アイツ絶対反省してねぇ!
渡辺大弥。ボクシング部。
大きくて強い。
俺がこいつについて知っていることはそれだけだ。
同じ中学で、毎年クラス替えがあったが一緒のクラスになったことは一度もない。
知らないと言う事は怖い。
今、俺は恐怖を感じている。
そんな俺に、渡辺大弥は言った。
「竹中。森口を守ってくれて感謝する」
俺はこいつを恐れている。こいつは森口さんに確かに謝罪した。だが、俺はこいつをまだ敵だと認識している。こいつの感情が少しブレるだけで何をするかわからない。だからあの時我を忘れて言い争ったのではないのかという、『何をするのか予測できない』恐怖を感じる。もちろん俺の勘違いや思い込み、考え過ぎなのかもしれない。だが、まだ俺は警戒心を解くことが出来ずにいる。
「森口に対する悪意ある噂の原因がオレにあることは十分に承知している。オレがお前に感謝するなどお門違いだってこともわかっている。それでもオレはお前に感謝せずにはいられない」
「なんで俺なんだ?」
俺はここ数日お前から面白くなさそうな態度を感じていたぞ?
「噂が広まった日、お前らは噂の内容を知っていながら森口に近付いた。それを見た時、オレは焦った。お前らが森口の心の傷を抉るんじゃないかと思ってずっと気にかけていた」
「俺が森口さんに近付いたことが面白くなかったからじゃないのか?」
「確かに面白くはなかったが、それを言う資格はオレにはない」
「ふ~ん」
何を言いたいんだこいつは。なんだかイライラしてきた。
「噂は悪意の塊だった。その噂の原因はオレにあり、その悪意の強さに正直オレはビビってしまった。そんなクラス中が息を潜めて森口に注目している中、お前らは村上の席の向きを替えて森口と向き合っていた」
「俺は悪意ってやつが大嫌いだし、俺たちはお互い趣味が合うってわかったからな」
ぶっきらぼうに答える。怖いとは感じるが、俺はこいつに敵意を隠すつもりはない。
「わたしたちたった1日で、すっごい仲良しになったんだよ~」
村上さん?
村上さんが俺たちの会話に入ってくれた。これって、なかなかできることじゃないんじゃないか?
心が少しだけ軽くなった。
そうだ。俺は今一人じゃないんだ。俺が言ったんじゃないか。二人がかりで対応すれば効果も絶大だって。ましてや、今俺たちは4人。
「村上さん……そうだね。俺たちはたったの1日で、説明できないくらい仲良しになれた」
「そうか…だからなのか。次の日の朝、お前が森口に『おはよう』と挨拶したら、森口はお前の名前を呼んで『おはよう』と言った。前日とは違い表情も顔色も良くなっていた。お前に対する信頼も感じた。前の日までお前らと森口の間には接点などなかったはずだよな?」
「だから趣味が合ったんだよ」
嫉妬か?みっともねぇ。
「あの…接点はあったんです。気が付くのに時間がかかっちゃったけれど、杉見手芸店のディスプレイにずっと前から…。ね、詩織?」
「うん。凄く綺麗な接点だったよ~」
西村さんありがとう。それを接点と思ってくれて。そしてうん、村上さんはやはり、話すの下手か。『綺麗な接点』ってなんだ?だがいい。それがいい。重くささくれだっていた俺の心がどんどん軽くなる。
「森口さんと俺の接点も、その杉見手芸店だ。だから昼休みの弁当仲間に誘った」
「その昼休みの話だがな、オレにはあの時のお前が、まるで森口を守護する『魔王』のように見えていたぞ」
魔王? 俺が? ところで魔王って、誰かを守護するものなのか? コイツ何を言ってるんだ?
「亜子ちゃん。亜子ちゃんが言ったとおりだった~。やっぱり竹中くんは魔王に見えるんだね」
「ちょっと詩織、黙りなさい!」
西村さん? 俺の事そんな風に思ってたの? 後で詳しく!
「ああ、お前は俺から机を奪い、教室の隅に陣取り、森口を守りながらも、クラス全体に殺意をまき散らし、睨みつけるように見まわしていた」
机を奪ったのは村上さんでは?
「うんうん。お昼の竹中くんってすごい厳しい表情だったよね~」
「そう。敵意を向ければその瞬間に殺されるんじゃないかって程のオーラが漂っていたよ」
「それに10分休みとかもすごい表情で教室全体に殺気ふりまいてたしね~」
「村上さん? 西村さん? ちょっと大袈裟じゃね? そこまででもないだろう?」
「別に大袈裟ではない。事実、お前に話かけられたのは、手芸に興味を示した2人の女子だけだった」
「マミちゃんとさゆちゃんのことだね~」
村上さんがちょいちょい俺に声をかけてくれると、なんか安らぐな~。癒しって言うの? 村上さんってもしかして癒し系?
「お前の、周囲を見る目は鋭く恐ろしかった。だが、お前は森口を…いや、仲間たちを見る目だけは常に優しかった。絶対に守ると言うお前の本気が感じられた」
「私と詩織も、私たちにだけ優しい表情してるって、実は気付いてたよ。ああいう竹中くんって、凄くかっこいいと思う」
「うんうん。すごくかっこよかった~」
え? まさか俺がカッコいいと言われる日が来るとは??? あ、夢? なんだ夢オチかよって違うか。
「噂と悪意から森口を守るために、お前はあんなにも強くなれたんだろ?」
……違う。これだけは絶対に違う。何と言うか?何と言うべきか?
「……ちがうよ。俺はただ……たぶん報われたかっただけなんだ。森口さんを守り切ることで、ガキの頃の俺の仇を討ちたかっただけなんだ」
「何かあったのか? ガキの頃に」
恥ずかしい話なんだがな、聞いてもらいたいという気持ちも無い訳では無い。だから
「正直に言おうか……森口さん、西村さんと村上さんも聞いてくれ」
俺は語ることにした。
ガキの頃、俺は女子っぽい趣味が原因で、噂や悪意ある揶揄いに、一方的に負けた。言い返しても10倍にして言い返された。言い返さなければ一方的にいつまでも言われ続けた。
悔しかった。今度こんな目にあったら絶対に負けないと決意して俺は趣味を封印した。隠した。つまり逃げたんだ。いつか必ずリベンジしてやる。そしてそのためにはどうすればいいのか。どうすれば悪意に対抗できるのか、ずっと考え続けて生きてきた。
そして、俺以外にもいろんな人が、噂や悪意に晒されていくのを見てきた。俺は隠れて、息を潜めて、他人の戦い方を観察し、研究した。
やがて俺は一つの結論に至った。
『悪意には一人では打ち勝てない』と言う事。もちろん、一人ででも打ち勝つ力を持っている奴はいるのかもしれない。でも、俺の力では難しく、仲間と協力して…いや、言葉を飾るべきじゃないな。誰かを仲間に引き入れて、利用して打ち勝つ方法しか考えつけなかった。
今回確かに、俺は森口さんを守りたいと本気で思っていた。でも、それだけじゃない。俺が考えた悪意との戦い方が実際に通用するのかどうか、確かめるチャンスだとも思ったんだ。俺は森口さんのこの状況を利用して、悪意に打ち勝ちたい。森口さんを守るってことは、ガキの頃の俺の敵討ちをしたい。悪意になんかもう負けないことを証明したいって言う、俺の自己満足だったんだ。だから……
「森口さん。俺の方こそごめんなさい。キミを利用するようなことをして」
「竹中くん……」
森口さんが悲しそうな表情をしている。そうだよな。俺なんかに利用されていたなんてな。
「西村さん。村上さん。俺のわがままに付き合ってくれて、本当にありがとね。おかげで俺は敵討ちが出来て、心のつかえが取れたよ」
君たちがいたからこそ、この作戦は成功できたんだ。本当に感謝しかないよ。
「こっちこそありがとうだよ~。竹中くん」
「私は、竹中くんの心のつかえが取れた事…嬉しいと思う」
「噂や悪意に勝つだなんて、漫画かゲームの世界みたいだったよね~」
「そうだね。めったに経験出来ることじゃなかったね」
西村さんと村上さんは本当に仲良しだな。今度、俺ももう少し踏み込んでみようか。
「そう言う事だ。だから渡辺、おまえが俺に感謝する必要はない」
「そうか…わかった。そう言う事なら感謝では無いな。だが、何か言いたい。言い足りない」
「ねぇ、そろそろご飯にしないと昼休み、無くなるんじゃない?」
森口さんが渡辺に話かけた!? あぁ、追い払ったのか…
「む。そうだな。早く行かねば学食が売り切れてしまう。急がねば!」
なにか吹っ切れたような笑顔で渡辺大弥は踵を返すと、チラリと俺に振りかえって右腕をあげ……大声で叫んだ。
「竹中遼太。いや、魔王遼太よ! お前…最高にカッコよかったぞ! じゃあな!!」
なんか、あいつこそカッコつけて出ていったけどよ。
アイツ絶対反省してねぇ! 森口さんの次はおれか? 俺が魔王だって噂を広める気だな? クソッ!!!
最終回にするつもりでしたが、もう少し続けたくなりました。
感想・意見・アドバイス等ありましたら是非よろしくお願いします┏○
第一章【完】とします。引き続き【第二章】を頑張りますm(__)m




