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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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ガンディの竜

 食事の後は、皆でクローディアとアミディアが世話をしている温室へ行って、今まさに満開の花を楽しんだ。

 去年見たよりも更に大きな大輪の花々に、ニーカは大喜びで歓声を上げてアミディアと二人で走り回り、あちこちの花に顔を近付けて香りを楽しんだりしていた。

 時折、大きな花の中から驚かせるようにシルフ達が飛び出して来て、その度にニーカは声を上げて大喜びで笑っていた。

「去年は大変な思いをしたけど、今年は楽しそうで良かったね」

 アミディアと一緒に大はしゃぎしているニーカを見て、レイは小さな声でそう呟いた。

「そうだね。本当にその通りだ。今年は皆、良い事ばっかりになるといいね」

 タドラの声に、レイも笑顔で何度も頷くのだった。



 その後、新しく飼ったのだと言う犬のピスティを紹介してもらった。

 長い毛をなびかせて広い庭を走り回る大きな犬は、一番小さなアミディアならば背中に乗せてもらえそうだ。

 来てすぐの頃は悪戯ばかりで大変だったそうだが、訓練の成果がようやく出て来たらしく最近では見違えるように大人しくなり、驚くほど落ち着いて来たのだと聞いて皆で感心した。

「へえ、軍用犬は見た事があるけど、あれはもっと短い毛だよね。こんなに長い毛の犬は初めて見ます」

 嬉しそうに犬を撫でるレイに、クローディアは嬉しそうだ。

「遠乗りに行く時には、この子も連れて行きます」

 その言葉に、遠乗りに行こうと約束していたのに、まだ行けていなかった事を思い出した。

 慌てるレイに、クローディアは笑って首を振る。

「この時期は、毎年お忙しいのは分かっております。それでなくとも、今年は殿下の御成婚がありますから、遠乗りに行けるのは、きっと秋の紅葉の頃ですね。ハートダウンヒルの辺りは、秋の紅葉も見事なんですよ」

 確かに、落葉樹がたくさんあったから秋には綺麗に紅葉するのだろう。

「じゃあ、その頃かな。楽しみにしていますね」

 レイの言葉にクローディアも笑顔で頷いた。




 少し休憩してから、皆で白の塔にあるガンディの家へ行く事にした。

 既に、シルフを飛ばして今から伺う事は連絡済みだ。

 少女達はヴィゴが出してくれた馬車に乗り込み、レイ達は護衛の者達と共にラプトルに乗って向かった。

 馬車の中からは、賑やかなお喋りの声と笑い声が目的地に到着するまで途切れる事が無かった。

 シルフ達は、大喜びで馬車の周りを飛び回り一緒にガンディの家までずっと離れずについて来ている。



 到着したのは、去年も来た、白の塔の敷地内に立つ三階建ての石造りの大きな建物だ。

「あの高い塔がガンディの住んでいる所だよ。ピックもそこにいるんだ」

 レイの説明に、ジャスミンは目を輝かせて塔を見上げた。隣では、カウリも嬉しそうに塔を見上げている。


『よく来たな。さあ、どうぞ上がって来てくれ』


 目の前に現れたシルフからガンディの声が聞こえる。

「大人数で押し掛けてごめんなさい、あ、違った。申し訳ありません」

 レイの大真面目なその言葉にガンディの笑う声が聞こえた。

 その時、誰も触れていないのに右側の扉がゆっくりと開いた。


『まあ、中で話そう。構わんから護衛の方々も一緒に入られよ』


 その言葉に笑顔で頷き合い、ヴィゴを先頭にレイ達が続き、護衛の者達も全員がその後に続いた。



 螺旋階段を延々と登り、ようやく到着した広い部屋は相変わらずの惨状だった。

 しかし、奥側半分、つまり机と椅子が置いてある辺りは、本の山は端に寄せられていて広い空間が確保されている。恐らく、大人数で押しかけると言ったので、気を使って片付けてくれたのだろう。

 レイは、周りにいるシルフに話しかけた。

「ねえ、あれってもしかしてガンディが片付けてくれたの?」

 忙しいと聞いていたのに申し訳ない事をしたと思っていると、シルフ達はいっせいに笑い出した。


『あれはついさっき私達がまとめて端に寄せたの』

『座るところが無いって困ってた』

『困ってた困ってた』

『だから私達がああしてあげると大喜びだったの』

『喜んだんだよ』

『喜んだんだよ』


 口々に得意気に話すシルフ達の言葉に、彼女の声が聞こえる者達は揃って吹き出した。

「どうなさったんですか?」

 クローディアとアミディアが不思議そうにしていたので、レイが教えてあげようと口を開きかけた瞬間、いきなりテーブルの下からピックが飛び出して来て、ものすごい勢いでこっちに向かって飛びついて来た。

「ピキィ! ピルルルルリリルラピイ!」

 大喜びで(さえず)るピックは、ちょうど背中を向けていたカウリの頭に思いっきり激突した。

「どわあ、何だ何だ!?」

 咄嗟に頭を庇うようにしてしゃがんだカウリの頭に後ろからしがみついたピックは、クラウディアに気が付き、目を輝かせてそちらに飛び移った。

「ピピイ!ピルルルルルピッポプー!」

 しかも、その瞬間に後ろ足で思い切りカウリの後頭部を蹴っ飛ばして、そのままの勢いでクラウディアの胸元に飛び込んだ。

「ピックは可愛い〜!」

 満面の笑みのクラウディアは、いきなり飛びついて来たピックを抱きとめてそう叫ぶと、思いっきり抱きしめた。

 床に倒れ込んで蹴られた頭を抱えて悶絶しているカウリを見て、レイとタドラは堪える間もなく揃って吹き出す。

「ちょっ。今の何? 俺、何に蹴られたんだ?」

 いきなり起き上がったカウリが周りを見回しながらそう叫び、少女達も揃って吹き出した。

「ねえ、ディア、私にも抱かせて!」

 嬉しそうなジャスミンの言葉に、笑顔のクラウディアがピックを渡す。

「ピッピポ〜!ピルルルルルグルッポー!」

 これまた奇妙な鳴き声を上げて、ジャスミンの胸元に飛び込んでいく。

「何この子、可愛い〜!」

 満面の笑みのジャスミンがそう叫んだ時、目の前にシルフが現れてピックの尻尾を引っ張った。


『嫌ですジャスミン』

『そいつから離れて!』


 ムッとした愛しい竜の使いのシルフの言葉に、ジャスミンが驚いて手を離す。

「ピピイ!」

 転がり落ちたピックが、怒ったようにジャスミンの足に頭突きをする。


『駄目! ジャスミンは私の大事な主なんです!』


 そう言ってピックの頭を押さえつけるシルフに、ピックは不満タラタラだ。

「ウキュウ! プクルルルピキュリルピピポー」

 足をダンダンと踏み鳴らした後、周りを見回して、今度は笑って両手を広げるアミディアに突進した。

 歓声を上げて抱きしめるアミディアを、自分の竜に嫉妬されてしまって抱けない者達が、揃って苦笑いしながらその様子を見ていたのだった。


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