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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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ガンディの仮説

 興味津々で自分を見ている一同に苦笑いしたガンディは、ピックを抱いたまま、まるで講義の時のように立ち上がって背筋を伸ばした。



「これは、あくまで儂が立てた仮説なんだが、恐らくこいつは地下に棲んでいた幻獣なのではないかと思っておる」

 その言葉に、一同は揃って驚きに目を見開く。

「ええ、地下に棲む幻獣なんているんですか?」

 ジャスミンの言葉に、横で一緒に聞いていたクラウディア達も驚いたように頷いている。

「まあ、そう思った理由は幾つかある。例えばこいつの爪だ」

 抱いていたピックの、前足を掴んで差し出すようにして見せてくれた。そんな事をされてもピックは嫌がりもせずに大人しくしている。

 確かにその爪はよく知る精霊竜の長くて鋭い爪とは違っていて、いかにも土を掘るのに適していそうな、先が少し丸くなった、短い。しかし、とても硬い爪だ。

 ガンディは、愛おしそうに目を細めてその爪をそっと撫でてやる。

「これは、もぐらや土ネズミなど、地下に巣を作る生き物達の爪と同じ構造の爪だ。そして、言ったようにピックは陽の光を酷く嫌がる」

 ガンディの手に額を撫でられて、ピックはご機嫌だ。

「そして、こいつの唯一の食料である針銀水晶(はりぎんすいしょう)、あるいはシリル銀針と呼ばれる希少鉱石。ドワーフから聞いたのだが、それが採れる場所というのはとても少ない。しかし、一度発見されれば、量は少ないがシリル銀針が長い期間に渡って採れるそうだ」

 撫でていた手を止めると、ピックはまるで猫のレイのように、もっと撫でろとばかりにガンディの手に頭を押し付けた。

 笑ったガンディが、また撫で始める。

「シリル銀針の採れる場所は、全て同じ条件らしい。鉱山の地下で、地殻変動などにより偶然に出来た岩盤の隙間などの空間の中で、その壁面に小さな水晶が一面にある場所。その水晶の上にまず擬水晶(ぎすいしょう)と呼ばれるガラス質の結晶が現れ、ある程度の大きさになると成長が止まり、そこから一晩であの細い銀の針が出て来るらしい。しかも銀の針も成長するのは一晩だけで、それ以上は育たない。なので、そうなってからその擬水晶ごと収穫するのだそうだ。しかも、通常の結晶と違い、擬水晶は数ヶ月程度でそれなりの大きさになり針を作り始める。一つの結晶体が完成するまで半年も掛からん。その地下の空間ではそのようにして、数個から多くとも十数個程度の擬水晶が一つの空間の中で途切れる事なく順番に出来るのだとか」

「へえ、面白い」

 今では宝石や鉱石にもかなり詳しくなったレイが、感心したように呟く。

「ピックは月に一度程度しかシリル銀針を食わん。しかも、食っても数個程度。それならばシリル銀針が出来上がって食っても無くならぬ程度だ。それでこいつは本来、地下の、その針銀水晶が出来る空間に棲みついて、出来たシリル銀針を食べて暮らしているのではないかと考えた訳だ。それならば陽の光を嫌がる理由にもなる。な、辻褄は合うであろう?」

 笑ったガンディの言葉に、皆頷いた。確かに一理ある。

「ああ、確かに勝手に食いもんになる結晶が定期的に出てきてくれる場所があるのなら、そこに棲むのが一番手っ取り早いですよね。しかも外敵からの侵入が限られる地下空間なら、ほぼ安全確実でしょうからね」

 納得したようなカウリの言葉に、レイも頷く。しかし、何か引っかかってレイは考えた。

 そしてある疑問点を思いつく。



「あれ? ねえガンディ、ちょっと質問なんですけど良いですか?」

「おう、何じゃ?」

「えっとね。もしもピックの棲家が、ガンディが考えている通りの地下空間なのだとしたら、逆に疑問なんだけど、ピックは、どうやってその密猟者に捕まったんだろうね?」

「あ、確かに……」

 ジャスミンがそう呟き、クラウディア達も顔を見合わせた。

「儂もそれは思った。それで、ドワーフギルドの知り合いに色々と質問して答えを得た。まず、竜の背山脈の地下と言うのは、我々は知らぬが、ドワーフ達に取っては宝の山らしい。地下の鉱石や宝石の含有量は世界中の鉱山の中でも群を抜いておるらしい」

 その言葉に、ブルーのシルフが頷いているのを見て、レイは目を瞬く。

「えっと、そんな場所にどうやって地下までの坑道を掘ったんだろうね。ギードに以前聞いた時に教えてもらったんだけど、地下の鉱山って、真ん中に大きな竪穴と呼ばれる穴を掘って、その壁面に横向に穴を掘るんだって、それが坑道。つまり宝石や鉱石を掘り出して採掘する場所なんだって。だから、鉱山の中心になる、最初の縦穴を掘るのはそりゃあ大変なんだって言ってた」

「おお、さすがによく知っておるの。もちろん、簡単な事では無いぞ」

 満足気に頷いたガンディは、ピックを抱き直した。

「元々、その竜の背山脈の縦穴というのは、それこそ千年以上前の巨人達が掘った鉱山の跡なのだとか。大勢のドワーフ達がそこで採掘をしておるそうじゃ」

 感心するような一同に、ガンディは大きく頷く。

「しかし、古い故に廃棄された坑道も多いのだとか。中には、そう言った廃棄された坑道に勝手に入り込んで採掘しようとする者が、ごく稀にだがいるらしい」



 ガンディが何を言いたいのか理解したカウリが、嫌そうに顔をしかめる。



「つまり、廃棄された坑道の奥で盗掘していた奴が、偶然シリル銀針のある地下空間を見つけ、そこにいたピックを捕まえた?」

「恐らくそれが正解であろうと考えている。とにかく、こいつは警戒心というものをほとんど知らぬ。初めて見る人に全く警戒せずに近寄り、撫でてもらったり抱いてもらったりするのが好きなんじゃ。どうだ? もしもそう言った奴に見つかれば、容易に袋詰めされて持ち出されるだろうな。特に発見当時、ピックは猫程度の大きさしかなかったのだからな」

「うわあ最悪だな、それ。地下で見つけた。どう見ても初めて見る猫っぽい不思議な生き物。しかも人懐っこい。こっそり連れ出して密猟者に売り付けよう! で、買い取った密猟者は、珍しそうな生き物だから、物好きな貴族か研究者にでも売りつけてやれ! って感じっすかね?」

「まさにその通りだ。ピックは、密猟者の隠し倉庫の奥で、狭い檻に閉じ込められていた所を発見されたんじゃよ」

 ガンディの言葉を聞いたクラウディアとニーカ、それからジャスミンの三人は、それぞれその場で精霊王へ祈りを捧げた。



 幼かったピックを助けてくださって感謝します。と。



「良かったねピック。助けてくださった全ての方に感謝しないとね」

 レイがそう言って、嬉しそうに手を伸ばしてピックを撫でる。

「ウックルキュー!」

 嬉しそうに目を細めたピックは、レイの手に頭を擦り付けて、もっと撫でろと要求するのだった。

『我の主に馴れ馴れしくするでない!』

 突然現れたブルーのシルフに頭を押しやられて、ピックは怒ったようにブルーのシルフに鼻息荒く文句を言った。

「ピキー! ギュルルルルグキュクー!」

「こらピック、喧嘩しないの」

 笑ったレイはそう言って手を引き、ブルーのシルフにキスを贈った。

「ブルーもそんなに拗ねないでよ。大丈夫だよ、僕の一番はブルーだからさ」

『ほう、今そんな事を言って良いのか? 愛しい巫女殿が拗ねたら何とする?』

 笑ったブルーのシルフの言葉に、レイは耳まで真っ赤になって座っていたソファーから転がり落ちた。

 タドラとジャスミンとニーカは、その言葉に堪えきれずに吹き出し、クラウディアもまた、耳まで真っ赤になって、悲鳴を上げてニーカの背中に縋り付いたのだった。


『仲良し仲良し』

『大好き大好き』

『主様の一番はだあれ?』


 大喜びで笑いさざめくシルフ達の言葉に、タドラが急いで通訳してくれたおかげで、今の話を理解したクローディアとアミディアも吹き出し、部屋はいつまでも優しい笑いに包まれたのだった。

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