一つの恋の⋯⋯余波
日頃娯楽の少ない人達にとってスキャンダルは何より美味しい。
ここ数日、王城の下々の者の間でまことしやかに語られるある噂があった。
王太子殿下に関わる事なので誰もが細心の注意を払い、文官や女官を中心に静かに広がりを見せた。
それは新たに結ばれた婚約に関わる一連の騒動についてであった。
ある者は家庭で妻に、またある者は帰省した実家の両親にそして酔って酒場で友人相手に話してしまう者もあった。
リリアナが飛び降りた事は宰相の名で緘口令が敷かれたが発見時沢山の目撃者があった為人々の知る所になる。
だが一番の問題はその後の対応にあった。
すぐさま兵士がエドモンドを呼びに走ったのだが、運悪く執務室前で例の文官に会ってしまい追い返される事となる。
その後状況は一変した。
悪評高く悪い噂が絶えずやむなく婚約破棄されたと思われていたリリアナだったが、それを悔い改めたうら若き乙女が涙ながらに思い出の場所から身を投げた‥‥と言う筋書きに変わったのだ。
悲恋ものの演劇の様に目撃した人々の頭の中で。
しかも奇跡的に生きていた。
ドレスは枝が裂いたであろう跡が複数ありボロボロの状態。
木の枝とコシの強いたくさんの植え込みのお陰で助かったにも関わらず直ぐには見つけて貰えず、意識不明のまま一晩過ごした。
そのまま亡くなっていても不思議では無かった。
一方王太子殿下は非情にも駆けつけもせず報告を聞いてもお茶を要求し、呑気に飲んでいたと言うもの。
正確には政務を優先したが正しいのだが、日頃から人柄には定評のあった殿下の行動に人々は不信感を募らせていく。
その日は母から至急の呼び出しがあった。
「母上、至急の呼び出しとは何事でしょうか?」
「エドモンド、貴方まさかとは思いますがリリアナ嬢の件はきちんと誠意を以て対応しているのでしょうね」
「リリアナ嬢?……あぁ倒れていたと言う、丁重に送って差し上げるように指示しておりますが」
王妃は言葉に詰まり片目を覆い眉間に深く皺を刻んだ。
全く悪びれない息子に小さく頭を振りながら
「その言葉正気ですか?」と弱々しく言う。
「ご質問の意味が分からないのですが?」
「……意味とは、いや幸い陛下の耳には入れていません、直ぐに見舞いなさい」
「そこまでする必要があるとは」
「何を寝ぼけた事を!貴方の元婚約者でしょう!」
「えっ!」
エドモンドはリリアナの記憶だけがごっそり抜け落ちていた。
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