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一つの恋の……懺悔①

 辛い話になると聞いてリリアナの表情がかすかに曇った。

「それでも私に話しておかなければいけないのでしょう?」

「いつ話そうか……迷っていたんだ」

「お話を聞かせて頂けますか」



 それを聞いたサイモンが椅子を心持ちリリアナに寄せた。

「そうだな、お兄さんが一緒なら大丈夫かな」

「リリアナまだ聞くのが辛いなら家に帰ろう」

 サイモンが過剰に反応する。


「いいえ。私が何故この道を辿(たど)ったのか、眠っている間に何があったのか聞いておきたいです」

「結婚の準備で忙しくなる前の方が良いのだろうと思った。ご家族が一緒の方が良いかな?」

「父はともかく母と兄は当てになりません。話を伺って私から報告します、リリアナいいだろう?」

「お兄様にお任せします」

「そうか、侯爵には私から報告しなければならないと思っていたのだが」

 サイモンが言う事も分かる気がするのでエドモンドも任せる事にした。


「もう全て解決したのでしょうか?リリアナに危険が及ぶ事は無いのでしょうか?」

「全て解決とはまだいかないかな。今報告待ちのもあるんだ。でも危険は無いと言える」

 リリアナを害する可能性のある者は(ことごと)く退けた。そして一番可能性の高い者は今修道院に居る。

 ハワードを除けば協力者は現れないだろう。

「長くなるのですか?」サイモンが時間を気にして聞く。

「そうだな、部屋に戻ろうか。サイモン兄さんも上司に許可を取って応接室まで来て下さい」




 エドモンドの執務室横にある応接室は執務室同様防音仕様になっていた。

 リリアナと共に移動したエドモンドはサイモンが来るのを待っていた。

 するとサイモンが父であるモンタギュー侯爵と共に戻って来た。

「父がリリアナを迎えに来たようで、丁度よかったので連れて来ました」

「お父様が私を?」

 リリアナはとても驚いたようだ。


 それもそのはず、幼い時から両親は跡継ぎの長兄のみを可愛がり領地の家庭教師にサイモンと共に預けたまま年に数回しか会えないような希薄(きはく)な家族関係だったのだから。

 それがこの所父親だけは変わりつつあった、相変わらず母と長兄はお互いにべったりでリリアナの王太子妃決定に大変喜んではいるがあまり自分たち以外に興味が無い。

 サイモンもリリアナもそう言うものだと諦めていたので父の変化には驚いていた。

 取り敢えず四人集まったので隅に控えていた側近を入れて五人で話す事となった。




「何から話したらいいかな。まず学生時代の事からにしよう、私とハワードがアリーシャ嬢に出会ってからの事から」

 リリアナは思い出したのか下を向いてしまった。

 横に座ったサイモンがリリアナの手を包み込む。

「リリアナには辛いかもしれないがこの話は避けては通れない。具合が悪くなったら言ってくれ」

「大丈夫ですから、続けて下さい。私も知りたいです」

「リリアナ私もついているから安心しなさい」

 モンタギュー侯爵は優しい目をして言った。


「リリアナとはクラスが離れてしまってカリキュラムも違っていたからすれ違いが多かったんだ。生徒会からも相談があったりして忙しかったのもある」

「……」

「そんな時に王太子としてじゃなくて一人の学友として扱ってくれたのがアリーシャ嬢だったんだ」

「……」

「いつも周りから遠巻きにされていたから何て言うか、慣れてはいたんだが思い描いた学園生活とはかけ離れてしまってね。彼女の態度が好ましいものに見えたんだ、嬉しかったんだと思う。いつも視線の先には彼女が笑っていてその頃はとても(まぶ)しかったのを覚えているよ」

「お好きだったんですね」

 リリアナが小さく(つぶや)いた。

「その頃は多分そうだと思う、でもハワードもそうだったんだ」

「彼が好きだと言っていたんですか?」

 メリッサのことを知っているリリアナは聞かずには居られなかった。

「いや。彼には婚約者のメリッサが居たし、他のガールフレンドも沢山居たよ」

「彼の真似をしたんですか?プレーボーイの」

 サイモンの言い方には(とげ)があった。

「その頃の気持ちは真剣だったと思う、リリアナが決して嫌いになったとかじゃなく」

「……」

「だからこそ彼の気持ちにも気付いた。見つめる視線の先に誰が居るのかも。そして()れが却って気持ちを(あお)ってしまったんだと思う」

 今冷静に分析するとそうとしか思えない。

「……」

「あの頃は最高の女性に見えた。そして……済まない。婚約破棄の理由を探したんだと思う」

 エドモンドは言いにくそうに瞳を揺らした。

随分(ずいぶん)と勝手ですな」

 侯爵の手が小刻みに震えていた。

 サイモンはリリアナを抱き込んで悪意から遠ざけるかのように包み込んだ。

「済まない、辛いだろうが黙って最後まで聞いてくれないか」

 エドモンドはケジメを付けなければならなかった。


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