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終 共寝

 椿の花が落ちるように、夏至は唐突にやって来た。

 昨日まで茂っていた植物は枯れ、洞の壁は熱砂と同じ温度になる。外は生き物を殺めるだけの焼け付く日差しで支配され、何者も外に出ることはできない。

「今年もこの日が来たな」

 柳石の声に、環は顔を上げて向かいを見た。敷布に片膝を立てて座っていた柳石は、食卓に乗せられた砂糖漬けの皿ごしに言う。

「またずいぶんと暑い。……さ、お食べ」

 柳石に勧められて、環は目の前を見た。

 鼻先に甘い香りが漂う。あと数刻で、腐敗が始まって食べられなくなるだろう。

 みつめる柳石の視線を感じながら、環は口を開いた。

「柳石さま、好き」

 柳石は砂糖漬けを口に運ぶ手を止めた。環は眉を寄せて言う。

「一緒にいるだけで体は蝕まれていくのに、またそう思った」

 環はどこかほっとしたように頬を緩める。

「私、いい子じゃない」

 柳石は立ち上がって環の横に席を移すと、彼女の隣から砂糖の山を見やる。

「ここには一年分の時間しか入っていない。またやり直しても、私を好きになってくれるか?」

「柳石さまは優しい。いつも強制しない」

 うつむいた環に、柳石は苦笑する。

 環の頬に触れて柳石は言った。

「私もお前が思うほど優しくはない。忘れたことさえ忘れてしまっていて、今年こそはお前が行き失せてしまうのかもしれないといつも不安だ」

 ふいに柳石は優しい目で環を見た。

「だがお前との最初のときが、私に今も生きる力をくれる。何度でもお前に話そう」

 柳石は環の手を取って、彼女の手のひらを懐かしそうに眺める。

「まだ私たちが外にいたとき、私はお前にいろいろなものを贈って、私とつがいの化け物となってくれるように頼んだ。死の膝元なら、枯れない花も至福に酔う氷菓子もあった。……けれどお前が私の求婚を受け入れたのは、小さな宝石箱を受け取ったときだった」

 宝石箱と環は言葉にする。柳石はうなずいて、環の手を自らの手で包んだ。

「綺麗な箱だとお前は喜んで、中身を見ないまま私と共寝した。目が覚めたときには、私たちはその箱の中にいた」

 柳石は身を屈めて環に口づけた。

 反射的に身を強張らせた環を胸に収めて、柳石は背をさする。

「心配いらない。ここはお前のために私が作った地獄で、楽園だから。何度繰り返しても、私はお前に求婚するだろう」

 もう一度柳石が口づけたとき、環の体は奥底がうずいた。

 遠い昔に教え込まれたことが少しずつ蘇るように、環の体がほぐれていく。恐怖さえも迷路に入って、出てこなくなる。

 暗い歓喜のような矛盾した感情の間で、柳石の体に身をすり寄せる。

 ……結局、体をつなげたのはいつで、眠りに落ちたのもいつだったか。

 環は境界のない世界で柳石と共寝して、今も宝石箱の中にいる。

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