精霊の泉と精霊達
『誰?』
『大勢の人間の気配がする』
『そこに誰かいる!』
『誰!』
『誰!』
『誰!』
一行が茂みから出た途端に、一気に警戒したシルフ達が一斉に振り返って問いかけた。
「ああ、驚かせてごめんね。僕だよ。レイルズだよ。クラウディアとニーカとジャスミン、マークとキムもいるよ。それから普通の人だけど、一番後ろにおられるのがロッシェ様とターシャ様だよ」
一番前にいたレイが、慌てたように手を振りながらシルフ達に謝ってから話しかける。
マークとキム、クラウディアとニーカとジャスミンも、同じく慌てたように手を振ってから口々に驚かせた事を謝った。
『主様だ』
『主様だ』
『主様だ』
『我らの友達』
『優しき友達』
『夜更かし夜更かし』
『いけない子達』
『大人がいるよ』
『我らが見えぬのにね』
『変なの』
『変なの』
彼らを確認したシルフ達が、笑いさざめきながらそう言って彼らのすぐ近くにまで飛んできてくるりくるりと周りを飛び回り始めた。
シルフだけでなく、小さな光の球になった光の精霊達も一緒にやって来て周りを飛び始める。
それはまるでターシャ夫人とロッシェ僧侶を品定めしているかのようだった。
「まあ、まあまあまあ。何と素晴らしい光景なんでしょう」
半ば無意識なのだろう。小さな声で、まあを連呼するターシャ夫人の呟きに、ロッシェ僧侶も無言で頷きながら自分の周りをふわりふわりと飛び交う光の球を見て目を見張っている。
しばらく彼女達の周りを飛んでいた光の精霊達は、軽く震えるような仕草をした後、一気に彼女達の体に体当たりしてそのまま二人のお腹の中に消えてしまった。
驚きに声も無い二人の体から、光の玉が出てくる。
『我らが見えぬ者達』
『ただの人の子なり』
『だが悪き気配は無い』
『主様が連れて来た者達なればこそ』
『滞在を良しとしよう』
『なればこそ良しとしよう』
レイの前に集まった光の精霊達は、重々しい口調でそう言ってくるりくるりと彼の周りを飛び回り、また泉の周りへ戻って行ってしまった。
「えっと、今のは……」
戸惑うようにレイが呟くと、後ろにいたクラウディアが笑いながらレイの袖を引っ張った。
「レイ、今の通訳してあげましょうか? ターシャ様とロッシェ様は精霊達が見えない普通の人だけど、悪しき気配は無いし、竜の主が連れて来た人だから、まあここにいても良いよって、そう言ってくれたの」
クラウディアの説明にわかりやすく笑顔になるレイを見て、ジャスミンとニーカ、それからマークとキムも揃って小さく吹き出す。
「まあ、小難しい言葉遣いは光の精霊達がよく言ってるよな」
「そうですね。他の精霊達は普通に喋ってくれるのに、確かに光の精霊達は何となく古い言葉遣いで話すわね」
腕を組んだマークの呟きに、クラウディアが笑って同意するように小さく何度も頷いている。
「じゃあ、精霊達のお許しも出たみたいだから、もっと近くで見ると良いぞ」
キムの言葉に、少女達が歓声を上げて泉に走り寄る。
笑いながら集まって来たシルフ達と手を叩き合い、クラウディアは彼女にキスをする光の精霊達にもキスを返して手を振り、ウィンディーネ達が撒き散らす滴の中に虹を見ては揃って甲高い歓声を上げるのだった。
目の前の泉は、中央に立つ小さいがとても綺麗な女性像があり、その女性像が持つ壺からは絶え間なく細かな水が吹き上がっていて、泉の周囲にキラキラと輝く飛沫を撒き散らしていた。
女性像を中心にした泉の周りは不思議な優しい光に満ちていて、シルフ達は相変わらず楽しそうに手を取り合って、輪になって踊っている。
光を灯した光の精霊達は、あちこちをふわりふわりと飛び廻りシルフ達と時折手を叩き合ったりしていた。
女性像の足元は石造りの円盤状の水盤になっていて、石造りの蓮の花や水草の上に乗るカエルの石像が置かれていた。その周りではウィンディーネ達が楽しそうに、手を叩いたり笑ったりしながらあちこちに水しぶきを吹き上がらせては大はしゃぎしていた。
「ターシャ様やロッシェ様には、ここの泉はどんな風に見えているんですか?」
少し下がったレイが二人の側に来て小さな声でそう尋ねると、泉を見たままのターシャ夫人は小さな声で答えた。
「豆粒ほどの光の球が幾つも幾つも飛び交っていますね。そして時折、泉からとても暖かく優しい風が吹いてきます。水盤からは時折、何故か突然に水面から滴が吹き出して辺りに散り虹を描いていますね。何とも不思議な光景です。明かりは私達が持つランタンだけなの筈なのに、まるでこの泉の周りだけが真昼のように明るいですね。ですがその光も太陽の光よりも目に優しく、いつまでも見ていたくなるような暖かさに満ちています」
「本当に、現実の事とは思えぬほどの美しい光景です」
まるで夢を見ているかのような、美しいその光景から目を離すことが出来ないターシャ夫人は、半ば呆然としつつも夢中になって自分達が見ている光景を説明していた。
「へえ、普通の人にはそんな風に見えるんですね。暖かくて優しい風は、シルフ達が貴女のところへ来て手を振ったり触れたりしているからですよ。ほら、今もまた来ましたよ」
空中を指差して笑うレイを、ターシャ夫人とロッシェ僧侶は感心したように見つめていた
「良かった。お二人の事も精霊達は認めてくれたね」
肩に座るブルーのシルフに笑ったレイがそう言うと、ブルーのシルフは嬉しそうにそのまろやかな頬にキスを贈った。
『何も心配は要らぬ。存分に楽しみ、そして学ぶと良い』
愛おしくて堪らないと言わんばかりのその言葉に、レイも笑顔でそっとキスを返すのだった。




