失策も父上のお陰で誰も死なずに済みました。本当にありがとうございました。」
少しの間黙っていた父上は照れくさそうに言った。
信秀「子の失敗は親が助けるもんだ。」
泣いてしまった。
涙が止まらない。
父上。
松若丸「ありがとう……ございます……。」
それを言うのが精一杯だった。
しばらく顔を上げられなかった。
父上はしばらく黙って付き合ってくれた。




