一つの恋の⋯⋯混沌
その部屋で彼女は眠っていた、とても美しい人だった。
絵姿で想像したよりもずっと華奢で、身を投げたとは思えぬとても穏やかな寝顔だった。
部屋はアイボリーを基調としてレースやパッチワークがあり、差し色の様に見事な刺繍が目に付くだけで女性が好きそうな華美な物はあまり無かった。
王城の部屋を思い浮かべあのクッションの刺繍も見事だったなと、ぼんやり思った。
「痛かっただろうな。傷がこんなに」
「話し掛けて貰えませんか、殿下のお声でなら目を覚ますかも知れません」
控えていた医師が静かに言った。
どう声を掛けたらいいか少し迷って
「リリアナ嬢、目を開けて貰えないか?話をする必要があると思う。気持ちが聞きたいんだ」
エドモンドは胸が締め付けられる様に感じながらも言葉を絞り出した。
例え何があったにしても長い間婚約者として頑張ってくれたのだ。
こんな終わり方を望んだ訳じゃない。
なのに何故一つも思い出せないのか。
「怪我は如何なのですか?」
「打ち身切り傷は多数ありますが、内臓はコルセットがありましたので守られました。ペチコートのお蔭か奇跡的に骨折も無く意識さえ戻ってくれたら回復出来るかもしれません、ただ……」
医師は言い淀んだ。
「ただ?」
「発見まで時間がかかり過ぎた事と応急処置せず侯爵家まで直接馬車で運ばれました」
「えっ!」
「脳を損傷している可能性を考えるなら城で処置を受けさせるべきでした」
「あっ……」
「胸部より上は無防備でしたので、一生このままの可能性が高いと思います、とても残念ですが」
「……」
座っているのにくらりと目眩がした。
「丁重に送って差し上げろ」
私が報せに来た文官に指示した一刻も早くとばかりに、状況も聞かずに。
政務が滞っていて疲れていた、判断力が鈍っていたのか。
嫌、そうじゃない。
無関心だったのだ、どうでもよかったのだ。
頭の中で何度も何度もこだまする。
青い顔をしていたのだろう、医師が心配そうにしている。
「ご気分が優れませんか?薬を処方しましょうか」
「いや、大丈夫だ。暫く彼女と二人にして貰えないか」
「分かりました、ではあちらに控えておりますので」
母の顔が目に浮かぶ、苦悩した顔だ。
自分の息子に失望されたか......。
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