それじゃあね!
「お待たせ。じゃあ順番に取り付けていくね」
遠征用の制服に着替え、木箱を積み上げた台車を押した執事達と一緒に上がってきたレイの元気な声に、ブルーをはじめとする竜達は目を細めてゆっくりと喉を鳴らす。
シルカー伯爵をはじめ執事達や護衛の者達、農作業に出ていたロディナの人達も全員が見送りの為に草原に上がってきている。
「シルカー伯、世話になったな」
「はっ、少しでもお役に立てましたなら望外の喜びにございます」
シヴァ将軍の横に並んだシルカー伯爵は、笑顔の陛下に話しかけられて直立している。
「なかなかに楽しい時間を過ごさせてもらった。帰りたくないと思うくらいにな」
笑った陛下の言葉に、直立したままのシルカー伯爵は大感激していたのだった。
「シヴァにも、久し振りに会えて嬉しかったぞ」
「私も、嬉しゅうございました」
お互いの腕をバンバンと叩きながら笑顔で頷き合っている陛下とシヴァ将軍を、タキス達は苦笑いしながら見ていたのだった。
「じゃあ、これが最後だね。シルフ達、お願い」
ブルーの背に上がったレイの言葉に、笑って頷いたシルフ達が木箱をゆっくりと持ち上げてブルーの背の上まで運んでくれる。
一緒に背の上に上がっていたルークが手伝ってくれて、手早く木箱をベルトの金具に取り付けていく。
準備が出来たところで、ルークと共に一旦地面に降りると、それを見て少し離れたところに控えていたタキス達が駆け寄ってくる。
「レイ、いよいよ出発ですね」
目を潤ませたタキスの言葉にレイも不意に湧き上がってきた涙をグッと飲み込んで、両手を広げてタキスに抱きついた。
「うん。僕、オルダムで頑張るから……頑張るから、タキス達はここで見ていてね」
「ええ、泣き言ならいつでも聞いてあげますから、遠慮なくシルフを飛ばしてくれていいですよ。もちろん、医学関係の質問も、いつでも受け付けますからね」
「うん、うん……その時はよろしくね」
笑ったタキスの言葉に半泣きになりながらも、なんとか笑ってそう答える。
「レイ、しっかりやるんだぞ。愚痴でも相談でも、いつでも遠慮なくシルフを飛ばしてくれていいんだからな。俺は、いつだってレイの声が聞きたいよ」
タキスから手を離したところで、笑顔のニコスにそう言われてもう一度両手を広げてニコスに抱きつく。
「うん、うん……そうだね。その時はよろしくね……」
ここで我慢していた涙が、とうとう堪えきれなくなってポロポロとレイの頬を転がり落ちていく。
「レイ、もうワシは心配しておらんよ。お前さんは、ワシが思った以上にオルダムの地でしっかりと頑張っておる。逆に、無理しておらぬか心配になるくらいだ。よいな。程々に息抜きもするんじゃぞ。頑張りすぎは禁物だからな」
笑ったギードにそう言われて、レイは泣きながらギードに抱きついた。
背こそ低いががっしりとした体が、遥かに大きいはずのレイの体をしっかりと受け止めてくれる。
「うん、うん……」
「よく遊び、よく学べ。だぞ。どちらかだけでは駄目だからな」
「うん……うん……」
笑ってそう言いながらポンポンと背中を叩かれたレイはそのまま膝をついてしまい、何度も頷きながらただただじっとギードにしがみついていたのだった。
「はあ、ごめんね。みっともないところを見られちゃった」
しばらくして涙が止まったところで、顔を上げたレイが少し恥ずかしそうにそう言って立ち上がる。
「何も恥ずかしがる事などないし、みっともなくもないよ」
笑ったギードがそう言って、少し屈んでレイの膝を軽く叩いた。
ウィンディーネが二人現れて、地面に膝をついた為に少し汚れていた部分をすぐに綺麗にしてくれた。
「ええ、凄い。水球じゃあなくてウィンディーネが直接綺麗にしてくれたよ」
驚くレイに、ギードが笑いながら胸を張る。
「これは洗浄の術の最上位の技だよ。なに、其方もすぐに出来るようになるさ。なんなら蒼竜様に教えていただくといい。これが出来ると色々と楽だぞ」
得意そうにそう言ったギードの言葉に、無言になったレイがブルーを見上げる。
「ドワーフが使ったそれなら、もちろん我も使えるぞ。そうか。これは教えておらなんだな。では、オルダムに戻ったら扱い方を教えてやる故やってみるといい。レイならすぐに扱えるようになるだろう」
「うん、よろしくお願いします!」
嬉しそうなレイの言葉に、ルークやヴィゴだけでなく陛下までが呆気に取られたように彼らの会話を聞いていたのだった。
「じゃあ、レイ。これが全員分のお弁当だよ」
ニコスから手渡された大きな包みを受け取り、レイが満面の笑みになる。
「ありがとう。ニコスが作ってくれるお弁当は最高に美味しいもんね。味わっていただきます」
嬉しそうにそう言ってしっかりと包みを抱きしめたレイの言葉に、ニコスも笑顔になる。
「タキス殿、ニコス、ギードも、世話になったな」
ここで、陛下がゆっくりと近寄ってきてタキスに右手を差し出す。
「ここでの滞在をお楽しみいただけたようで安心しました。陛下のご健康とますますのご活躍を、遠きこの地より日々祈らせていただきます」
差し出された右手を握り返しながら、少し戸惑うように、それでもしっかりと顔を上げたタキスが笑顔でそう答える。
それからルークとヴィゴとも挨拶を交わし、最後にもう一度レイとしっかりと抱き合ったタキスがゆっくりと下がる。笑顔のニコスとギードも、それに続いて下がる。
「では、行くとしようか」
陛下の言葉にルークとヴィゴが頷き、お弁当の包みを持ったレイも真顔で頷く。
それぞれの竜の背に上がり、レイはお弁当の包みを鞍の横にある袋の中に入れて口を閉じる。
「それじゃあね! 行こう、ブルー」
並んで自分を見上げているタキス達に笑顔でそう言って手を振ったレイは、顔を上げて小さく深呼吸をしてからブルーの体をそっと叩いた。
「うむ、では行くとしようか」
大きく翼を広げたブルーが最初にゆっくりと上昇していき、陛下の乗るルビーがそれに続く。
ルークとヴィゴの乗る竜達がそれに続き、ブルーを先頭にその後ろにルビーが、その左右にルークの乗るオパールとヴィゴの乗るガーネットが付く。
綺麗な編隊を組んだ竜達は、全員が見守る中を竜の背山脈に向かってゆっくりと飛び去って行った。
「行ってしまったな」
「そうだな。寂しくなるな」
上空を見上げたままのギードの呟きに、同じく空を見上げたままのニコスもそう呟く。
「でも、元気でいてくれればもうそれだけでいいですよ」
同じく空を見上げたままのタキスの呟きに、二人も笑顔で何度も頷いていたのだった。




