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森の奥には〇〇が暮らしている  作者: 高崎まさき
6.選択を嫌う魔法使いと○○の話
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6-8 森の奥には魔法使いと魔王が暮らしている

6-8 森の奥には魔法使いと魔王が暮らしている


 苛立った声が飛び出し、俺は大きく瞬きをした。

 エレノアはポカンと口を開けこちらを凝視している。その瞳にはありありと困惑と驚愕が浮かんでいた。

 ほんの数秒だったんだろう。それでも俺達は互いに見つめ合ったまま、押し黙ってしまった。

 自分が理解できなかった。このままエレノアには愚かに侵食を待ってもらう生活を送らせるのがいい。なのに俺は真逆のアドバイスをこいつに送ってしまったのだ。

 頭を抱えたい衝動に駆られた。何故、どうして。

「誰が負けたってぇ?」

 静寂を切り裂いたのはエレノアだった。

「ノクス。あなた何か勘違いしているようだけど、私は失敗してるだけで何一つ負けちゃいない。まだ三十八回じゃない。何度でも……とはいかなくても次がある。必ずいつかこの生活に終止符を打つわ。世界を滅ぼしたりしないあなたと分離して、こんな家からおさらばして、好きな場所に自由に遊びに行くの」

 瞳が輝き、俺を映していた。ゾッとするような幸福が身を包む。ああだってこいつは。この状況下で俺を殺そうとしないのだ。

 最早人より魔物に近い魔王を殺さない選択を最初からするつもりなのだ。だから自らの身に封印なんて無茶をした。

 馬鹿で愚かで、そして優しく慈悲深い人間の振りをするエレノアが欲しい。こいつが“俺になってくれれば”他のものは塵以下だ。何もいらない。

「選ぶのが嫌いだとそう言ってるよなぁ、お前」

「ええ」

「人生は選択の連続だ。だから俺はお前に選ばない未来を提供してんだぜ? 選ぶのが嫌いなお前と、そもそも選択肢を全部消そうとしている俺。お似合いじゃねぇかよ」

「あのね、私は嫌いなだけで否定はしてないのよ。だって嫌になることばかりじゃない? うっかり自分にあなたを封印しちゃってこんな生活を三年も送っているし、抜け出そうにも誰も私を選ばない。冗談じゃないってのよ」

「俺がお前だけを選んでいるだろ」

「あなたのは選んでるんじゃなくて、全部捨ててるのよ。選べるわけない選択を突きつけて捨てさせて、『君の意思で選んだ』とか言っちゃう馬鹿。私はそういう奴が大勢いるから選ぶのが嫌いなの。でも」

 小さく息を吸い込む音がした。エレノアの肩が上下した。

「私はあの時、不本意ながら選んだ今を後悔はしてないの。すっごい腹立たしいけどね」

 堰を切ったように俺は腹を抱えた。ゲラゲラと俺の笑い声がダイニングに響く。まだ“二人”きりの部屋が途端喧しくなった。

「だから私はいつか選ばれてみせるわ。これからもやって来る刺客に。最大限のもてなしをして」

 他力本願なのに、己の意思に溢れていた。人生最大の選択の先でこいつはまだ何も諦めちゃいない。嫌そうに選択しながら後悔はしないのだ。

「上等だ。精々力を貸してやるから、お前だけの王子様でも探すんだな。そんで俺以外いないと気づいて絶望するがいいぜ。お前には俺という選択肢しか存在しない」

「そういう選択にみせかけた強制が大嫌いだって言ってるのよ。大体今時そういう“王子様”って流行らないわ。だから私は自分で選択肢を作って、選ぶの。私を選んでくれる人を。だって」

 得意気に胸を張るエレノアに俺は目元の涙を指で拭う。これ程までに笑いが止まらなかったのはいつ振りだろう。

「私とあなただけなら駄目でも、誰かと一緒ならきっと“こんな選択だらけの不毛な道”以外を作り出せる。選んで全部捨てるとか、馬鹿みたいじゃない。私はあなたと死ぬ気も、仮に解放されたとしても人を殺しそうなあなたを放っておくつもりもないのよ。あなたが世界を滅ぼさないよう、変えてみせるわ」

「俺の憎悪を変えるだと? 調子に乗るな」

 共に暮らすことになった初日。エレノアは堂々と言い放った。あなたの気持ちには応えられない。あなたの憎悪は否定しない。ただ、あなたの憎悪が世界を滅ぼす選択をしないよう変えてみせる、と。

 傲慢さに笑いが止まらなかった。あの時も、今もだ。

「選ばれるのが目的なのに選ぶのか。矛盾してねぇか、それ」

 誰かに手を差し伸べてもらわなければ先に進めないのに、不毛な選択をしない未来の協力者をこちらから先に選ぼうとしているなんて。

「矛盾くらい抱えて踏み倒さなきゃ何も変えられないのよ。私は選択を否定しない。けど、嫌いだから理不尽な選択はしないように戦うだけ。自分で作った選択よ。だから主導権は私が握る」

 選択の果てで俺達は生きている。その先に俺は愛しい存在の絶望を願い、一方でエレノアは俺にもこいつにもわからない未来を探している。“健気で優しく慈悲深い人間”を演じながら傲慢にそして貪欲に未来を諦めてないのだ。

 ──仮にその姿が演技だったとして。本当に救われた人間が大勢いるならそれはきっと。

 刺客達もあの時研究所で俺に腕や足を切断された連中も、現フォルセーラ財閥も政府に巣食うろくでなし共も。嫌々ながら選んだと鼻高々に笑むこいつのお陰で生きているのだ。

 こいつの方向性が間違っている努力と傲慢さと選択は人を救っていて、同時に本人は首を傾げ苦しんでいる。選ばれなければならないのに、何よりもその選択肢に入るのを恐れ、相手に尽くし、主導権を握ろうとして勘違いを生む。そのどうしようもない弱さと優しさに俺は惹かれたのだ。

 俺すら何とかしようと考えている傲慢さと愚かさを愛しているのだ。

 エレノアがやがて絶望し、恋焦がれ俺の一部になるかどうか。俺とエレノアの戦いはまだ道半ばだ。


 森の奥では“魔王”が末長く暮らしていましたとさ、となるか否か。……エレノアと俺は今日も出会いという選択の先を続けている。



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