エイベル様のお墓について
「一応、改まった服で、との事でしたからこれにしましたが、良かったようですね」
一旦それぞれの部屋に戻り着替えを終え、廊下に出たところで隣の部屋から出てきたニコスを見たタキスが、胸元を引っ張りながら苦笑いしてそう呟く。
立ち止まったニコスが、安堵のため息を吐いているタキスを見て苦笑いしている。
「ああ、それでいいよ。今回は、墓参りといってもそこまで改まったものでは無いから第一級礼装までする必要は無いって」
「それを聞いて安心しました」
顔を見合わせて小さく吹き出した二人は、揃って一旦ギードと合流する為に居間へ向かった。
タキス達は、先ほどまで着ていた農作業などをする為の普段着ではなく、オルダムの街にいた頃に出かける際に着ていた外出着を着ている。これは、元々シヴァ将軍が準備してくれた服のうちの一つだ。
すでに居間に来ていたギードも同じく、オルダムにいた時に着ていた外出着に着替えている。
「お待たせ!」
そこに、真っ白な竜騎士の制服に着替えたレイが駆け込んできた。
「あれ? 普段着ているのと装飾品が違うんだな」
そんなレイを見て、ニコスが目敏く違いに気付いてそう尋ねる。
「さすがはニコス、よく気がついたね。えっと、これは準礼装みたいな感じかな。神殿での祭事に竜騎士として参加する時や、今みたいにちょっと改まってお墓参りに行く際なんかに着る服だよ。ニコスが言った通りで、服は普段着ている制服と同じで、装飾品だけが違うんだ」
レイが、襟元についている襟飾りを見せながら笑う。
これは、降誕祭でギードから貰ったルビーを使ってロッカにお願いして作ってもらったものだ。
それに気付いたギードも、それを間近で見せてもらって、さすがはロッカ殿だ。見事な細工だと言って感心していた。
しばらくして、同じく準礼装のルークとヴィゴが居間にやって来る。
「えっと、お墓参りにはシヴァ将軍やシルカー伯爵も一緒に行くんだよね? 誰の竜に乗ってもらうんですか?」
上の草原にはブルー達が来てくれているので、当然陛下も含めて自分達は竜に乗って行く。
タキス達はいつものように自分と一緒にブルーに乗って貰えばいいが、シヴァ将軍とシルカー伯爵はどの竜に乗ってもらうのだろう。
そう思ってルークにこっそり尋ねると、一瞬驚いたように目を見開いたルークは苦笑いしてから首を振った。
「さすがにシヴァ将軍とシルカー伯爵は竜に乗ってもらうわけにはいかないから、今回はラプトルに乗って別行動で先に行ってもらうよ。シヴァ将軍は、ここに来ている間に何度もエイベル様のお墓に参っているから場所は知っているし、もちろん護衛の者が一緒だ。念の為お二人にはシルフを付けるから心配いらないって」
『我のシルフも同行させるから、安心していいぞ』
二人だけで森に入るのを心配したが、笑ったルークとブルーまでがそう言ってくれたので、そういうものかと納得した。
その後、執事に案内された別室でしばらく待ったところで、同じく準礼装のシルカー伯爵とシヴァ将軍を従えた陛下がやって来た。
「待たせたな。では行くとしようか」
改まった服装に着替えた一同を見回して満足気に頷いた陛下の言葉にレイ達も笑顔で頷き、全員揃って外に出た。
「では、失礼して我らは先に行かせていただきます」
ここで、一礼したシヴァ将軍とシルカー伯爵がそう言って執事が引いて来たラプトルに飛び乗り、すでに準備を終えて待っていた護衛の者達と共に走り去っていった。
それを見送ってから、全員揃って上の草原へ上がって行った。
いよいよ、陛下が蒼の森まではるばるやって来た一番の目的である、竜熱症の原因の発見とその対策であるカナエ草の発見に至ったエイベル様の墓参りである。
実は、オルダムにはエイベルのお墓は無い。
当時、唯一の肉親であるタキスはオルダムから事実上の追放処分を受け生死不明。
タキスにも、それから当時すでに故人であった母親のアンブローシアにも近しい親族はいなかった。
その為、白の塔で研究の為に必要な様々な組織の採取を終えたエイベルの亡骸は、慣例通りに女神オフィーリアの神殿に引き渡され、無縁神と呼ばれる身元引受人のいない遺体として扱われ、神殿が定期的に行っている合同葬にて弔われている。
この場合、基本的にこの世界での一般的な弔い方である個別の土葬と違い、ご遺体はまとめて火葬され、その灰を神殿内にある無縁神の墓に納められるので個別の灰すら無い。
その後の丸一年に及ぶ様々な研究の結果、竜熱症の原因や対策としてのカナエ草の有効性などが発見される事となった。そしてお墓が無いエイベル様への謝罪と心からの感謝を込めて、女神オフィーリアの神殿にエイベル様の像が作られる事となったのだ。
最初は単に白の塔からの寄進としてのエイベル像だったが、事情を知った軍関係者が最初に感謝を込めて参り始め、それを見た一般の人達も女神の神殿に参った際に同時にエイベル像にも祈りを捧げるようになり、次第にエイベル様は人々から十二神に次ぐ神、特にエイベルが子供であった事から、十二神の一人であるマルコット様と同じ子供の守り神としても扱われるようになっていったのだ。
エイベル様のお墓に陛下が参りたいと切望していたのには、実はそんな裏事情があるのだった。




