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女子的な趣味をオープンにしたら似たような趣味の女子達と仲良くなれて親友まで出来ちゃったお話  作者: いちくん
第一章:女子的な趣味をオープンにしたら似たような趣味の女子達と仲良くなれた話
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刺された心と、心無い謝罪

 コサージュのオリジナルアレンジを作った女子の名は『西村亜子(にしむらあこ)

 造花だと気付いた女子の名は『村上詩織(むらかみしおり)


 二人の事を俺はまだよく知らないが、昼休みには一緒に弁当を食べながら駄弁(だべ)っているのをよく見かける。言わば昼友っぽい。放課後や休日とかの事は全く知らん。


 俺の左前の席で二人向かい合って昼食を摂っているから、俺からは西村さんの顔は見えないが、村上さんの顔は見える。


 逆に言えば、西村さんは僕の顔を見ることはできないが、村上さんからは僕の顔が見える。


 つまり、そう言う事だ。


「ねえ、キミたしか竹中君だよね?なんかずっとニヤニヤしてて気持ち悪いよ?どうしたの?」


 俺の心に『気持ち悪いよ』はダイレクトに刺さる。

 つまり楽しい時間は終わった。俺の人生も終わった?うん、終わった。

 俺は実はこう見えて、あ、どう見えているのかは実はよく分かってないんだけれど。

 まぁ、こう見えて結構心は傷つきやすい。趣味が趣味だけにしょうがない。昔からそうだった。

 だから()えた。(しぼ)んだ。心が。


「そうか。気持ち悪くて申し訳ない。俺は消えるからどうぞ」


 俺はさっきまでの浮かれていた気持ちをあっさりと墜とされ、この場から去ることを選択した。

 いや、選択と言えるだろうか?選択肢なんて無い。

 まさに一択じゃん?今の俺はここに居られない。居たくない。


 俺は食べかけの弁当を急いで仕舞い、教室から出ていこうとした。


「待って、ごめんなさい」


 村上さんが謝罪してきたが、何に対して謝っているのかは分からない。だから


「謝っているのは俺の方なんですけど?気持ち悪い思いをさせたからな。じゃぁ」


 理由のない謝罪は謝罪なんかじゃない。ただの挨拶だ。

 俺のばあちゃんがいい例だ。ばあちゃんは口癖のように謝る。何もしてなくても謝る。

『ごめんごめん、申し訳ないね~』と。

 つまり、村上はそれと一緒だ。既にばあちゃんだ。


「詩織ッ!悪気がないのはわかってるけど、人に言っちゃいけない言葉ってのはあんだよ?」


 西村さんが村上さんを()()()。怒ってはいないようだ。確かに、()()()いる。


 俺は、動きを止めた。

 村上さんなどどうでもいい。

 だがしかし、西村さんの言葉と、次のセリフが気になってしまったのだ。


「竹中君……本当にごめんなさい」


 村上さんが謝ってきたが。

(なにが?なにを?なにについて?)


「……」


(何を謝ればいいかわかってないのか?それとも理由を言いたくないのか?とにかく謝れば許されると思っているのか?)


 数秒待った。

 だが、もういい。終わりにしよう。


「何に対して謝っているのか理解できない。だからその謝罪は受け入れられない。じゃ」


 こいつ(村上)には俺の趣味を知られたくない。西村さんはかなり惜しいけれど、村上さんとの組み合わせじゃぁ無理っぽい。だから俺は去る。……とりあえず中庭にでも行こうかな。


「待って、竹中君!」


 今、俺を止めたのは村上ではなく、西村さんだ。


『待って』は依頼。『竹中君』は指名。一応、簡素ではあるが文章。

 つまり西村さんの言葉の使い方は、俺の琴線に触れた。だが。


「どのくらい待てばいいんだ?俺、さっさと弁当を食べてしまいたいんだがな」


 だからと言って、友好的に振舞う必要もないだろう。どうせ長い人生だ。

 60歳過ぎあたりで、同じような趣味のおばあちゃんを見つけても、楽しく仲良しは作れるだろう。

 まぁ、それまでは若干辛そうだが……


「詩織が言ったことは私が謝る。気持ち悪いって言った事についてだ。悪気がないと言っても、言って良い事と悪いことはある。わかるよな?詩織」


 西村亜子。こいつは…こいつはもしかしたら本当にいい奴なのかもしれない。俺なんかよりも、よっぽど男らしい。


「ご、ごめんなさい。ほんとにごめんなさい、竹中君!ホントは気持ち悪いって言ったのは全然本心じゃなかったの。言葉って難しくって……ホントは、ホントはね、私たちの話が聞こえてて、それでニコニコしていたのかな~?って思ってて、なんか良く分かんなくなってきたんだけど、話かけてみたくなっちゃって、それであんなことを言って、本当にごめんなさい!」


 う~ん。何となく伝わったけど……村上さんって話すの下手か。


「わかった。謝罪は受け入れた。じゃ」


 俺は去る。またね。

 だってさ、この雰囲気で自分の席でご飯食べるのなんて無理。絶対。だって席近いから。


「あ!」


 村上さんが何か言いたそうにしていたが知るか、知るもんか。

 確かに謝罪は受け入れたが、別に許したというわけじゃない。

 もともと親しい関係だったというわけでもない。

 俺の趣味を知っているわけでもない。

 単に俺がリスナーをやめただけだ。

 こいつらに俺の趣味を褒められたいとは思わない。

 いつかどこかで、もう少しましな出会いがあると信じて、俺は自分をもう一度閉ざす。


 まぁ、西村さんはもったいないとは思うけれど、別に問題はない。

 だって俺は、今まで何年も、自分を隠し続けて生きてこられたのだから。

 慣れっこなのさ。だから。





 俺は独り、中庭で弁当を食う。





 いつの日にか、俺に、俺と俺の趣味に、理解してくれる人を見つけるまで。





 孤独には耐えられる。耐えることはできる。





 期待させるんじゃねーよ!





 ムカつく。ムカつく。ムカつく! クソッ!!!




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― 新着の感想 ―
[良い点] とてもリアル感があっていいです。 会話慣れとかしてないとあんな感じで過剰な反応してしまいますよね。 僕は存在を薄くするのがうま過ぎて、竹中君みたいに声はかけられませんでしたが(T . T)…
[良い点] 良いですね、こういった展開、私は好きです。 「謝罪は受け入れたが、許したわけじゃない」というところに共感してしまいました。 [一言] 主人公は既に二人との関係を諦め、悔しさで一杯の様子。 …
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