身を引いてる場合か!
ナーディ視点です
これほどまでに可哀想な人間を、私は今まで見たことが無かった。
事の発端はかれこれ二ヶ月ほど前に行われた夜会でのこと。
その日の夜会はとんでもなくつまらなかった。
何故なら私のパートナーである男が隣に居ないからだ。
私には、正式な婚約こそまだだが結婚しようと決めた相手が居る。
名前はクレー・トレボル次期伯爵、実に見目麗しい美丈夫である。
ただ、見た目は何一つ文句の付けようのない男なのだが、彼はほんの少し変わり者だった。
今、彼が隣に居ない理由も『久しぶりに会う”初めまして”の旧友』を見つけたからというちぐはぐなもの。
正直何言ってんのかさっぱり解らないのだけど、毎度の事なのでさすがにもう慣れてきた。
慣れてはきたものの、そこそこ賑わっている夜会で一人ぽつんと残されるのはつまらないものだった。
私も友人が居れば声を掛けたいところなのだが、遠慮なくおしゃべりできる友人はなかなか見付からない。
そんな時だった。
一人の男が私に近付いてきたのは。
その男は、クレーほどではないが良い男だった。
踊ってくれませんかとのことだったので、丁度暇だったし、私は特に深く考える事なくその男の手を取ることにした。
そう、私は本当に何も考えていなかった。
だからその男が何か言いたそうにもごもごしている素振りになんて気付くこともなく。
その夜会の翌日のこと。
私はクレーにお説教を食らっていた。
「僕以外の男と踊るなんて!」
「だって暇だったんだもの。」
なんて、私は悪びれもせずに言い放つ。
次期伯爵様に対する口の聞き方とは思えないが、これはクレー本人がそうしてくれと言っているからであり私は悪くない。
いずれ夫婦になるのだから余所余所しい喋り方は止めてほしい、とクレーがそう言ったのだ。
「それで、ナーディ。あの男は誰だったんだい?」
テーブルを挟んで正面に座ったクレーが、私の手を両手で握り込みながら首を傾げている。
「ハイデン・レーゼライン様といったかしら?」
「…なるほど。レーゼライン家の次男か。」
「知っているの?」
「いや、知らん。」
今知ってるみたいな顔をしていたくせに!
「とにかく、僕以外の男にほいほい付いていったらダメだよ?僕の可愛いナーディが誘拐でもされたらと思うと…」
クレーは両手にきゅっと力を込めながら言った。
「じゃあ、私を置いていかないで。」
唇を尖らせて、ちょっぴり拗ねたようにそう言ってみると、クレーは驚いたように目を瞠ってからほんのりと頬を染める。
お前は乙女か。
「あぁ、ごめんね、僕が悪かった。」
そう言ったクレーは、握っていた私の手に軽いキスを落とした。
私は知っている。クレーがこうして私の手にキスをする時は、照れ顔を隠すために俯いているだけなのだ。
おそらくクレーは気が付いていないが、俯いていても耳は見えるもの。
真っ赤に染まってしまったその耳だけは。
「まぁでも、私も相手は見ているつもりよ。ハイデン様は私をどうこうしようとしている目をしていなかったわ。」
クレーの耳を見てクスクスと笑いながら、私は呟く。
そう、あの時のハイデン様は私を見ているわけではなかった。
私ではなく、別の女性を見ていたのだ。
「本当?」
「ええ。私、そういうの嗅ぎ分けるの得意なの。」
ふふん、と胸を張って見せると、クレーは呆れたように笑って、
「ドヤ顔も可愛いなぁ。」
と呟いた。
「ど、どや…?」
「ううん、なんでもないよ。」
クレーは本当にたまに何を言ってるのか解らない。
ハイデン様との一件が動き出したのは、その次の夜会での事だった。
会場についてすぐ、クレーが私の腕を引っ張ってきた。
「ナーディ!ナーディ!また旧友を見つけたんだ!」
少年を思わせるようなキラキラと輝かせた瞳を私に向けながらそう言う。
おかしいな、彼は私よりも年上だったはずなのに。もう少年では通用しないわよ?
「また”初めまして”の旧友?」
この顔をしているときは決まっておかしなことを言い出すのだから、どうせ今日もそんなところなのだろう。
「そうなんだ!」
やっぱり。
旧友とは、私が知る限り古くからの友人という意味だったはずなのだが。
それなのに初めましてとは、ちょっとおかしいのではないだろうか?以前彼にそんな事を言ったのだが、彼はただただ苦笑を零すだけで何も教えてはくれなかった。
「あ、でも、ナーディを置いてはいかないよ。」
「良いわ。いってらっしゃい。」
「え?」
「会ってみたいのでしょう?」
「良いの?」
「良いってば。相手は、女じゃないのでしょう?」
「うん、男だよ。じゃあ…ちょっと、ちょっとだけ行って来る。すぐに戻ってくるからね。」
クレーは私の額にキスを落とし、わくわくと目を輝かせながら颯爽と歩いていった。
まったく、可愛いんだから。
そのすぐ後、クレーとすれ違うように、ハイデン様がやってきた。
「ナーディ嬢、今日も踊っていただけませんか?」
と、彼はどこをどう見ても女を落とそうとしている目ではなく、飼い主を見失ってしまった迷子の子犬のような目で私に話しかけてくる。
そんな彼を突き放すのは、なんとなく可哀想な気もするのだが、私が一番大切なのは彼ではなくクレーだ。
だから、私は彼の手を取らなかった。
「すみません、今日は踊れませんの。」
「何故ですか?」
うわぁ迷子の子犬感が増した!
「えぇと、恋人が嫉妬をしてしまいまして。実は先日の夜会の後も怒られました。僕以外の男と踊らないで、と。」
ここまで説明すればわかってもらえるだろうと思ったのだが、彼は迷子の子犬の目をしたまま私を見下ろし固まっている。
「そうですか。…あの、ナーディ嬢、少し相談したい事があるのですが…」
「相談、ですか?私に?」
「出来れば、あなたとその恋人に。」
迷子の子犬は縋るような瞳で、懇願するように私を見ている。
私とクレーに相談があるなんて、私は良いのだけど、クレーは嫌がるかしら?
これが本物の子犬なら、ちゃんとお世話するから!一日預かるだけでも!と頼んでみるところなのだけれど。
でも、クレーは変わり者ではあるけど優しい人だし、相談くらいは聞いてくれるだろう。
この子犬のような目を見て断るような人ではないはず。
「解りました、もうすぐクレーも戻ってくると思いますので、」
彼にも話をしてみましょう、と言おうとした時だった。私は背後から伸びてきた手に掴まれ、引き寄せられた。
「ナーディ、お待たせ。」
その手はクレーのもので、見上げた先にある彼の表情は、ちょっぴりイラついたものと残念そうなものが入り混じっている。
イラついているのは私が子犬と…いや、ハイデン様と居たことに対する嫉妬だ。
残念そうなものは、今回も例の旧友に覚えてもらえていなかったことに対する悲しみの表情だろう。
「クレー、彼がクレーと私に相談があるそうなの。」
小さな声でどうする?と問うと、彼は「何それ修羅場の匂い?」と呟きながらハイデン様の方を見た。
「初めまして、トレボル家次期伯爵様。ハイデン・レーゼラインと申します。」
ハイデン様はそう言って恭しく礼をする。
次期伯爵が現れた事に対して何の驚きもなかったから、もしかしたら彼は私の恋人がクレーであることを知っていたのかもしれない。
チラりとクレーの表情を見ると、クレーは頭を下げているハイデン様の頭部を見ながら驚いたように目を瞠っていた。
そして何も言わずに嬉しそうに笑ったかと思えば、その直後、酷く悲しそうな顔をして小さく首を横に振った。
クレーが悲しそうな顔をするのは、何度も見てきた。
旧友が居たと嬉しそうな顔をしては僕の事を覚えていなかったと言って悲しんで、いつもそんな調子だった。
だけど、今回の表情はどこか違う。
放っておいたら泣き出しそうなくらい悲しそうだったのだ。
だから、私は思わず彼の腕を掴み、声を掛けた。
「クレー?」
すると、彼は我に返ったようにぱちぱちと二度瞬きをして微笑んだ。
「あぁ、初めまして。僕のナーディに何の用かな?」
クレーは先程までの悲しげな表情を隠すようににこりとした笑顔を作って言う。
「無理を承知で、なのですが…あなたとナーディ嬢相談があるのです。」
「僕にも?レーゼライン家は何か困っているのかな?」
「いえ…家は関係なく、至極個人的な相談なのですが…」
ハイデン様はそう言いながら、顔全面に諦めの色を滲ませ始めた。
クレーもどこからどう見たって変わり者であるが一応は次期伯爵で、ハイデン様は男爵家の次男なのだから、個人的な相談を出来る身分では無い。
しかしハイデン様のその姿があんまりにも可哀想だったので、私は助け舟を出すつもりで間に入る。
「クレー、話だけでも聞いてあげましょうよ。拾ってしまった手前何もせずに捨ててしまうなんて子犬が可哀想…」
「…うん、ナーディが何を言っているのかはよく解らないけど、とりあえず話を聞こうか。」
個人的な内容だということだったので、私達は比較的人の少ない庭園の方へと移動する。
そして美しく飾られた庭園を見ながら過ごせるようにと備え付けられたテーブルに着き、ハイデン様の相談を聞く事にした。
「なるほど、婚約者が一向に自分の方を見てくれない、と。」
クレーがハイデン様の相談を短く纏めて言った。
ハイデン様の話によると、彼には婚約者が居るらしい。
その婚約は幼い頃に両親が決めたものらしいのだが、彼はその婚約者が大好きなのだそうだ。実際口に出して大好きだとは言っていないのだが、彼の表情を見ていればすぐに解った。彼は彼女が大好きだ。
しかし悲しい事に彼女の方はそうじゃないようだ、とのこと。
好きだとか嫌いだとか言う前に、異性として見られていない可能性もあるらしい。それから、前回の夜会の時に彼が私と踊っていても嫉妬一つしなかったのだそうだ。
彼としてはちょっとくらい嫉妬してくれるかな、と期待したのだろうけど。可哀想に。
しかし完全に脈が無いとも言い切れない気がした。
彼は男爵家の次男で、彼女は伯爵家のご令嬢だというではないか。
彼が嫌いであれば婚約破棄くらい容易いはずだ。
それをしないのだから、まだ望みはあるのではないだろうか?
なんて、私がそんな事を考えていると、隣に居るクレーの口から何やらぶつぶつとした呟きが聞こえてきた。
「アイネ?…伯爵家…アイ…ネ…?…あ、あー!!お前!お前頑張れよ!」
クレーは突如立ち上がり、ハイデン様の両肩を掴んでぐらぐらと揺らし始めた。
「ちょっとクレー、落ち着いて。」
私はあなたの奇行に慣れているけれど、彼はあなたの奇行癖なんて知らないのよ?
案の定、ハイデン様は驚いて目を白黒させている。可哀想に。
「俺が力になってやるから今度こそちゃんと捕まえろよマジ、おま、第二ボタンのあれ、」
「クレー!落ち着いて。」
私が語気を強めると、クレーは二度瞬きをして我に返った。
「すまない。そうか、ヘタレは死んでも治らないのか…」
正直何を言っているのか解らないけれど、クレーは力になってあげるつもりらしい。
それなら私だって協力しなければ。
「要するに、アイネ様に振り向いてもらえれば良いのでしょう?」
私が口を開くと、ハイデン様は静かに頷く。
その表情は可哀想なくらいに情けない。
「しかし、だ。振り向いてもらえないにしても、アイネ嬢側から婚約破棄を言い渡されたわけではないのだろう?」
いつになく真剣な眼差しのクレーが言う。
「はい、今のところは。」
「それなら結婚は出来るわけだ。」
「ええ、まぁ…おそらくは。」
このまま行けば、まぁ貴族社会にはありがちな政略結婚の成立ということになるのだろう。
しかし、ハイデン様は浮かない顔をしている。
「アイネ嬢のご両親は何と?」
「幸い、アイネの事は俺に任せると言ってくださっています。」
アイネ様のご両親の気持ちはなんとなく解った。
仲が良いと言えるほどではないが、私も一応アイネ様とは面識があるのだ。
その時の印象と言えば、彼女はどことなくぽやんとした方であった。
だから、ハイデン様のようにしっかりした方の所に嫁がせたいのだろう。
…いや、まぁ今のハイデン様はただの迷子の子犬であり、なんとも頼りない顔をしているのだが。
普段はそうじゃないのだろう。彼の仕草からは騎士の訓練を受けた形跡を感じるし。きっと普段は頼りがいのある素敵な男性なのだろう。
「それならこれ幸いとありがたく彼女を頂戴すれば良いじゃないか。何の不満があるんだ。」
このヘタレめ、とクレーは小さな声で言っている。
ヘタレという言葉の意味は解らないがきっと悪口だろう。だってクレーが悪口を言う時の顔をしている。
「しかし…彼女の気持ちが全く俺に向いていないまま結婚して、将来「あなたとは結婚したくなかった」などと言われたらと思うと…」
アイネ様はそんな事言う子ではないような気がする。
「それに…ほんの少しで良いから、彼女に愛されたい…」
「このヘタレめ!」
今度は大きな声で言った。
ヘタレとは罵倒の言葉のようだ。
クレーの大声に驚いたハイデン様は、目を瞬かせながらクレーを見る。
クレーはそんなハイデン様をぴしっと指差して言う。
「良いか、この際荒療治だ。俺の考えた計画で彼女の気持ちを確かめろ!」
クレーの考えた計画とは。
まずアイネ様とハイデン様でお茶を飲んでいるところに私を投入。
そして私が「私、実はハイデン様の事が、」とあたかもハイデン様に気があるような素振りを見せる。
そこでアイネ様が嫉妬か独占欲のようなものを見せてくれれば…と、まぁそんな計画だ。
計画通りに行けば良いけれど、私のそんな心配をよそに、男二人はその計画を煮詰め始めた。
そしてその作戦が決行される日がやってくる。
場所はアイネ様のお屋敷の東屋だ。
なんでもハイデン様がお菓子を持っていくといつも決まってそこでお茶を楽しむそうなのだ。
私は少し遅れてその場へ行くことになっている。
クレーはというと、いつの間にかアイネ様のご両親にこの計画の内容を話していたらしく、お二人の許可を取って東屋近くの物陰に潜んでいる。
次期伯爵ともあろうものが物陰に潜んで人の話を盗み聞きするなど、と言ってやろうかと思ったのだが、彼がいつになく楽しそうだったので私は何も言えなかった。
何なんだろうクレーのあの悪戯っ子気質は。
私は半ば呆れながら、計画の時間通りアイネ様のお屋敷の玄関へと向かう。婚約者同士で楽しむお茶の時間を邪魔するために。
ここでアイネ様が二人の時間を邪魔しないで欲しいと言えば、私の出番は無いのだが…
ありました。私の出番ありました。
簡単に二人きりのお茶会の中に入り込めました。既に激しい不安と嫌な予感が私の心の中を駆け巡る。
そして、私の嫌な予感は見事的中することとなった。
私がハイデン様を好きだという雰囲気を醸し出したところ、アイネ様は片手を真っ直ぐ挙げて言ったのだ。
「私、身を引きます!」
と。
いやいやいや身を引いてる場合か!
しかもそれどころか、
「ナーディ様は、ハイデンの事が好きなのですね。ハイデンも、あなたとはダンスを踊っていたし、お似合いだと思いますわ。」
とまで言い出す始末。
嫉妬も独占欲もあったものじゃない。
ちらりとハイデン様の様子を伺うと、彼の顔面には見事なまでの絶望の色が広がっていた。
やだ、このままじゃあの子犬死んじゃう!
なんとか助け舟を出さなければ、と、私も口を開く。
「あの…、でも婚約者なのでは…」
「気にしなくても良いのですよ。あれは我が家に跡継ぎが居なかったからと両親が決めた事ですの。今は弟が居ますし、なんとでもなりますわ。そんな事よりも貴族同士が恋愛結婚出来るだなんて素敵ですわ!」
アイネ様はそう言って私の手を握る。
なんということだ…私が出した助け舟はハイデン様を乗せることなく見事に沈没してしまった。
アイネ様は、私が思っていた以上にぽやんとした方だったのだ。
ハイデン様はどこからどう見てもアイネ様のことが大好きだというのに、それに全く気付いていない。
とにかく新しい助け舟を造って投げよう、そう思っていた時だった。
少し離れた場所から「おねーさま」という可愛らしい声がした。
どうやらアイネ様の弟様のようだ。
それに気付いたアイネ様は、私達に一言ことわって、弟様の元へと向かう。
その背を見送って、ちらりとハイデン様を伺うと、彼は見事に頭を抱えていた。
そして小さな声で言う。
「いつもの流れなら、この後彼女はブライヤー…彼女の弟をここに連れてきて三人でお茶を楽しむことになります…」
と。
そんな彼の言葉がクレーの方にも聞こえていたのだろう。クレーは「つらい、つらい」と言いながら茂みの中で笑っている。実に楽しそうに笑っている。お前のせいでこうなっているんだぞ。
「クレー。」
この状況をどうするつもりなのか、と私はクレーに声を掛けた。
すると、笑いを治めたクレーは少し厳しい声色で、
「お前がヘタレだってことはよく解った。良いか、もう真っ直ぐ告白しろ。じゃなきゃ多分伝わらないし、絶対後悔することになる。前世のお前がそうだったように…」
そう言った。
厳しいながらも、どこか切なそうな声色だった。
クレーの言葉を聞いたハイデン様は、ぐっと唇を噛み締めてアイネ様が戻ってくるのを待つ。
私は邪魔をしないように、その場で極力気配を消すように配慮した。
…配慮したつもりだったのだが、二人の会話の噛み合わなさがちょっと面白くて、二人が喋っている間ずっと必死で笑いを堪えていた。
クレーもまた「つらい、つらい」と言いながら笑っているようだ。
何が辛いって、君が好きだというハイデン様の言葉に対して、アイネ様は「初耳」だと言ってのけたのだ。
ハイデン様の思いは何一つアイネ様に伝わっていなかったということだな。
まぁアイネ様ってぽやんとした方だし、きちんと好きだと言わなければ伝わらないのだろう。
大体ハイデン様もハイデン様だ。そんなにも大好きなら、好きだとか愛してるだとか素直に言えば良いのに。減るものじゃあるまいし。
甘くて美味しいお菓子を貰うより、ただ一言愛してると言ってくれたほうが、女の子は嬉しいのに。
後でそう忠告してあげよう、なんて考えていたら、アイネ様がハイデン様にいつから私を好きだったのかと尋ねている。
それに対してハイデン様は、
「初めて会ったあの日から、俺はずっと君が好きだった。」
と、答えている。しかしアイネ様はそれが信じられないらしい。
何故信じてあげないのだろう…
「だって、あの時あなたは3歳だったじゃない!」
あ、それは確かに信じられないわ!
まさかの3歳発言を聞いた私は思わず噴き出してしまった。
それからはただただ笑いを堪えるのに必死だった。
そしてハイデン様の告白劇が終わり、二人の話がまとまったあたりで、私は限界を向かえた。
「ぷっ、ふふふっもう限界。なんというか、二人ともお幸せに。あははっ」
アイネ様は、現状を理解していない表情をしているが、きっと二人は幸せになれると思う。
だって、ハイデン様に抱き締められたアイネ様の顔は真っ赤になっているし、どこか嬉しそうなんだもの。
「愛しているよ、アイネ。」
「あ、ありがとう…ございます。」
「これは親の意思ではなく俺の意思だ。アイネ、俺と結婚してくれ。」
「…はい。よろしくお願いします。」
「あはは、お二人ともおめでとうございますっふふっ」
さあ、クレーを呼んで今後幸せになるであろう二人を存分に冷やかしてあげましょうね。
もうちょっとだけ続きます。
次回はクレーさんの昔話。