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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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夜会の終了と花祭り七日目の朝練

「今夜は本当にありがとうございました。すごく勉強になったし、興味深かったです」

 実質、お菓子の勉強会と試食会だった後援会の夜会を終えたレイは、お土産のチョコレートの詰め合わせまで貰ってすっかりご機嫌だ。

 まずは先に戻るマティルダ様を見送り、他の参加者達にもお礼を言って、全員解散したのを見届けてから、迎えに来てくれていたラスティと一緒に、本部へ戻った。

「ええと、戻ったらお礼のカードとお花だね、頑張ってカードにサインをしないと」

 渡り廊下を歩きながらレイが胸を張ってそう言うのを聞き、今まさにその話をしようとしていたラスティは、笑顔で頷いた。

「カードはご用意してありますから、明日にでもサインを願い致します」

「うわあ、全部書こうと思ったら大変だね。でも頑張って書きます。すごく楽しかったんだよ」

 満面の笑みのレイは、部屋に戻った後も、着替えをしながらずっと喋り続けていたのだった。



 その夜はもう遅かったので、湯を使って早々にベッドに潜り込んだ。

「おやすみなさい。明日も貴方に蒼竜様の守りがありますように」

 そう言って額にキスをくれたラスティに、レイも笑ってキスを返した。

「おやすみなさい。明日もラスティにブルーの守りがありますように」

 顔を見合わせて笑い合ってから、ラスティがランプの火を落として部屋を出て行った。

「はあ、今日はなんだか疲れました」

 天井に向かってそう呟く。

「だから、星の観察は明日にします!」

 そう言って、枕に抱きついてうつ伏せになる。

「お休み、ブルー……シルフ、明日もいつもの時間に、起こしてね。僕は、朝練に、いく、よ……」

 枕に顔を埋めてそう呟いたきり静かになる。

 一人での夜会への参加は、楽しんでいるように見えたが、やはり相当気疲れしていたようだ。

『おやすみ。良い夢を』

 そっと肩を押して体を起こしてやり、横向きにさせてやる。

 シルフ達が、ずり落ちた毛布を掛け直してくれた。

 静かな寝息を立てるレイの頬や額に、代わる代わるシルフ達は何度もキスを贈るのだった。




 翌朝、いつもの時間にシルフ達に起こしてもらったレイは、横になったまま大きな欠伸をした。

「おはよう、今日のお天気は?」

『おはよう。今は少し雲が出ているが、午前中にはすっかり晴れて、後は一日良いお天気になるぞ」

「そうなんだね。えっと、今日の予定はどうなってるんだろうね?」

 確か、昨日ラスティから何も言われなかったのを思い出し、ちょっと首を傾げる。

「まあ良いや。じゃあ顔を洗ってくるね」

 前髪を引っ張って遊んでいるシルフに手を振り、ベッドから起き上がったレイは、洗面所へ向かった。

 ノックの音がしてラスティが入ってきた。空っぽのベッドに驚いた顔をしたが、すぐに洗面所の扉が少し開いていて中から水音がしているのに気付き、小さく笑って窓のカーテンを開いた。

「あ、おはようございます」

「おはようございます。ベッドにいらっしゃらないから驚きましたよ」

 白服を取り出すラスティを見て、レイは得意気に胸を張る。

「シルフ達が起こしてくれたんだよ。すぐに目が覚めたから、顔を洗ってきたの」

 笑顔で頷き、まだ少し跳ねている後頭部を突っついてやる。

「レイルズ様、見えていないようですから申し上げますが、ここ、寝癖が残っていますよ」

 悲鳴を上げて洗面所に走るレイの後を追って、ラスティも洗面所に向かった。



 何とか頑固な寝癖を直してもらい、大急ぎで白服に着替える。

「おおい、置いて行くぞ」

 扉をノックしたルークの声が聞こえて、レイは首元の紐を結びながら大きな声で返事をした。

 今日は、朝練の参加はルークだけのようだ。

「おはようございます。あれ、ルークだけですか?」

「カウリは、昨日から一の郭の屋敷に帰ってるよ。明日には戻ってくるんだってさ」

「この間も帰ってたのに、また帰ったんですね。仲が良くて良いなあ」

 無邪気なレイの言葉に、ルークはカウリがせっせと一の郭の屋敷に戻っている理由を言いかけてやめた。

 これは本人の口から知らせるべきだろう。

「ロベリオ達も、実家だしな、タドラとヴィゴは、一日挨拶回りらしいよ」

「大変なんだね」

「さて、レイルズ君はいつになるのかなあ?」

 からかうように言ってやると、いきなり真っ赤になったレイが悲鳴を上げて走って逃げて行った。

「こら、廊下は走るな!」

 笑ってそう言い、ルークもその後を追いかけて訓練所へ向かうのだった。



 花祭り期間中は、マーク達のように通常の担当とは違う部署に応援に行っている兵士も多い。その為、朝練の参加者もいつもより少なめだ。

 見回したが、マークやキムは今日は参加していないようだ。

 気にせずしっかり柔軟体操をして身体を解してから、一般兵と一緒に走り込みを行った。その後は、来てくれたキルートとルークに交代で手合わせをしてもらい、しっかりと汗を流した。

 新しい大きめの木剣も、すっかり手に馴染んで使えるようになった。

 元気一杯で、朝練を終えたレイは、ルークと一緒に部屋に戻った。

「えっと、今日の予定ってどうなってるんですか?」

 部屋の前でふと思い出して聞いてみた。

「ああ、今日はゆっくりしていてくれて良いぞ。夜会続きでお疲れだろう?」

 からかうようなルークの言葉に、レイは苦笑いして頷いた。

 まあ確かに、疲れていないと言ったら嘘になるだろう。

「明日は花撒きとヴィゴの屋敷へ行くだろう。明後日は、お前は奥殿に呼ばれているからな」

 うっかり頷きかけて、レイは慌ててルークの腕を掴んだ。

「え、待ってください!奥殿って……奥殿?」

 やや意味不明の質問だが、言いたい事はしっかりと伝わっていたようだ。

「そ、奥殿からのご指名です。可愛いレイルズ君と一緒にお菓子を食べたいとの仰せだよ」

「マティルダ様?」

「マティルダ様とサマンサ様からの連名でのご指名だからな。これを断れる勇者を俺は知らないよ」

「うわあ、今年は何を聞かれるんだろう。花束は取れなかったのに……あ、これって、言っても良いですか?」

 花束の件は、当然だが陛下もマティルダ様もご存知だ。

 最悪何か言われる可能性も無いわけではないが、陛下が、二人の付き合いに今更反対するとは思えない。

 止めるなら、もっと早くに裏からなんらかの手を打っている筈だ。しかし特に何も言われず、黙って見守ってくれているという事は、ほぼ認めてくれている状態だと思って良い。

「ああ、大丈夫だよ。まあせいぜい揶揄(からか)われて来い」

 完全に面白がっているルークの言葉に、レイは悲鳴を上げて顔を覆って膝から崩れ落ち、ちょうど出てきたラスティを驚かせたのだった。

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