一つの恋の⋯⋯憐憫
リリアナは眠り続ける、その寝顔はこの所の辛そうな顔から一変して穏やかに見える。
「あっ首の付け根に切り傷が!」
メイドのアンは急いで薬を塗り込む。
ふと手を止めて思う、お嬢様は今幸せな夢を見ておられるのではないのか。
そうであって欲しいと思う。
リリアナが大事にしていた髪飾りをチラリと横目で睨み付け、彼女付きのメイドであるアンは唇を少し開かせて吸い口で少量の水を飲ませる。
不思議なことにほんの少しずつならば飲んでくれるのだ。
そしてたっぷり水分を含ませたガーゼで唇を湿らせ、練って軟らかくしたリップを優しく塗っていく。
そういえばこのイミテーションの髪飾りを小さな刷毛でいつもお手入れなさっていたっけ。
リリアナの小さな背中がほんの少し前かがみになり、一心不乱に汚れを取っていたなと。
随分古くなってしまった髪飾りは土台の爪が取れたりして最近は日の目を見る事は無かったのだけど、何よりも大切になさっていたわ。
このお手入れだけはご自分でなさっていたのよね。
ここ最近は悲しい位小さくなった寂しげな背中が頭をよぎる。
身分差が無ければ友達になれたのに、傍に寄り添ったのに。
「これから大好きな方がいらっしゃいますよ、さあ寝てばかりも飽きたでしょう。起きましょう」と、潤んだ眼をこすりながら声を掛ける。
勿論返事は無い、目覚めないならせめて良い夢をと願って止まない。
侯爵家に到着したエドモンドはまず侯爵夫妻に会う。
「遅くなって済まない、リリアナ嬢のお加減はその後如何だろうか」
持って来た花束をメイドに手渡しながら聞く。暫し気まずい沈黙が続く。
「あの子は今も眠っております、婚約破棄した娘などほっておけば良いでしょう」
「あ、あなた⋯⋯」
「いや良いんだ、遅くなって済まなかった」
「娘には次の縁談が纏まりかけておりました、少しずつですが気持ちの整理も出来つつあったのです」
「⋯⋯」
「なのによりにもよって王太子殿下の婚約披露の当日に王城に呼び付けられるとは」
「何?」
「リリアナは知らなかったのです、あの日が婚約披露のパーティーだと」
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