第三章 30話 三河武士と信濃の神童
1550年5月6日
翌朝、直平殿と直盛殿と話し、直親、直親の奥方、子、次郎法師は直平殿に一度預かってもらい、準備が出来次第、直盛殿の護衛と先に大峰館に行ってもらうことにした。
最初、次郎法師は、俺らについて行くと聞かなかったが、直平殿、直盛殿が説得し、渋々了承した。
次の目的地である三河の大樹寺には既に八善屋が伊勢大湊から荷物と資金を持って来てくれていると甚兵衛から聞いたので、持っていた荷物はほとんど井伊家に贈った。
直平殿、直盛殿は結納品だと喜んでいた。
違います。
ここからは平野が多くなるので進みも早くなる。
朝早く出立して、日が傾き始める前には岡崎に着き、大樹寺に入った。
八善屋の者が大樹寺に寄進して、話をつけてくれていたので、すぐに案内してもらえた。
大部屋が二つ貸してもらえた。
一つは俺たち、一つは八善屋の皆さんに使ってもらった。
松若丸「さて、ここでの勧誘対象は本多家と榊原家だ。まず、又兵衛と采女で欠城の本多忠真殿と、上野城の酒井忠尚殿の謀叛の噂を流して。あとは二、三日様子を見る。頼んだぞ。本日は少し休憩しよう。」
一同「ハッ。」
俺(戸隠衆に情報集めてもらってるけど、去年松平広忠殿が家臣に斬られて、家康は今川に人質に取られたばっかで、皆、疑心暗鬼になってるらしい。だから、噂流したらかなり効くと思うから、本多忠真殿と、榊原長政殿に『神託』で大樹寺に東から来ている者たちがいる、その者に仕えたら未来が開けるってやって。そしたら向こうから来るんじゃないかな?)
辰千代(わかった!)
竹千代(他は?他の家だったら無理だろうけど、今、松平家はバラバラだろうからここだけはたくさんもらっておこうよ。)
松若丸(俺が欲しいのは二人だけ。他は知ってる名前で『探索』してみて。)
竹千代(わかった。)
竹千代(『探索』で有名武将調べたら、板倉好重、板倉勝重、大久保忠世、大久保忠佐、渡辺守綱、伊奈忠家、高力清長、鳥居元忠がいるけど、どう?)
辰千代(いいね!伊奈忠家、高力清長、鳥居元忠が欲しい!)
竹千代(じゃあ俺が板倉好重、板倉勝重、大久保忠世、大久保忠佐、渡辺守綱もらうよ?)
松若丸(わかった。どんな感じで?)
辰千代(『神託』でさっきと同じようにして、順々に大樹寺に来てもらって、『勧誘』でよくない?)
松若丸(じゃあそれでお願い。)
その日はそれで終わり、次の日も何も起きなかったので、庭を借りて稽古をしたり、又兵衛、采女の報告を聞いたりした。
1550年5月8日
朝、また庭で稽古を始めようとしていると、表の様子を見に行った千凛丸が戻ってきた。
千凛丸「若、榊原長政殿、大須賀康高殿と申される方が参りました。」
大須賀康高?呼んだっけ?
松若丸「じゃあ本堂で会おう。使う許可はもらってあるから。千凛丸、竹千代、辰千代は来てくれ。」
他の者を部屋に残し、四人で本堂へ。
既に二人が待っていた。
軽く会釈して正面に俺が座り、三人は後ろに座る。
松若丸「失礼します。信濃水内郡大峰から参りました大峰民部大輔が嫡男、大峰松若丸と申します。」
榊原長政「突然申し訳ございませぬ。酒井忠尚が家臣、榊原長政と申します。」
大須賀康高「同じく大須賀康高と申します。」
お互いに頭を下げる。
松若丸「本日はいかが致しましたか?」
榊原長政「はい。実は、我が主君、酒井忠尚が謀叛を起こそうとしていると噂があります。また、私に神のお告げがありまして、謀叛で滅びる主ではなく、大樹寺におられる方に仕えれば我が家は安泰だと言われ、こちらに来てみた次第でございます。この大須賀は我が家と親しくしている者ゆえ、一緒に連れて参りました。」
松若丸「そうでしたか。」
松若丸(なんかもういけそうだな。一応、俺の家臣で『勧誘』使ってもらっていい?)
竹千代(使わなくてもいいような気もするけどわかった。)
榊原長政「それがかの有名な大峰松若丸様だとは。不躾なお願いではございますが、我らを家臣として頂きたく存じます。何卒宜しくお願い致します。」
松若丸「そういうことでしたら、こちらは構いませんよ。力を貸してください。」
榊原長政「ありがとうございます!宜しくお願い致します。」
大須賀康高「宜しくお願い致します。」
松若丸「ところで私って三河で有名なんですか?」
榊原長政「はい、信濃の神童、大峰家の嫡男松若丸様が、領内には善政を敷き、川中島の戦いではまだどこも実戦導入していない鉄砲を使われ大勝したとか。大峰家は松若丸様が家督を継いだら今後も大きくなっていくだろうと。」
松若丸「他国にも噂になっているんですね。」
榊原長政「はい、ですからその大峰松若丸様にお仕えできる機会があるなんて、神に感謝します。この三河は、岡崎松平家を中心にまとまりつつあったのですが、今は色々とあり混沌としていますので、家の将来を不安視している者が多いのです。」
松若丸「そうなんですか。我らにできる限りのことは致しましょう。」
榊原長政「ありがとうございます。では、家族を連れて来てもよろしいでしょうか?」
松若丸「是非。我が手の物に手伝わせましょう。」
榊原長政「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
そう言うと二人は足早に寺を出て行った。
松若丸(やっぱりまだ三河はまとまってないみたいだね。家康が人質に取られたから家臣みんなでまとまって耐えたとか、後から作られた美談だったのかな?まあ、これならいけそうだな。そもそも主君に忠誠をというのがまだない時代だしな。いない人に忠誠は難しいだろ。それぞれ独立心が強くて自ら仕える主君を選ぶって言うし。川中島の戦いで鉄砲使ったのもよかったね。)
それか、これは言わないけど、ゲームだから俺らに有利なようになっているとか。まあ前に竹千代が言ってたけど、これ考えたら面白くなくなるからやめよう。
竹千代(そんな感じだね。あえて大峰の名前出した方がいいかもな。)
辰千代(確かに、松平家の切り崩しを松平家ゆかりの大樹寺でやるのはどうかと思うけど、噂流したら?)
松若丸(そうしようか。)
又兵衛と采女を呼んで、大樹寺にあの有名な信濃の神童、大峰松若丸が来ていること、望めばかなりいい待遇で家臣となれるかもしれないことを宣伝してもらった。
それにより翌日から当初の予定よりかなり多くの人が集まってきた。
皆、口々に信濃の神童、信濃の神童と言っているらしい。噂を流したのは自分だが、少しだけ恥ずかしくなった。でも使えるものは何でも使わなくては!
全てには対応できないので、有名な人だけ会って、他は千凛丸、長福丸、鷹千代、源太郎、秀胤、満親に対応してもらい、忠頼に情報の整理と、詳しい名簿を作ってもらって家臣にしたい者にはこちらから声を掛けることにした。
馬場、工藤、飯富は武田の透波が混ざっている可能性もあるので待機させた。
板倉親子、大久保兄弟、渡辺、伊奈、高力、鳥居には直接会い、『勧誘』を使って、予定通り、板倉親子、大久保兄弟、渡辺が山下家の、伊奈、高力、鳥居が中村家の家臣となった。
長福丸、鷹千代、源太郎、秀胤、満親、忠頼にも何人か仕えてもらうことになった。後から名簿をよく見ると、同じ松平でもいくつもあって、家康の岡崎松平の家臣になってない家や、岡崎松平の家臣でも、調べてみたら最近家臣になった家が多かった。どうやら家臣一団まとまって、の美談は本当らしい。譜代の家の嫡男は来ていないようだ。譜代の家の次男、三男は来ているみたいだが、切り崩しが成功したわけでもないらしい。
そういえば、大久保忠世、大久保忠佐の兄弟も有名だけど本家ではないし、鳥居元忠も三男だしな。でも、こちらとしては次男、三男でも有能な家臣が増えてよかった。
だが、本多忠真が来ない。又兵衛、采女に様子を探ってもらったら欠城は静まり返っているらしい。引き続き見張ってもらうことにした。
1550年5月16日
三河に来てから十日が経った夜。
欠城は未だに動きがない。中で腹でも切ったかなと心配になってきたので、又兵衛と采女に中に潜入してもらおうかと呼ぼうとした時。
千凛丸「若、本多忠真殿、鍋之助殿が参られました。」
松若丸「そうか。本堂で会おう。」
やっと来たか。鍋之助も連れて来たってどういうことだろう。千凛丸、竹千代、辰千代と本堂に入った。
本多忠真「夜分に申し訳ございませぬ。拙者、欠城主本多忠真と申します。」
松若丸「いえ。大峰松若丸と申します。」
本多忠真「失礼かとは思いますが、単刀直入に申します。この鍋之助を連れて行っては頂けませんでしょうか。拙者は城を任されている故、主君を裏切ることなど出来ないため行けませんが、この鍋之助は我が兄から託された子。まだ主君にお会いしたこともありませぬ。かの有名な大峰松若丸様の家臣として頂けるならそれに越したことはございません。どうかお頼み申し上げます。」
そう言って頭を下げた。なるほど、これこそが三河武士ってやつか。でも申し訳ないけど、元々この鍋之助が欲しかったんですよ。
松若丸「本多殿、頭をお上げ下さい。畏まりました。鍋之助はこの松若丸が責任を持って立派な武将に育てましょう。」
本多忠真「ありがとうございます。どうぞ宜しくお願い致します。乳母や近臣は連れて来ていますので、このまま置いて参ります。では、失礼します。」
噂を気にしているのか早々と帰っていった。そんなあっさり?と思ったけど、それもあって夜に来たのか。又兵衛と采女に本多忠真の謀叛はないと噂を流してもらおう。
松若丸「鍋之助、よろしくな。」
鍋之助「よろしくお願いします。」
利かん気の強そうな子だ。あの忠勝だもんな!期待しよう。
これで三河での逗留は終わりにする。目的は果たした。
翌日、家臣となった者たちに通知を出して、大樹寺にまだ来ていない者たちは、その翌日から準備が出来次第、大樹寺に集まってもらうことにした。
そして、八善屋にお願いして、西尾の南の海から船に乗り、先に大峰領に行ってもらうことにした。八善屋の支店の清水湊、小田原と経由し、今は友好関係になっている北条領を通り、これも友好関係の関東管領上杉領を通り遠回りして行ってもらう。武田領を通らないように。
そのために、ここから戸隠衆を大峰の父上に遣わし、父上から北条氏康殿、上杉憲政殿に手紙を書いてもらうように手配した。さらに小田原からの護衛として戸隠衆を派遣してもらうこともお願いした。これで、三河で登用した者とその家族、合わせて二百人くらいは無事に大峰へ行けるだろう。
八善屋頼みが過ぎて申し訳ないとも思うが、頼んだら甚兵衛は快諾してくれた。




