巨人族の石切り場
「あれ? オルダムのある東じゃあなくて、どうして竜の背山脈の方へに向かっているの?」
石の家を出発した一行だったが、ブルーを先頭にして真っ直ぐに向かった先は、何故かオルダムのある東の方角ではなく竜の背山脈のある北側だったのだ。
それに気付いたレイが、不思議そうに下を見ながらブルーにそう尋ねる。
「間違っておる訳ではないから安心しなさい。せっかくの機会なので、皇王にとある遺跡を見せてやろうと思ってな」
「とある遺跡って? えっと、でも以前も行った巨人の丘や円形の天文台とは方向が違うよね?」
下を見下ろしながらの不思議そうなその言葉に、笑ったブルーが長い首をもたげてレイを見た。
「其方も初めて行く場所だな。今から行くのは、昔の巨人族が使っていた石切り場だよ。今、レイが言った巨人の丘の遺跡にあった建物の幾つかは、その石切り場から切り出された石で作られたものだ。まあ、もう今となってはただの石切り跡だが、それでも巨人族の時代の遺跡だ。価値のあるものには違いない。せっかくなので、ルビーにも場所を教えておこうと思ってな」
笑ったブルーの言葉に、その後ろを飛んでいたルビーが大きく喉を鳴らした。
「感謝する。守護竜などと言っても、我は基本的にほぼオルダムから離れられぬからな。もちろん国境地域での紛争の際には出動するが、あとは我が主殿が、皇族の役目として各街へ巡行する際に共について行く程度。それ以外の場所はほぼ知らぬと言っても過言ではない。ラピスのおかげで、行った事のない様々な場所を知る事が出来て、嬉しいし有り難く思っておるぞ」
「そうなんですね。ブルーの知識がお役に立っているのなら僕も嬉しいです」
それらの知識がどれだけ貴重なものであるのか分かっていない無邪気なその言葉に、一緒に聞いていたルークとヴィゴは苦笑いしていたのだった。
「ああ、もしかしてあれ? 凄い! 本当に石切り場だ。あそこだけ木が無いね」
しばらくして見えてきたその光景に先頭を飛んでいたレイが最初に気付き、驚きの声を上げる。
見えてきた山の谷間に近い部分は、確かにそこだけ全く木の生えていない箇所があり、幾つもの巨大な岩が剥き出しになっていたのだ。
明らかに人の手が加わったと思しきその光景に、ルークとヴィゴも驚きの声を上げていた。
「これは見事だ。しかもどれだけ大きいのだ」
驚く陛下の声に、レイも納得する。
確かに、この上空から見てあれだけの広さがあるという事は、相当に巨大な遺跡だ。
「木の生えていない白っぽく見える地面は全て砂で、しかも流砂になっている。なので人の子が降りると足を取られて動けなく危険があるから、降りるなら石の上だな。あの右側にある黒っぽい大岩は、しっかりしておるので我らが降りても大丈夫だ。周囲に点在している白い石は、柔らかい石なので上に降りぬようにな。我らの体重ならば、白い石は割れる危険があるぞ」
上空を旋回していたブルーの説明に、納得した竜達が首をもたげて下を見る。
「了解だ。ではあの一番大きな黒い岩の上に降りれば良いのだな」
大きく翼を広げたルビーが、そう言って上部が平らになった黒い岩に向かってゆっくりと後下していく。
ブルーも、その大きな黒い岩に向かってゆっくりと降りていった。
ルークの乗るオパールと、ヴィゴの乗るガーネットもそれに続く。
驚いた事に、四頭の竜が全員降りてもその巨大な黒い岩はまだまだ余裕がある。
「うへえ。どれだけ大きいんだって。近くで見ると大き過ぎて、逆にこれが一枚の岩だなんて実感が全く無いな」
オパールの背から降りてきたルークが、足元の岩を見ながら驚きの声を上げる。
「ここは、巨人族が一番大きかった最盛期の時代に使われていた石切り場だ。その当時としては、それほど大きいという訳でなかっただろうな。まあ、もう今の時代にはこれほどの巨大な一枚岩は逆に貴重だ。地上からは来ることが出来ぬ場所ゆえ、今まで残っていたのだよ。まあ、こういう遺跡もあると知っていてくれればそれでいいさ」
面白がるようなブルーの説明に陛下とルークとヴィゴは小さく頷きつつ、呆然と眼下に広がる光景を見ていたのだった。
「えっと、じゃあせっかくだからここで食事にしますか?」
笑ったレイが、ニコスのお弁当の入った包みを抱えてブルーの背中から飛び降りる。
当然、シルフ達が守っているので軽々と岩の上に降り立つ。
「そうだな。せっかくの絶景だ。ここでいただくとしようか」
笑った陛下の言葉にルークとヴィゴも笑いながら頷き、手持ちの道具入れからヤカンとお茶の道具を一式持ってくる。
「ふむ、かまどに使えそうな石が……全く無いな。シルフ、かまどに使えそうな石を下から幾つか拾ってきてくれるか」
周囲を見回したヴィゴが、困ったようにそう言って集まってきていたシルフ達を見上げる。
確かに、岩の上は平らで石が全く落ちていない。おそらく、全て風で吹き飛ばされてしまったのだろう。
『はあい』
『待っててね〜〜』
『かまどの石なんだって』
『これくらいかな〜〜?』
得意そうにそう言ってくるりと回って消えていったシルフ達が、次々に大きめの石を拾ってきてくれる。
「ああ、ありがとう。これだけあれば大丈夫そうだな」
笑ったヴィゴの言葉に、得意そうなシルフ達が石を足元に置いていく。
ルークも手伝って石を組み合わせ、即席のかまどでお湯を沸かし始めた。
陛下は、そんな彼らのする事を興味津々で見つめている。
レイは、ルーク達から少し離れたところに持ってきた大きめの敷布を広げて敷いた。
これは、道具入れに入っていたものだ。
余った石をもらい、敷布の四隅に置いておく。
上空では分からなかったが、岩の上は意外に風が強い。敷布が飛ばされないための対策だ。
しかし、それでも急に吹いてきた突風のせいで敷布が飛ばされそうになり、慌てて押さえた。
『では我らが押さえておきますぞ』
『ここの風は風の通り道に吹く風ですので』
『シルフ達も無意識に吹かせております』
『無理に止めるのは可哀想ですからな』
笑ったノーム達が現れてレイが押さえていた敷布の四隅に座ってくれた。それだけで、風にはためいていた敷布がぴたりと岩に張り付き安定する。
「ありがとうね。じゃあ、お弁当も風で転がっていったら大変だから手渡しだね」
それを見て笑顔でお礼を言ったレイは、お弁当の入った包みはしっかりと手に持ち、道具入れから自分のカップを取り出してルークに渡す。
カナエ草のお茶が準備出来たところでそれぞれ敷布に座り、レイがお弁当を配った。
「これが美味しいと噂のニコスのお弁当か。では、いただくとしよう」
嬉しそうな陛下がそう言って、腕を組んで食前の祈りを捧げる。
それを見たレイ達も、笑顔で手を組んでしっかりと食前の祈りを捧げてからそれぞれのお弁当の包みを開けたのだった。




