ただいま戻りました!
「ううん。やっぱりニコスのお弁当は美味しいね」
分厚い燻製肉を挟んだパンをあっという間に平らげたレイが、二つ目の生ハムがたっぷりと挟まれたパンの包みを開けながら嬉しそうに笑う。
もちろん、肉だけでなくそれぞれのパンには酢漬けのキャベツやパリパリのレタス、薄く切ったトマトや硬めのチーズなども挟まれていて具沢山だ。
「確かに美味しいな。これは皆が絶賛するわけだ」
こちらもすでに二個目を食べ始めている陛下が、何度も頷きながらそう言って笑う。
「この、中に入っている燻製肉も生ハムも、それからチーズも全て手作りなんです。冬場には、僕もチーズ作りを手伝いましたよ」
得意げなレイの説明に陛下が驚き興味を示された為、ここから燻製肉や生ハムをどうやって作るのかや、牛や羊の乳からどうやってチーズが作られるのか。そして、陛下が初めて見たと言う黒パンがどういうものなのかを、レイが、時折ブルーに助けてもらいつつひたすら説明する事になったのだった。
「成る程なあ。確かに口に入るもの全てが、そうやって手間暇をかけて誰かが作ってくれているからこそ、何もしない我らでも食べられているのだな。感謝せねばならぬな」
半分ほど残った食べかけのパンを見ながら、陛下がしみじみとそう呟く。
「それを知っていただけただけでも、来ていただいた値打ちがありますね」
嬉しそうなレイの言葉に、陛下も笑顔で頷いていたのだった。
昼食を食べ終え、食後のカナエ草のお茶も飲み終えたところで撤収してその場を離れた。
「アルスにここの事を伝えたら、羨ましがられるだろうな」
石切場の上空を旋回しながら、陛下が下を見ながらそう呟いて笑う。
「この場所はもう覚えた。まあ、機会があればアルスも連れてきてやるとしよう」
「アルスにその機会が来る事を、祈っておくとしよう」
「そうだな。機会があれば……だな」
面白がるような陛下の言葉に笑って目を細めたルビーが、同じくらいに面白がるようにそう言ってゆっくりと喉を鳴らしたのだった。
「えっと、来る時は時間差で順番に出発したけど、帰る時は一緒でいいんですか?」
街道からかなり北側に離れた森の上空を飛びながら、不意に思いついたレイがルークにそう尋ねる。
「ああ、お前はラピスと一緒に先に戻って西の離宮へ姿を隠して降りてくれるか。少し時間を置いて日が暮れてから、俺とヴィゴが陛下と一緒にこれもこっそり西の離宮に降りるよ。その後、そのまま全員西の離宮に一泊して、翌朝、陛下には先に城へお戻りいただくんだ。これで、精霊魔法の研究の為に西の離宮にこもっていた俺達と、陛下は別行動していたように見えるからね」
「了解です。じゃあ僕も、ルーク達と一緒に西の離宮に研究の為におこもりしていた事になるんですね」
「そうそう。まあこの後の夜会なんかで、ここ数日姿が見えなかったけどどうなさったんですかって聞かれても、離宮に研究の為にこもっていたんだって。そう答えておけばいいよ」
「分りました。じゃあ、何か聞かれたらそう言っておきます」
笑ったレイの嬉しそうな言葉に、ルークも笑いながら頷いていたのだった。
そのままオルダムを目指して森の上空を飛び続け、そろそろ西の空が赤く染まり始めたところで一旦上空で一行が止まる。
「うむ、では我とレイは先に帰るとしようか」
笑ったブルーは、そう言って大きく翼を広げると一気に加速していった。
「うわあ、速いね!」
今までのんびりと飛んでいたので、一気に加速したところでレイが嬉しそうな声を上げる。
「こんな事も出来るぞ!」
得意げな声と同時にさらに加速していき、巨大なブルーの体が大きく空中で弧を描くように一回転する。
突然の曲芸飛行に驚いたレイの悲鳴と笑い声が、暮れかけた空に大きく響いたのだった。
「ああ、篝火を炊いてくれているね。じゃあ、庭に降りればいいのかな?」
真っ暗な中を明かりも灯さずに飛び、西の離宮上空に到着したレイが嬉しそうにそう言って下を見る。
「そうだな。ではゆっくり降りるとしよう。到着した事はあらかじめ知らせてある故、突然降りても驚かれる事もあるまい」
笑ったブルーの言葉に納得する。
そのままゆっくりと庭まで降りたところで、こっちに向かって笑顔で手を振っているマイリーとカウリ、それからティミーの姿が見えて驚き、慌ててブルーの背から飛び降りて地面に立つ。
「レイルズ様。おかえりなさい!」
笑ったティミーがそう言って駆け寄ってくる。マイリーとカウリもそれに続いた。
「はい、ただいま戻りました。えっと、何かあったんですか?」
西の離宮に彼らがいる理由が分からず、ちょっと心配そうにそう尋ねる。
「何って、出迎えにきたからに決まっているだろうが。ちなみに俺達は、昨日からここに泊まり込んでひたすら陣取り盤をやっていたぞ」
呆れたようなカウリの言葉に思わず吹き出す。その隣では、マイリーとティミーも笑いながら何度も頷いている。
「そっか、僕じゃあなくて陛下のお出迎えだね」
「そういう事。若竜三人組もそろそろ来るはずだから。今夜はこっちに全員集合だな」
「陛下も含めて、今夜はこっちに泊まるって聞きました」
納得したレイの言葉に、カウリがにんまりと笑う。
「おう、確かにこの後の予定はそう聞いているよ。ちなみに誰かさん達がいなかったこの三日間、俺達は本当に交代で西の離宮に泊まっていたんだぞ」
「まあ、研究はそこそこで、どちらかというと本読みと陣取り盤ばかりだったけどな」
カウリの言葉に続き、笑ったマイリーがそう言ってティミーの頭を撫でる。
「マイリー様と一緒に、対ニコス戦の攻め方の研究をしていたんです。なかなかに有意義な時間でしたよ」
得意そうなティミーの言葉に、レイは思わず吹き出したのだった。




