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08. 忠誠とは



「どうしたのだ?」

「あの子供たちは孤児院の子たちで、教皇が人身売買してると言うことです。そしてその息子が王女様を襲った」

「……なにかを聞いたのか?」


そう、彼女を襲ったのは教皇の息子だ。だけど、人身売買の件と関係があるのだとしたら彼女は何かに気付いていたか、もしく知っていたと言うことになる。だけど襲っていた時の息子の言葉が引っ掛かって同一事件とは言い切れない。


「これを」


ボイスレコーダーをテーブルの上に置き、あの男たちの会話を再生させた。


「これは……」

「一階に居た男たちの会話を録音したものです」

「ろくおん?」

「音をこの機械に保存したのです」

「……これまた凄い事を……だが、これが本物なのかどうかどう証明する?さきほどのとは違って音だけでは十分な証拠だと言い難いのだが」

「では、この続きを」


騎士様たちが合流してからの音声も再生させた。その内、彼らの声も出てくるのだから確実な証拠になるだろう。何より彼らが発言したのだから。


「証拠になりますよね?」

「あぁ間違いなくさっきの会話だった」

「教皇が人身売買しているのは間違いないとは思うんですが、王女様を襲ったのは単なる教皇の息子が好きだったからだけなのか、王女様も人身売買の対象だったのか、この情報だけでは言い切れませんよね?」

「どういうことだ」

「子供たちの人身売買は確実なんですけど、王女様に関しては、拉致監禁強姦未遂事件なのか、王女様人身売買事件なのか、それとも両方なのか、3つの可能性があると思うんです」

「自白させれば分かることではないか?」

「確かに自白させれば分かるかも知れないですが、私が腑に落ちないのは、王女様って簡単に拉致出来るものですか?」


この一点に尽きるのだ。


王女に限らず王族ならば、絶対的に護られているはずで、それこそ国一番の警備で護っていなければおかしい。勿論、国王が一番なんだろうし、王女と言えども比べると多少手薄になるのかもしれないけど、それでも簡単に拉致出来るはずがないと思う。だって一人で出歩くなんて事はないはずだから。

治安の良い日本でも、皇族が一人で出歩く事なんてほぼほぼないような気がするし。


「今日、ルミエールは公務で孤児院に慰問で訪れていたんだ。近衛騎士と侍女が一緒に居たのだが、休憩室で一人になった時間を狙われたようなのだ」

「王族の方が王宮の外で公務をしている時、一人になる事があるのですか?」


自室ならともかく、公務の時に一人にするなんて事ないでしょ。狙ってくれと言ってるようなもんじゃん。


「いや、基本はない。ただ今回、侍女はお茶を入れるのに部屋を離れ、入り口で待機していた近衛騎士が司祭に話しかけられたその間に居なくなったとの報告だった。ゲオルグ間違いないか?」

「はっ」

「であれば……その部屋に隠し通路があるか、その騎士が一人になる隙を作り、窓から連れて逃げた……なんて可能性もあるわけですよね?」

「……近衛騎士が裏切ったと?」

「貴様、騎士を愚弄する気かっ」


またかよ。うぜぇな。


「愚弄ではなく。可能性もあると言っただけです。この国の騎士が王家?国王様?に対してどれほどの忠誠を誓っているのかは、異世界から来た私には分かりませんが、人って割と簡単に裏切る生き物じゃないですか?」


忠誠なんて私には理解出来ない。だって自己都合で簡単に裏切るのが人間じゃない。忠誠を誓ったから裏切らない?それこそ全く理解できない。


「……君は何者なのだ?証拠もそうだが……そういう仕事でもしているかのようだね?」


さすがは王子様と言うべきなのだろうか。後ろの男のようキレたりはしないようだ。彼の興味はそこじゃなく、別の部分だったみたい。


「そうですね、依頼を受け調査をし情報を集める仕事をしていたので、これぐらいの事はいつもしてる事だっただけです。それに今回は、仕事をしていた場所からこちらの世界に来ていた事を気付かないままだったので、最終的にこんな事になるとは思いませんでしたが」


探偵社でバイトしていた事がこんな形で役に立つとは予想もしてなかった。


「そうか。だが、やはり訂正して貰いたい。この国の騎士は国王への忠誠を誓っているのでな。それを信じたいと言えば君は笑うだろうのだろうな」

「いえ、そんな風には思ってないです。何も知らない私が簡単に言っていい事じゃなかったのですね。失礼しました」


そんな風に言われてしまうと、こっちも分からないからと言って否定していいはずがない。彼らには彼らの関係性があるのは当然だ。


「あぁ。だが、参考までに聞きたいのだが、君の見解では忠誠を誓っていても裏切る可能性があると言うことなのだろう?その根拠を教えてくれないだろか?」

「憶測での発言なので、無礼があるかもしれないのですみません。先に謝罪をしておきます」

「構わない。続けてくれ」


この人は、忠誠を否定した私を頭から否定するのではなく、信じたいと言った上で、裏切る可能性を聞いているのだ。それは真実を見ようとしているのか、それとも別の何かあるのか分からないけれど、真剣な眼差しで問われて適当に答えたくはないと思った。


「忠誠を誓うと言う概念がそもそも私にはないので、客観的に想像したのですが、例えば国王様とより近しい人間の忠誠は揺るぎないと思うんです。ですが、騎士様たちにも、所属や年齢、経験年数の違いによって、国王様が遠い存在である末端の騎士様とは意味合いが違うと思うんです。もちろん、そこに貴族社会や、政治的派閥……政と言った方が良いですか?まぁそう言ったのも加味されるのであれば、忠誠と言うものが一律ではないのかと思ったからでの発言です」

「……なるほど」

「私の国は貴族も平民もありません。国民は皆平等です。ですが、国を動かす政には、政策の違いや考え方に対しての違いなどから、反対派閥もあり、自分たちが実権を握ろうと、優勢に動くように足を引っ張り合ったりします。それはこの世界でも変わりないのかな?と思ったんです」

「なるほど、だが騎士は政に関してはいないから、その場合の根拠は?」


関していないと言うことは、騎士はあくまでも武力と言ったところだろうか?だけど政に関していないとは言い切れないはずなのだけれど。


「そうですか……であれば状況や優先順位の問題かと」


眉間に皺を寄せるのは、王子様と眼鏡、後は馬に乗せてくれた騎士様だ。




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