作戦初日~初戦突破
俺たち4人は連絡先の交換をした。
女子との連絡先交換には、やはりドキドキした。
初めての女子の友達。しかも似た趣味を持った友達。
森口さんにはスポーツマンとの連絡先はブロックするようにやんわりと勧めておいた。
最後に大まかに作戦の確認をして、解散の運びとなった。
明日だ。
少し緊張する。
この日の夜、俺は、想定外の事態の可能性をいろいろと考えて、対策を練った。
寝る前にスマホを見ると、3件のメッセージが届いていた。
村上さんが一番最初で『友達になってくれてありがとう。明日からよろしくね』
西村さんが二番目に『今日はいろいろあったね。おやすみなさい。明日からよろしく』
最後が森口さん『頼りにしてます。話を聞いてくれてありがとう』だった。
俺はそれぞれに簡単な返事に『おやすみなさい』をつけ加えて返信し、ベッドに入った。
興奮して眠れないかもな。と思っていたが、案外あっさりと眠りに落ちた。
☆★☆ 5月10日(水) 朝 ☆★☆
俺は登校してすぐに村上さんの席に向かった。
そこにはすでに西村さんもおり、楽しそうに会話していた。いつも通りの風景。
そんな中に俺が割り込む。かなり緊張するが、俺は行く。
「おはよー。西村さん、村上さん。昨日はありがとう。ビックリしたけど楽しかったよ」
ある程度、周囲に聞こえるように声を出す。わざとらしくならないように演技。
噂を作るための布石だ。
「それで、昨日言ってた俺の作品なんだけど、いくつか持ってきた」
カバンの中から小さな巾着を出して、村上さんの机に置く。周囲にも見えるように。
巾着の中から出したのは昔作った小さめのビーズアクセ。
デフォルメした犬や猫、クマにイルカと言った初心者向けの簡単に作れるものだ。
「村上さんはビーズアクセが好きって言ってたから、お手本になるかな? と思って持ってきたんだ。よかったら貰ってよ」
俺のこの行動は昨日の打ち合わせにないものだ。
だからだろう。村上さんは驚いていた。
何といっても村上さんはちょっとポンコツな所がある。
下手に台本を作るよりアドリブで対応させた方がいいと思った。
「うわ~~可愛い。ありがとう」
村上さんが目を輝かせている。
サプライズ成功!
「どういたしまして」
今度は西村さんに向き直る。
「西村さん、昨日の造花のアドバイスの件なんだけど、よかったら今日お昼休み一緒にしない?」
これも、周囲に聞こえるように。
「え、うん……」
あれ?西村さんの方が緊張している?これは予想外。
「よかった。じゃあ西村さんはこれ貰ってよ」
そう言って俺がカバンから出したのはオーガンジー布の造花。小さめの赤い薔薇3本の花束。
「造花は小さければ小さいほど難しくなるからよかったら参考にして」
「ありがとう」
軽く雑談もして、HRまではあと3分。布石は打った。俺は席に戻る。
森口さんが教室に入ってくる。
今だ。
「森口さんおはよー」
「あ、竹中くんおはよ」
俺は森口さんが席に着くまで見守る。周囲のクラスメイトの視線がどこに向いているのか確認しながら。
まだまだヘイトは森口さんにか。俺を気にする奴はまだいない。当然か。
HRが始まった。
☆★☆ 10分休み ☆★☆
村上さんが森口さんに話かけてる。
俺は左を向いて窓の外を見ているように見せかけて視界の隅に2人を捉える。
そしてクラス全体に耳を澄ます。
『森口』という名詞と、悪意ある口調を受信するためにセンサーを張る。
思いのほか全体的に悪意は感じられない。
だが、森口さんが楽しそうに村上さんとお喋りしていることが気になっている様子はキャッチした。
まだだ、油断するな!
俺の時はどうだった?
悪意は、俺が気を抜いたとき、突然にぶつけられていなかったか?
それよりも……
村上さんが、めっちゃ楽しそうだ。
森口さんがたじろいでいる。
☆★☆ 昼休み ☆★☆
待ちに待った昼休みだ。実は楽しみにしていた。
昨日も4人で話したけど、弁当を一緒にというのは初めての経験。
「村上さん。お邪魔します」
「いらっしゃい。竹中くん」
村上さんがいい笑顔で迎えてくれた。
すると、隣の席の男子が財布を持って立ち上がった。
「あれ? 渡辺君は学食?」
村上さんの隣、渡辺が教室から出ようとしているのを見かけ、村上さんが声をかけた。
「ああ」
不機嫌な声で渡辺が短く答える。
実はこの男が『ちょいワル』だ。
男子の名簿番号17番。最後から2番目である。
「じゃあ、昼休み、机貸してよ。4人で固まってお昼食べるから」
俺は村上さんのコミュニケーション力にびっくりした。なかなかやるな。この子。
「勝手にしろ」
言い捨てて渡辺は去る。
森口さんも加わる予定だから気まずいのだろう。早足で教室から去っていった。
もしかしたら奴も、悪意ある噂を流されているのかもしれない。今後気にしてみよう。
「よっしゃ~、机ゲット!4人で机2個じゃ狭いもんね~」
「村上さん、ナイスだ」
素直にほめる。今日は村上さんを褒めまくるかもしれない。俺。
「さあさあ、亜子ちゃんもおいで~」
西村さんは準備良く自分の席の椅子を持ってきていたため、俺がちょいワルの椅子を借りる。
村上さんの机が後ろ向きになり、西村さんと並んで座る。
森口さんは自分の席のままで、俺がちょいワルの机を横向きにして2つの机の中央に付ける。
だが、この位置だと視界が狭く、警戒しにくいことに俺は気付いた。
「なぁ、村上さん。俺と席変わってくんね?」
「え、どうして?」
「教室全体を見渡すのにこの向きじゃ不便なんだ」
「じゃぁ、こうしようよ」
村上さんの机が窓を背にした位置にし、ちょいワルの机が森口さんの向かいになる。
そのうえで、俺が一人、村上さんの席に移動。
ちょいワルの机に西村さんと村上さんが並んだ。
「村上さんありがとう。これで全体が見渡せるよ」
「えへへ。どういたしまして~」
さて、『悪意』や『好奇心』に晒されやすいのは今日が最大で、以後は一日ずつ関心が薄れていくだろう。
「じゃぁ、まずはいただきましょう~」
村上さん上機嫌。この場を取り仕切っている。
女子に交じって弁当を食べるなんて生まれて初めての経験なのに、なんでか落ち着く。
「「「「いただきます」」」」
みんな、食事前の挨拶をきちんとすることにも、俺は好感を覚えた。
食事をしながらだが、俺は村上さんを褒めたいと思っていた。
「村上さん。10分休みの間、森口さんと凄く盛り上がっていたね。グッジョブだったよ」
「そう~~? 良かった~」
褒められて喜ぶ村上さんがとても可愛く見える。いや、もともと可愛いのか。
「森口さんは大丈夫だった?なんかタジタジになってたように見えたけど?」
「ええ。最初は戸惑ったけど、わたし、こんなに沢山話かけられたことなんて無かったから凄く楽しかったわよ」
「それなら良かった」
「村上さんとも大分仲良くなれたわ」
柔らかい微笑み。
天使ではない、道具でもない、一人の女の子としての笑顔。眩しい。
「上出来だったよ。あの雰囲気じゃ、俺でも話かけにくいと思ったもんね」
「うんうん。私でも近寄りがたかったよ」
西村さんからも高評価。
そして食事を終えた俺たちは、雑談と言う防御壁でこの昼休みを迎え撃つ。
「じゃあ、そろそろヒマワリの造花のアドバイスしようか?持ってきてる?」
西村さんに話かける。
「うん」
昨日も少しだけ見た『ヒマワリの安全ピンブローチ』
「昨日も見たけど、かなり良くできているよ。ただ、全部布で出来ているから、筒状花と呼ばれるおしべ、めしべの部分が少し弱いと思う。これは後で見本をあげるよ」
「ふんふん」
「後は、裏面の額だね。帽子とかに付けて、雨に濡れたりするならこのままでもいいけど、額の部分には色画用紙を使ってみるのもいいかもしれないよ」
「画用紙だと紙質でなんか安っぽくならない?」
「そこはやすりをかけて紙を毛羽立たせると自然な感じに見えるんだ。やってみるね」
俺は手提げから緑の色画用紙を出して『ヒマワリの額』に合う大きさに切り取り、適当に形を整えた。
大体の形が出来たら紙工作用のやすりで優しく丁寧に紙を毛羽立たせる。
硬そうに見えていた紙が、柔らかい見た目に変わる。
安全ピンの上からだが、出来上がった額をブローチの裏に当てると、
「うわー! 凄く自然な感じになった。本物っぽい。でも、今度はそのせいで、ヒマワリの方が安っぽく見えるようになっちゃった」
どうしようかと迷っている西村さん。頼もしい時も素敵だけど、戸惑っている時でも素敵だ。
「じゃ、西村さんにはこれをあげる」
ガサゴソと手提げの中から一つ。
「あれ?竹中くんの作品にしてはずいぶん簡単なヒマワリ?」
「うん。ホントは型を作ってあげたかったんだけど、ちょっと面倒でさ。これを解体して型の代わりにして西村さんらしいヒマワリ作りの手本にしてくれたら嬉しいなって」
「解体? していいの?」
「そのために作ったんだ」
「さっそくじゃあ……」
この日の昼休みは4人で大いに盛り上がり、誰にも邪魔されることもないまま、最後まで過ごすことが出来た。
そして、放課後。
今日の防衛戦は勝利した。と、言い切って良いであろう。ヨシッ!