俺の趣味オープン!~からの~友達!
☆★☆ 5月9日(火) 昼休み 教室 ☆★☆
「あのお店の見本って、竹中君が作ったの?」
森口さんに話かけられた。ビックリはしたがもう俺の趣味がバレてもいいと腹はくくった。
あのババアのせいで。
「あぁ、あんまり知られたくはなかったけど、知られちゃったなら認めるしかないな」
「へ~、わたしもよくあのお店でフェルトとか綿とか買って、ぬいぐるみを自作したりしてるんだ」
おっと、森口さんも手芸仲間なのか。
竹中遼太は仲間になりたそうに見つめている。
「あ、ごめんなさい。あなたたちの会話に横入りするようなことして」
急に表情に影を落として森口さんは頭を下げる。
「べつにいいじゃん。こういう趣味の話は誰とでもできるってわけじゃないから私は嬉しいよ?ね、詩織はどう?」
西村さんはイイ感じに頼りになるね。まさに頼もしい女子。
「そうだよ~お仲間に入ってよ~」
村上さんも森口さんに気を使っているな。昨日の事ならもう気にするなよ~
「あ~でもわたし、今その、アレだから……」
言いにくいよな。今は普通に振舞う事すら辛そうだ。
「俺は気にしてないぜ?まぁ、噂でしか事情は知らないし、事実確認とかする気もないし」
誰だって間違いくらい起こすさ。だって人間だもの。
「そういう距離感助かるよ。みんななにか勘違いして騒いでるし」
森口さんの表情に、ぎこちなくて硬いが、確かにほんの少しの笑みが差した。歪んだ笑み。せっかくの美人がもったいないような歪み。
「西村さん、造花のアドバイスはまた今度でいい?ちょっと俺、みんなに見てもらいたいものがあるんだ」
俺は西村さんと個人で話すよりも、グループとして全体とコミュニケーションを図ることを優先することにした。
理由は落ち込んでいる森口さんだ。仲間に引き込みたい。
あれ?俺今西村さんと村上さんをすでに仲間認定している?
自分のことながら、人の心の動きって複雑だよね~
西村さんの返事を待たずに、俺は手提げから自信作3点セットを取り出して見せる。
「うわ。綺麗!っていうかなにこれ?凄ッ」
やはり最初のリアクションは西村さんだ。俺の自信作の精巧さが分かるには、多少の経験や実力が必要だからな。
「黒いシャム猫~、大きいしリアル。これをビーズで?」
さっきまで黙りこくっていた村上さんも、今は驚いている。うん。もう俺、昨日ことは気にしてないよ~
「ネクタイピンのこれって真珠?本物?」
おいおい、西村さん。それ普通に手芸店で売ってる安物だよ~
「これはジュエルビーズって言うれっきとしたビーズ。手芸の材料だよ」
「このコサージュってもしかして男性用?色が渋すぎるよ~」
なんだ?なんだろうこの気持ち!フワフワする~
「ねぇねぇ、他にはないの?」
村上さんも興味津々な様子。
「家に帰ればたくさんあるけど、学校には3つしか持ってきてない」
「写真!写真はないの?」
西村さんガッツくなぁ~嬉しい~
「あるよ」
俺は村上さんの机の向きを替えて後ろの森口さんの机とくっつけた。
そしてスマホのギャラリーの写真を3人に見えるように机の上に置く。
「写真多すぎ!8000枚以上?うわ、スゴッ!写真も綺麗」
あぁ、俺の趣味をこんなに堂々と晒したのは何時ぶりだろう?
小4……いや、小3頃かな?揶揄われ始めてからはコソコソしてたし、小5からは家以外では絶対にやらないと心に決めたからな~
「ちょっと!これ!ビーズアートの動物園!?めっちゃ可愛い!もう~~ミニチュアの世界じゃん!」
村上さんはビーズアートにがっついて、西村さんは造花にがっつく傾向があるな。と冷静に分析。
「これネットオークションとかに出したら凄いお金になるかも」
「ばかばか、絶対に売らん!」
おいこら何を言い出すんだ西村さんは!
「凄いんだね……竹中君は」
さっきから黙って見ていた森口さんが表情を変えずにポツリと話した。
「ちょっとちょっと~森口さんどうしたの~?」
村上さんが心配そうに森口さんの顔を覗き込む。
「なんでもない」
森口さんのややぶっきらぼうな返答。
「何でもない顔じゃないよ~?」
村上さんの追求……って、森口さんのこの表情はヤバイ!これ以上は踏み込むな村上!俺たちにはまだ、そこに踏み込める程の信頼関係は、無い!
「村上さん。本人が何でもないって言ってるんだ。今はダメだよ」
極めて冷静に、平静を保って、俺は言った。間に合った…と思う。
「詩織?私もそう思うよ。竹中君に賛成」
西村さんの援護射撃。でもたぶん、俺が言わなくてもきっとちゃんと止めてたよね。そんな感じはする。
「うぐっ。そういえばわたし、昨日失敗したばっかりだった……」
村上さんが落ち込んでいるが、そうか、気にしていたのか……
今、俺の中で村上さんへの評価が変わった。
村上さんは、『俺のばあちゃんではない』と!
「竹中君、昨日はごめんなさい。ホントは今日竹中君には話かけないようにして、態度で反省してるってことを示そうと思ってたんだけど、それもできてなくってホントにごめんなさい」
「もういいよ。俺の中ではとっくに過去の話になっちゃったし」
あのババアのせいで。
「わたしも亜子ちゃんに影響されて、昨日から造花にチャレンジしてるの。それで手芸店に行ったら、凄い男の子がいるって話になって、それが竹中君かもって思ったらその時、目の前が真っ暗になっちゃって、足もガクガク震えて、なんて言って謝ろうかとか必死になっちゃって、わたし竹中君とお友達になりたいんです。今すぐじゃなくていいです。いつか友達になってください」
この子、話すの下手か。
「友達にって……いつでもいいの?」
「はいッ。いつまででも待たせてください」
「わかった。じゃぁ、今から友達。同じ趣味を持つ『趣味友達』だ」
「……ありがとう。竹中君」
「よかったね、詩織」
「森口さんもごめんなさい。わたしあんまり空気とか読めなくて、今だってわたし、森口さんの心に土足で入って行くところだった……」
「ううん、いいの。でも……」
森口さんは俯いている。
悲しそうな顔で。
痛そうな表情で。
「……友達か……」
ポツリと言った一言は小さな声だったが、聞いてほしいと訴えかけているように聞こえた。
そして
「わたしも友達だったはずなんだけどね」
予鈴が鳴り、昼休みが終わった。