一つの恋の⋯⋯傾慕
彼女の側でぼんやりとしていると目の端にキラリと光るものが映った。
何気無くそちらに視線を送るとこの場にそぐわない玩具の様な、いかにも安物の塊を見つける。
思わず手に取るとポロッと金色の石が取れた。
子供でも見舞いに来たのだろうか?
そう思っているとメイドがお茶を運んできた。
「済まないがこれを手に取ったら外れてしまった様だ…」
「ヒッ!」
メイドが動揺してソーサーを持つ手がカタカタ震えている。
「子供の忘れ物だったか?」
「そんな!」
「……」
「それさえも忘れてしまわれたのですか?」
聞き逃しそうな小さな声だった。
「これは何かあるのか?」
「……」
明らかにどのように伝えようか迷っている目だった。
「ゆっくり落ち着いて話してくれないか?」
「これは王太子殿下が初めて下さった贈り物です、お嬢様の宝物で肌身離さずお持ちでした」
「こんな玩具を?」
「あんまりです、あまりにもお嬢様がお可愛そうです」
メイドの目から涙が溢れ出た、そしてそれが引き金になって号泣に変わる。
「話してくれないか?彼女に関する事を覚えていないんだ」
「……ウック、お嬢様がぁ身を‥…投げてもヒクッ、手放さなかったヒクッ宝物です。で、殿下のぉ、髪のお色だって、きっとヒック持って……旅立とうとされたんだと思います」
メイドはポケットから出したハンカチで止めどなく流れる涙と鼻水を拭うと続けた。
「大事に、それは大事になさっていたんですよ。頂いた時の気持ちと共に」
「……」
「私には心の内を話しては下さいませんでした、でも分かるんですよぉ、お側にいるから」
「……」
「いつも持ち歩いておいでなのは奥様がすぐお捨てになってしまうんです、奥様のお眼鏡に適わない物は」
そして気持ちを落ち着けたメイドから婚約してからの二人の関係性を丹念に聞きだしていった。
彼女が二人の関係以外にも小さな幸せを見つけては感謝を忘れない心根の優しい人物だと分かった、今更だが。
「しかし侯爵夫妻に聞いたが気持ちの整理を付けて新しい婚約も纏まりかけていたと、新しい幸せを掴もうとしていたのでは⋯⋯」
「失礼を承知で申し上げます、婚約を破棄された令嬢の末路を本当に理解されていますか?」
「末路?」
「大まかに言って二つが多いです。修道院か望まぬ結婚」
「⋯⋯」
「お嬢様は後者、二回り以上離れた方でお相手は愛人と子供が沢山いる好色な男です」
「……」
「そんな男の所に好き好んで行くご令嬢がおりますか?ご主人様は悪評が立った娘を厄介払いしたかったのです」
「……」
「だから婚約は覚悟を持って成されるべきなんです。お相手の人生を変える事になるから、いい意味でも悪い意味でも」
自分の幸せだけに目が向いて相手を思いやる事ができなくなっていた、思い上がりも甚だしい。
メイドである彼女の方が余程⋯⋯いや失敗から学べば良いのだ。
二度と繰り返さない様に。
頭がモヤモヤする、卒業した学園での事を調べ直す必要があるな。
あそこが全ての元凶の様な気がする。
「それとお嬢様が殿下に宛てたお手紙はご覧になりましたか?」




