第三章 45話 蒲生親子と大峰隊
1550年9月2日続き
戦闘開始からもう四半刻くらい。
安宅隊が少し退き、実休隊と和田隊、蒲生隊、六角隊が戦っている。
主に戦っているのは蒲生隊だ。強い。
和田隊の足軽たちも頑張っている。
六角隊はそんなに強くないのかな?
でも当主自ら援軍に来てるしな。
かなり戦闘範囲が広がってきた。
足利勢は奮闘している。
それでも数が圧倒的に多い敵の方が押し出した。
そろそろ行くか。
そう考えていた時に、三好勢の後ろの方から火の手が上がった。
敵はまた動揺する。
采女がやってくれたか。
又兵衛が戻ってきた。
又兵衛「戻りました。総大将三好長慶殿は最初こそ小勢の足利勢を侮っていましたが、思うように動かない展開を見て怒っているようです。伝令を何騎も前線に飛ばし、指示を出し始めました。」
松若丸「そうか、わかった。ありがとう。もうここにいてくれ。」
又兵衛「ハッ。」
又兵衛に見てきてもらった三好長慶殿の感じからすると、そろそろ三好勢が攻勢を強めてくるだろう。
こちらの前線を一度退かせた方がいいのだけど、聞いてくれるかな?
本陣にお伺いを立ててる時間ないから、こっちから伝令出してみるか。
松若丸「源太郎、源四郎。前に行って和田殿、蒲生殿、六角殿に一度退いてください。って言って来て。多分聞かないとは思うから、言うだけですぐ戻ってきて。」
源太郎「わかりました。」
源四郎「畏まりました。」
今度は采女が戻ってきた。
采女「戻りました。兵糧を奪おうとしましたが、兵が結構いたので一部を焼くことしかできませんでした。」
松若丸「十分だよ。ありがとう。采女ももうここにいてくれ。」
采女「ハッ。」
すぐに源太郎、源四郎が戻ってきた。
源太郎「和田殿、蒲生殿にお伝えしましたが、聞き入れられませんでした。」
源四郎「六角殿は既に退こうとしているようでしたが。」
松若丸「ありがとう。皆、そろそろ前が崩れるから準備しといてね!絶対に死なないように!大峰銃は俺が合図したら半分ずつ撃って。指揮している者を狙うように。」
一同「ハッ。」
少し見ていると前が崩れ始めた。
一度崩れると脆い。
六角隊がすごい速さで逃げて来た。このまま近江まで逃げそうな感じだな。
あんな風に逃げられると周りの部隊にも悪い影響が出る。
和田隊の足軽たちも我先にと戦場を離脱し始めた。あれは本陣にも戻らないで逃げるだろう。
少ししたら和田惟政殿も俺に目礼をして本陣に退いて行った。
蒲生隊がなんとか踏ん張ろうとしているが、持ち直した安宅隊、実休隊に岩成隊も加わって攻めてきた。
松若丸「源太郎、源四郎、悪いけどもう一回、蒲生殿のところへ行ってもらっていい?俺らが踏みとどまるから一度お退きくださいって。」
源太郎・源四郎「わかりました!」
すぐに二人が戻ってきた。
と同時に、と蒲生隊も退り始めた。
蒲生隊が俺たちの左を通って行く。
わざわざ蒲生定秀殿、賢秀殿が俺のもとに来た。
蒲生定秀「大峰殿、すまんな!お互い生きて帰ったら酒でも酌み交わそう!」
松若丸「私はまだ元服前なので水杯でお願いします!我が領地で作った美味い酒を差し上げますよ!」
蒲生定秀「ハハハ!そうか!楽しみにしておる!」
賢秀「私も楽しみにしております!」
松若丸「これからも是非仲良くしてください!」
賢秀「ここでそのような話をされるとは面白いですな!ご武運を!」
そう言って退いて行った。
そして俺たちの前に敵が殺到した。
さあ俺たちも戦うぞ。
距離にして三丁、300メートルくらいまで来た。
よし!
松若丸「今だ!撃て!」
ズドーーーンと響く。最前線の指揮者が倒れるのが見えた。
指揮者と言っても組頭クラスだろう。
松若丸「次、撃て!」
ズドーーーン!
松若丸「次も撃て!」
ズドーーーン!
大峰銃は後装式のため連続して撃てる。
大きな音が響く度に確実に人が倒れた。
それに相手が怯んだ。
そしてその時、天王山と左の淀川からも大峰銃の音が響いた。
数は少ないが確実に敵を倒し、戦意も挫いている。
それでも数が多いため前進は止まらない。
敵との距離が一丁を切ってきた。
松若丸「よし!皆行くぞ!」
一同「おう!」
松若丸「秀胤、暴れていいぞ!満親、頼むぞ!」
秀胤「お任せください!」
満親「ハッ!」
うちのツートップが馬で敵に突っ込んでいった。
それに合わせて左右からの援護射撃は少し敵の後方を狙い始める。
左からは彦右衛門を先頭に蜂須賀党が入ってきた。
俺たちも二人の後ろから敵に突っ込んだ。
やはり強い。大峰隊。敵を斬り、突き、薙ぎ払い進んで行く。
今日は騎馬なので勢いもある。
周りを大岩衆、戸隠衆が援護し、そのまま敵陣の奥へ奥へと敵兵を吹っ飛ばし突っ込んでいく。
が、やはり多い。ここだけでこの前の中尾城の戦いのときの倍はいる。
それに前回はすぐに敵の大将を討ったから、時間も短かった。
松若丸「秀胤!一度左に抜けよう!さすがにもたない!」
秀胤「わかりました!」
敵に囲まれる前に左の蜂須賀党と合流し敵陣の外に抜け、淀川近辺まで距離を取った。
安宅隊、実休隊、岩成隊はこちらを警戒して追っては来ない。
松若丸「全員いるな。怪我していないか?大丈夫か?」
源太郎「若!本陣の様子がおかしいです!」
松若丸「何!又兵衛!」
又兵衛「ハッ!」
松若丸「采女はいてくれ。」
采女「ハッ。」
俺も少し遠いが本陣を見ると何やら戦っているようだ。
伏兵でもいたのか?
いたとしても数は少ないだろ。俺らが来た後に三好勢は着いたわけだし。
斥候が後ろに残っていたのかな?それが本陣を奇襲してるとか?
まあでも義輝様が優先だ。
松若丸「采女、仕方ない。天王山は放棄して、三淵殿に本陣に援軍に行くように伝令を出して。蒲生隊にも本陣に行くようにお願いして。戸隠衆は後方撹乱に行ったのと天王山にいるのを一度全員ここに集めて。」
采女「ハッ。」
何か予想外のことが起きている。
せっかくいい調子だったのに。




