花壇のとげ
side 衣透
あ、と脳内で呟く。環境美化委員会が花壇の水やりを忘れていた。
この学校の敷地は、たしかに無駄に広い。サボりたくもなるのだろう。
隅っこにある水道の如雨露を取って水を注ぐ。こぽこぽと水が溜まっていく音を聴きながら、初夏の風がスカートを揺らすのを感じていた。
水をあげながら、この花なんだっけ、とぼんやり考えた。……ああそうだ、アカンサス。
綺麗だと思って、如雨露を置いて手を伸ばすとちくりとした痛みに眉を寄せた。見ると指先から血が流れている。
……絆創膏、持ってたっけ。
きっと持っていない。保健室登校なので、どのみち保健室まで行かないといけない。ここからかなり遠い位置にあった。
まあいいや、と如雨露を持ち直して蛇口まで行く。洗っている間にも花が咲いたように血が溢れていた。
「え」
え?
反射で見上げた先、焦ったような顔をした女の子がいる。
「大丈夫?絆創膏持ってますか」
「あ、いいえ……」
そっかと呟いて絆創膏を差し出された。え、
「いいんですか…?」
「もちろん」
恐縮ですっ、とそれを受け取る。何の変哲もない、私が普段使っているものと同じメーカーの絆創膏が、少しあたたかく思えた。
「ごめんなさい、ありがとうございます…」
「血が止まらないなら保健室なり病院なり行ってくださいね、じゃあ」
───────それが、最初の出会いだった。




